第117話
◆岸元美波 視点◆
秋分の日の今日は久しぶりに冬樹と遊びに行く予定ができたので新しい服を買いに行こうかと思っていたところに二之宮さんから誘いがあり、新しい服を見に行こうと思っていると話したら一緒に行こうという話になった。
「おまたせ。待たせちゃった?」
「いいえ、私も今さっき着いたばかりです。
それに、まだ約束の時間になっていませんし、気にしないでください」
「そうは言っても、待ち合わせると二之宮さんがいつも先に来てるから悪いなって気分になっちゃって」
「本当に気にしないでください。私は余裕を持って行動するのが趣味みたいなものですから」
「う~ん、そう言うなら・・・」
「それにしても、やっと涼しくなってきましたよね」
「そうだね・・・」
挨拶を交わしてからショップを見て回り始めると、多くが秋冬物に変わっていて明日着ていくには重たいものばかりという感じで空振りだったかなと思っているという話を二之宮さんにすると、その分は足で稼いで多くの店を見れば良いと普段見ないようなお店も含めてたくさん巡ってくれた。
その甲斐あってなんとか明日着るための新しい服を満足行くものを選んで買うことができた。
服を買うという目的を達成できたので、休憩を兼ねて遅めのお昼ごはんを摂るべく二之宮さんのお勧めのおしゃれなお店に入った。
「このお店は休日でもディナータイムの直前までランチ営業をしているから、この時間に入るのには丁度よいのですよ」
「雰囲気がいいけど、けっこう高そうだよね」
「ええ、ディナータイムだとけっこういい値段がするのですけど、ランチだと私たち高校生でも手が出しやすいリーズナブルな値段で食べられるんですよ。
ほら、メニューを見てみてください」
「ほんとだ。けっこう安いね」
「ちなみに、これがディナーの価格帯です」
そう言いつつ、二之宮さんはスマホの飲食店情報サイトの画面を見せてきた。
「わっ。これはなかなか良い値段だね」
「ええ、でも値段に見合った料理なのですよ。
そして、ランチはそのクオリティが基準でお手頃価格になっているので気に入っているのです」
「たしかに気に入るよね。でも、こういうお店をよく知ってるね・・・」
他愛のない話をしながら美味しい料理をいただいて落ち着いたところで雑談を再開した。
「ところで、どうしてわざわざシーズンが終わるこのタイミングで新しい服を買おうと思ったんですか?」
「急なんだけど、明日気合いを入れたいお出掛けをする事になってね」
「そうなんですか。それって神坂君とのデートですか?」
「冬樹とデート?
・・・したいけど、今はお姉ちゃんと付き合ってるしそれはないよ」
「じゃあ、なんなのですか?」
「えへへ、ナ、イ、ショ」
冬樹たちに注意されていたから警戒していたけど、たしかに二之宮さんはさり気なくわたしに探りを入れてくる。
切り出し方が自然だし、深読みしなければ普通の会話みたいなものだからついつい話してしまいそうになるのは頭の良さを感じる。
わたしは運良く周囲にお姉ちゃんや冬樹達がいるから学校の成績だけは引き上げてもらっているけど、こういう地頭の良さみたいなのはないんだよね。
「良いじゃないですか?
いじわるしないで教えてくださいよ」
「まぁ、春華ちゃんとちょっと遠くまで出掛けるだけなんだけどね。
色々あって久しぶりだから、不意を突いて差を付けて驚かせようかなって思ったんだ」
「そうだったんですか」
つい余計なことを言ってしまって興味を引いちゃったけど、誤魔化せたかな?
とは言え、春華ちゃんと出掛けるのも本当だし、嘘を言う時は本当のことを混ぜた方が真実味が増すという話みたいにできたかな?
◆二之宮凪沙 視点◆
最近でも会っている同性の幼馴染みと出掛けるのに、ましてやもうすぐ涼しくなるのがわかっていて秋冬物が展開しはじめてしばらく経っているこの時期にわざわざ新しい夏物の服を買いませんよ、岸元さん。
恐らく春華さんもいるのでしょうけど、そこに冬樹もいるというのが真実でしょう。
そうですか。明日は冬樹と春華さんと出掛けるのですね。
今なら美晴さんもついてくるでしょうし、そうすると夏菜さんもいるかもしれないですね。




