第109話
◆神坂冬樹 視点◆
翌日に敬老の日を控えた3連休の真ん中の日曜日、なぜか成り行きで美晴さんと共に美晴さんの実家へ来ている。
美波が二之宮と遊びに出掛けて不在なのを良いことに、美晴さんが小母さんに美波の現状について相談することが主目的だったのだけど、小母さんから僕の顔も見たいから来て欲しいと誘われ、断る理由もないので同行したと言う流れだ。
「冬樹君とゆっくり話すのは結構久しぶりになるわね。
それに、美晴と付き合い始めたんですって?」
「そうですね。ご無沙汰してしまって恐縮です。
また美晴さんとお付き合いさせていただく事になったのに、ご挨拶が遅くなって申し訳ないです」
「いいのよ。知らない仲じゃないのだから。
それに、又聞きしかしてないけど色々あったのもわかっているし・・・
こっちへは来づらかったでしょ?」
「ご推察いただいている通り、実家へ顔を出す勇気が持てなくて・・・」
「しょうがなかったと思うわよ。
ただね、ここのところの穂奈美さんを見ていると気の毒に思うわね」
「母さんが?」
「ええ。冬樹くんとの関係だけでも大変だろうに、ここにきて春華ちゃんが不登校になって、夏菜ちゃんの入院でしょ。
結果的に春華ちゃんはすぐに学校へ行くようになったし、夏菜ちゃんの怪我も大したことがなくて良かったけど、母親としてはどうしても、ね?
本人が思う以上にこどもに起こる一つ一つが親にはずっしりくるのよ。
そういう意味ではわたしも美波のことでは悩んでいるのだけどね」
「すみません・・・」
「冬樹君が謝ることじゃないでしょ。あの娘が悪いのよ。
ちゃんと冬樹君の事を信じてあげてれば良かったのに周りに同調して冬樹君と距離を置いて勝手に孤立してドツボにはまったのだから・・・
こう言っては難だけどね。美波の事は冬樹君に任せたかった想いがあったの」
「ええ?何でですか?」
「あの娘って、危なかっしいじゃない。
それをしっかりした冬樹君が支えてくれれば良いなって思っていたのよ・・・もちろん、私の勝手な想い、ね?」
「お母さん、彼女の前でひどくない?」
「ごめんなさいね。でも、つい最近まで冬樹君も美波のことを憎からず思ってくれていたでしょ?」
「それは・・・はい」
「そういうのもあったわけ。
もちろん、今では美晴の事を大事にして欲しいのが一番よ」
「はい!それはもちろん!」
「ありがとう。美晴の母親としては最良の相手を捕まえてくれてホッとしているわ。
ただ、美波は心中穏やかじゃないわよね、ふふっ」
「それで、お母さん。美波のことなんだけど・・・」
そこから、美晴さんを主に僕は補足で言葉を挟む感じで最近の美波についての話を小母さんへし、二之宮に注意をしてほしいという話をした。
「二之宮さん、最近よくうちへ来て美波と一緒に勉強をしてくれて助かっているし、礼儀正しい娘という印象だったけど、そういう面もあるのね」
「今の段階ではあくまで状況からの推測というのもあるので、今すぐ拒絶して引き離すのは良くないと思いますけど、注意だけはして欲しいです」
「そうよね。たしかに先入観の偏見はいけないけど、だからと言ってパパ活をするような娘と一緒に居て悪影響を考えないのは親としてダメよね。それとなく注意するようにするわ」
そこまで理解してもらったところで、美晴さんが小母さんとふたりきりで話したいことがあるというので、ひとりで先に岸元家を出て近くのカフェで美晴さんを待つことになった。
岸元家を出てすぐ隣の実家のドアを見て、何とも懐かしい気持ちになった。
◆岸元美晴 視点◆
「お母さん、美波本人から直接聞いてないんだけど、あの娘が堕胎したって本当?」
「本当よ。あの娘、美晴にも言ってなかったのね。
夏休み前の事件で望まない妊娠をしてしまってね・・・」
「夏菜ちゃんも偶然知ったみたいだったし、美波は誰にも言ってないみたいね」
「そうね、あなたと夏菜ちゃんに言ってないのならそうでしょうね。
それは少し心配ね。
夏菜ちゃん達は知ってそうだったから美波が言ったものだと思っていたけど、それが偶然だったなんて・・・」
「そういう意味でも、あの娘は危なっかしいから、お母さんはちゃんと見ててあげてね」




