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【改題】トゥラーン大陸年代記 ~自由の歌~  作者: 東条崇央
第一部 第二章 旅立ち
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閑話3 エリーネルの気持ち

都合により、第五話の前に閑話を挟みます

 今日は心臓がとまるかと思ったわ。

 だって、もういちど会いたいと思っていたあの人がうちの宿にやってきたんですもの。

 夢のようだわ。


 そう。あの人とはじめてあったのは今から五年前。わたしが十歳の時の事。


 神樹の祝福へ向かうのにタリオンを出た時、わたしはどの精霊の契約することになるんだろう?ってすっごくワクワクしていたの。希望はあったわ。水の精霊と契約したかったの。だってうちのように宿屋をやっていると水くみがものすごく大変だから。

 水の精霊と契約できたらうちの手伝いがもっとできるようになると思っていたわ。


 そんなことを思いながら旅をして十日目。ニテアスに着いた時にあの子が乗ってきたわ。若くて綺麗なお母さんと一緒だと思っていたんだけれど、後から聞いたらお姉さんなんだって。二人はすっごく仲が良くてお姉さんがめちゃくちゃあの子を可愛がっているのが傍目で見ていても伝わってきたわ。


 栗色のサラサラな髪がとても綺麗でわたしもさわってみたいと思った。お姉さんがいつも撫でているようにわたしもやってみたかったなぁ。

 だってすっごく気持ちよさそうな髪の毛だったのよ?

 もちろんそんな機会なんてなかったけどね。


 馬車の中では気になってついついあの子を見ちゃってたの。そしたら、お姉さんの膝枕で寝てたあの子が起き上がったこっちを見た時に目があってしまったのよ。

 吸い込まれそうな深い瞳で思わずじっと見つめちゃったわ。彼もじっと目をあわせてきたの。急に恥ずかしくなって目を伏せちゃったけど、こんな気持ちあの子に伝わっちゃったらどうしよう。すっごく不安になってお母さんの腕にしがみついたわ。

 それでも気になってちらちら見ちゃったんだけど、あの子はお姉さんと何か話をしていたわ。きっと伝わってない。大丈夫。


 ところがエルウェンデに着いた時にお母さんがあの子達と一緒に食事をなんて言い出すものだから、どうしていいのかわからなくなったわ。

 黙って座っていても顔は火照るし心臓はドキドキ言ってるし。もう大変だったのよ。

 なんとか自己紹介して少しお話できるようになったから、最初はなんてことしてくれるのよ!ってお母さんを恨みかけたけど、ちょっぴり感謝してる。


 あの時以来、馬車の中でも少しお話できるようになったわ。名前も教えてもらった。リン。リンランディア君っていうのよ。

 私はエリーネル。名前覚えてくれたかしら?


 それからは長い馬車での旅が本当に楽しくなったのよ。

 だってあの子が私を見て笑ってくれるんですもの。


 テライオンがだいぶん近くなってからの小休止の時にあの子の姿が見えなくなったのは本当に驚いたわ。いつの間にか居なくなってて護衛の人たちも捜索にでようとしていたの。そしたら……あの子ったら探しにいったお姉さんと一緒に子猫を拾って帰ってきたのよ。


 あの笑顔、かわいいんだけど……すっごく可愛いんだけどあの時ばかりはちょっと憎らしいとも思ったわ。わたしがどれだけ不安だったと思ってるの?

 でもやっぱり憎めない。


 連れて帰ってきた子猫はエフイルっていうの。すっごく賢くて人懐こい子なのよ。

 エフイルちゃんのお陰であの子との距離も更に縮まったと思うわ。


 儀式の当日は本当に大変だった。あの子の番になったときに倒れちゃったのよ。

 しかも六属性全部の精霊が契約しちゃったせいなんだって。

 そんな人聞いたことないしびっくりしたわ。

 わたしがどうだったのか?って言うとね。

 希望通り水の精霊と契約できたのよ。それと光の精霊。

 花壇の水やりをやったらお花も元気に咲くようになったわ。


 それからそれぞれの里に戻っていって、もう一度会いたいと思っていても簡単には会えない状態になったわ。もしかするともう二度と会えないのかもしれないって思っていたの。


 彼が一階の食堂に入ってきた時には信じられなくて呆然と見ていたわ。

 それからお母さんの声が「挨拶しなさい」って聞こえて、でも噛んでしまった。

 すっごく恥ずかしかったけれど彼は流してくれて普通に挨拶できたの。

 彼は愛称の『エリー』って名前で呼んでくれたわ。とても嬉しかったの。彼はちゃんと私のことを覚えていてくれたのよ。

 足元にエフイルがいたけれど、この五年で信じられないくらい大きくなっていないの。たぶん拾ってきた時のままだと思うわ。こんな事ってあるかしら?


 お母さんのところで、セミリオン様が手続きをしていたのだけれど、数日うちの宿に泊まっていくらしいわ。盗み聞きなんてちょっとはしたないかな?と思ったけれど、だって気になるんですもの。仕方ないわよね?


 あまりの嬉しさに必要もないのに夕飯の用意ができたお知らせにお部屋に向かったら、中から声が聞こえてきたの。

 『「あのエリーネルって娘、リンの事気にしてるみたいだけど、リンはどう思ってるの?」

 「え!?どうって……」

 「儀式いくときも同じ馬車で仲良くしてたじゃない?久しぶりにあったらすっごくかわいくなってたし」

 「そ、そうだね。はじめて出来た同年代のお友達かなぁ?」

 「それだけ?」

 「ん~……。大人っぽくなったっていうか可愛くなったとは思うよ」』


 思わず聞き入っちゃったけど、嬉しくて舞い上がりそうになったわ。

 だって『可愛くなった』だなんて……。


 今夜は嬉しくって眠れないかもしれないわ。

 でも明日も仕事だし早くねなきゃ。


挿絵(By みてみん)


 そこまで書いてエリーネルは羽根ペンを置いた。

(『エリーネルの日記より』)

お題の10代少女の気持ちになりきるっていうのが難しすぎて

逃げてしまいたい。

なんとかやり遂げたけれど、うまく伝わっただろうか?


今回の登場人物のまとめ

・リンランディア リン フィンゴネル家の養子、本作の主人公

・カレナリエル カレン フィンゴネル家の長女、猟師

ーーー

・セレミオン タリオンの長老フラドリン=チェフィーナの腹心

・エリーネル オロンとアネルの娘、金の兎亭の看板娘


次回、第五話 決意

2023/4/8 15:00 更新予定

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