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ZARUZAN  作者: 遥々岬
第一章 富ノ國
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死ノ國のザルザン

ファンタジー要素を強くした連載に挑戦です!

ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。


 花が咲き乱れる美しき國。

 その名を『富ノ國』という。

 

 花壇の花々が用意された場所からはみ出し、石畳の道の隙間に根を張り咲いていた。

 晴れやかなる午後。

 街のいたる場所からは、楽しそうな笑い声が聞こえる。


 花の瑞々(みずみず)しくも甘い香りを通り過ぎゆくは、多彩色に溢れる街並みとは似つかわしくない二つの影。富ノ國の外からやって来た者である。

 夜空のオーロラを彷彿(ほうふつ)させるとんびコートを着た一人は、目深く被ったフードの端に小さな鈴をつけており、その者が歩く度に小さくも涼やかな音が鳴り響いた。

 もう一人の人物は子供のような背丈をしており、これまたコートのフードを目深く被っていた。

 二人の人物の暗い装いは、街の明るさと比べると朝と夜ほどの明暗差が目立った。


 珍妙な出で立ちの来訪者の目的は、女王との拝謁(はいえつ)であった。

 本来であるならば、そう簡単には女王になど会えるはずもない。しかし、鈴を鳴らし歩く一人に与えられた世界の役割がそれを許した。


 まるで幸福を体現したような街の有様に、鈴を鳴らし歩く人はもう一人の小さな背中に手を添える。すると、背中を撫でられたもう一人は、ゆっくりと頷いた。

 甘い香りが鼻を掠める度に、来訪者は眉を(ひそ)めるのであった。


 

 第一章 富ノ國

 

 

 どうやら、この國は滅多に物騒な出来事が起きることがないらしい(・・・・・)

 何故そう考えられるかというと、この城の兵士は槍を手に持てども鎧を着ることもせずに、珍妙な来訪者を玉座の間に案内しているからだ。

 しかし、二人を盗み見た兵士の表情は(いぶか)しげであった為、怪しむ気持ちは持っているようである。


 扉が重たい音を立てながら開けられる。

 遠くに見えるは玉座。

 部屋の上方を囲むようにして作られたステンドグラスが、女王の姿を隠していた。

 玉座に続く道を挟むようにして”ラフな格好”をした兵士が、一丁前に槍を手に持って立っていたが、二人の来訪者はそれに威圧されることもなく、実にゆっくりとした足取りで女王の元に歩みを進めた。


 ――リリィン、……リリィン

 

 来訪者が歩くたびに鈴の音が鳴る。

 緊張しているのは女王でも、来訪者の二人でもない。

 得体の知れない存在を目の当たりにして、それを黙って見守っている兵士たちの方がよっぽど緊張していた。

 来訪者は王座よりも遥か下で立ち止まると、両膝をついて顔を伏せる。すると、二人の顔はすっかり隠れてしまった。


 ある老兵は、女王の前であるのだからフードを被るなど不敬にあたると注意をしたかったが、部屋を包む異様な空気に圧倒され言葉を飲んだ。


「遥々、ご苦労でしたね」


 富ノ國の精霊。

 またの名を『(ひいる)の女王』という。

 女王は努めて穏やかな口調で、招かれざる来訪者を労わった。


「さあ、顔を上げて。何ようでこの國にやって来たのか、聞かせてくれますか?」


 女王から許しを得た二人は、ゆっくりと顔を上げる。

 一人は、真っ黒な瞳の中に菖蒲色の光を潜めていた。

 もう一人は、フードの中で陶器の仮面のような物を被っているのか、瞬きのひとつもせず、女王を見ているのかさえ分からない顔をしていた。


「富ノ國とは、随分と荒れた國なのだな」


 開口一番に無礼な態度を見せる来訪者に、兵士たちの一人はムッとした様子で槍の反対で床を突き、ある者は(しか)めた顔を見合わせたあと、首を傾げた。まるで、この國の何処をどう見れば荒れているというのか、と言いたげな顔である。

 花に溢れ、民の楽しげな笑い声が聞こえる國。

 そんな街の中を通ってこの場に辿り着いた筈であるのに、荒れてしまっているとはどういうことか。その場にいた誰もが、来訪者が言った言葉の意味が理解できなかった。


「そこのチビスケが役割を放棄したのか、それとも望んで女王が役割を奪っているのか」

「役割を放棄させるなど、女王である私の一存では決められることではありません。それは、貴女こそが理解していることではありませんか?」

「はぐらかそうとしても無駄だ。……どちらにせよ、このままではこの國の未来はないものと考えたほうがいい」

「ええい、口を慎め!」


 来訪者のあまりの態度に、老兵がとうとう痺れを切らすように声を荒げた。

 女王は老兵の言動を手で制し、視線によって来訪者に続きを催促する。


「……本日は別件でやって来たのだが、どうも先にこちらを優先した方が良さそうだ」

「他國のことに関与するというのですか?」

「私たちは関与しあうことがない間柄であったが、禁止されているという訳でもないだろう。……チビスケ、お前はどうして何もしていないんだ?」


 来訪者の真っ暗な瞳の中で、鈍く菖蒲色が光る。それは、まるで夜空に浮かぶ紫星雲の微睡みのようであった。

 夜空の瞳を持つ者は、まるでこの國の現状を憂うように溜息を吐いたのち、女王の傍に立っていた子供に厳しい視線を向けた。


(ひいる)は富を与える精霊であったな。その子供にも富を与え、それで満足しているのか?」


 広い部屋の中で、来訪者の声が小さくも低く響く。


「しかし、その子供には富など不用。己の役割を全うしてこその存在意義というものがある。それは、そこのチビスケにも、私にも、そして貴方にもある筈だが」

「……それで、我が國の惨状(さんじょう)を察知して、この子供の教育でも、と貴女は派遣されたのですか?」

「いいや。それよりも、もっと厄介な要件だ」

「では、如何様な訳があって他國に干渉するのです」


 女王の口元には絶えず笑みが。

 不躾な態度を取る相手であろうが、威厳を保っていた。


「死ノ國の精霊が殺された」


 静かに言い放たれた言葉に、話を聞いていた兵士は騒めき、微笑みを崩さず浮かべていた女王は驚きに目を大きく見開いた。

 老兵は、自身も混乱しているだろうに他の兵士に口を閉ざせと注意する。

 死ノ王の訃報は世界の混沌を意味していた。


 女王の額に埋まる水晶の中で虹が舞い、煌めく。


「その様子を見るに、貴方は事の重大さを理解できる様子らしいな」


 夜空の瞳を持つ者は、下から睨むように女王を見やる。


「正しく弔われなかった精霊は、花として生を繰り返すようになる。その花を得て、正しく弔い、そして再び精霊の体を与えなければならない」

「死の精霊は、見つからないのですか」

「見つからない。だから、私は死ノ國を出て、死の精霊の花を探すために旅をしている。富ノ國にやって来た理由は、この國を一時的な拠点として使うことを認めて欲しいからだ。……死ノ國の精霊が死んだ。それは(すなわ)ち、この地に生きる者は、還るべき場所を指し示す役割を失なったという訳だ。ありとあらゆる者の死後、魂が何処へ向かうべきかなのか、今や誰も分からなくなってしまった」


 色鮮やかなステンドグラスの光の中で夜空の輝きを持つ者の瞳は、暗く沈んでいた。


「それは私たちにも重大なことですね。……では、この國を休息の地にすることを許可しましょう」

「……ありがとう。助かるよ」

「用件はそれだけですか?」

「いいや、他にもある。できたと言った方が正しいかもしれない」


 そうそうに会話を終えようとする女王の口元が、一瞬だけ引き攣る。


「私は『死ノ國のザルザン』」


 ザルザンと名乗った来訪者は、まるで女王を責めるように両の目を眇め、地を這うように声を沈めた。

 足音さえよく反響させる玉座の間に、ザルザンの声が波紋を生むように広がる。


「我らは一つの國の所有物なることはない。そこのチビのザルザンも(しか)り。一つの國が亡びの道を歩もうとしているのなら、他國のことではあるが、私はそれを止めなくてはならない。……そこのチビスケが精霊を(いまし)められないのならば、代わりのザルザンが貴方を討たねばならないが、私は如何様な答えを得られるだろうか?」

「貴様……! い~い~か~げ~ん~に~しろ~!!」


 来訪者のあまりの物言いに、これまで怒鳴りたい気持ちを我慢していた老兵が、死ノ國のザルザンに槍を構えて駆け出した。

 死ノ國のザルザンは同行者に離れるように手で指示し、槍を構えて己に向かってくる老兵に対峙すべく、(わずら)わしそうにとんびコートを払うようにして立ち上がる。

 

ザルザン(われら)と精霊以外の命が、他者を殺めることは禁忌だぞ」

「承知の上での行動だ!」

 

 この世界では、精霊と死ノ國のザルザンだけは同種のみならず死傷に及ぶ影響を得ない。

 悪意を持って他者の命を絶とうとすれば、手を掛けようとした者もまた同時に息絶える事となる。

 そんなこと(・・・・・)は、この世界に生きる全ての者が理解していることであった。


 老兵は、死ノ國のザルザンの言動が許せなかったのだろう。

 死ノ國のザルザンの警告に臆することなく、槍の先を下げることなく構えた。


「えぇい!」

 

 老兵の一突きは老いなど理由にもならない程に鋭いものであったが、死の國のザルザンはそれをヒラリと受け流すと槍を自身の脇に固定した。

 老兵が槍を引こうにも、押そうにも、両手と脇で押さえられた武器が動くことは叶わず、小さく左右に揺すられた老兵は足元のバランスを崩した。

 死ノ國のザルザンが、老兵がよろけそうになった事を見逃すことはなかった。

 

「悪意とは、実に素直なものだ。私の思惑など明け透けにし、夜にさえ陽は射す」


 死ノ國のザルザンは、握っている槍を伝うように老兵との間合いを詰めると、強く叩く様に彼の肩を押した。

 老兵は後ろに倒れないように体の重心を前にして踏ん張る。

 死ノ國のザルザンは、老兵が体制を崩さないように体の重心を前方に乗せたことを確認すると、足の裏を強く蹴った。

 すると、体の支えを失った老兵はいともたやすく尻もちをついてしまった。


「くぅ……!」

 

 転んでも尚、槍を手に握り続ける老兵の忠誠に、死ノ國のザルザンは関心する。

 死ノ國のザルザンは、年齢の割に鍛えられている老兵の腕を踏みつけると、マントの下、正しくはベルトループにぶら下げていたポーチから手斧を取り出す。


「なにを……」

 

 手斧を取り出した死ノ國におザルザンに、女王や他の兵士は固唾を飲んだ。

 

「お前たちが、己の意志で誰かの腕を潰そうとしたとしよう。さすれば、(たちま)ちお前たち自身の腕もまた醜く潰れることだろう」


 演説じみたように話す死ノ國のザルザンは、手斧を頭上より高く構えた。

 誰もがこの後に起こる惨劇を思い浮かべたことだろう。

 

「やめ……!」

 

 あまりの恐ろしさに、女王は汗をかく手で拳を握った。

 音になり損ねた”やめて”の言葉は、はくはくと空気が抜けて消えていった。


「お前たちが己の意志で、他者の足を切り離そうとしたとしよう。さすれば、忽ちお前たちの足もまた、無様に切り離されることだろう」


 死の國のザルザンの視線の先に映るは、額に汗が流れるも、強い怒りを滲ませた老兵の目。


「お前が女王の忠実な兵士であるが故に、私はお前を脅威とし、どうしたって見せしめなくてはならない」

「例えお前に切り殺されようと、それは一人の兵士が勝手をしたことにすぎん! 兵士の生死など、女王さまの責にならん!」


 この状況に陥っても闘志の火を絶やさない老兵の様子に、死ノ國のザルザンは心の中で一種の感動を覚えた。


 ハヅキが愛した星。

 この世界の命は等しく在る。

 悪意を持って他者を痛めようものなら、己の身にも同じ痛みが与えられる。

 悪意を持って他者の命を奪おうものなら、相手の命が尽きると同時に己の命も尽きる。

 子らには、よく聞かせなければならぬ。

 足元をせわしなく歩く小さき命すらも、悪意を持って小さな靴の裏で踏みつぶしてはならないと。

 温情を掛けて貰えるのは、善悪を正しく理解できない子供のうちだという事を。

 

「この場にいる全ての者よ。その目によく焼き付けておけ」

 

 死の國のザルザンは、老兵の腕を踏みつけている足に力を込め、老兵の腕に手斧を勢いよく振り下ろす。

 血が飛び散ると同時に、あまりの激痛に「あぁぁああ!!!!」と悲痛な叫びが玉座の間に響いた。

 女王の美しい声が良く響く様に作られた部屋には、老兵の悲鳴がよく通った。


 死ノ國のザルザンが手斧を地面に向けて振ると、ピッと音を立てて床に血が散った。


「我らは死者のみならず、生者にも影響を与えよう」


 死ノ國のザルザンは床に膝をつくと、床に(うずくま)る老兵の切り落とした腕の付け根を掴み、腰に引っ掛けていた縄で老兵の腕を固く縛った。


「我らは死者の骨を取り出し、それを船に乗せて”大谷”に流す。さすれば骨は谷底で新たな血肉を与えられ、年齢が六つを迎えるころ、大谷を登り、橋を渡るだろう。そして、骨の記憶を辿るようにして、己が死んだ國に帰ってくる。……そうやって、お前たちは命を繰り返し続けるのだ」


 老兵の血に手を染めながら、死ノ國のザルザンは立ち上がり、こちらを見ているだけであった他の兵士を睥睨(へいげい)する。


「さっさと連れていけ。このままでは死ぬぞ」

「あ」


 死ノ國のザルザンに促され、漸く二人の若い兵士が動いた。


「まて、お前たち……!」

「さて、もう一度、先程の話を振り返らせて貰おう」

 

 部屋を出るまで、老兵は悲痛な声で死ノ國のザルザンに抗議していた。

 しかし、死ノ國のザルザンは老兵の声に反応を見せることもせず、ポーチから布を取り出すと手と手斧に着いた血を拭いた。

 老兵が退場すると、玉座の間は静けさを取り戻した。


 死ノ國のザルザンは被ってたフードを漸く払い取り、女王に向き合う。

 顎の下で真っ直ぐに切り揃えられた髪の毛は、真っ直ぐで艶やか。紫色のハイライトを浮かべた黒髪が、サラリと揺れる。

 血に手を染める姿に反して、死ノ國のザルザンは実に可愛らしい顔立ちをしていた。


「大谷に向かうことができなかった骨は花を咲かせ、一度きりの開花を遂げた後に永遠の死を迎えることになる。 街の至るところには花の甘い香りが充満していた。花壇の中で収まることなど知らないとばかりに、花が溢れていた。数えきれないほどの不幸な命が芽吹いてしまっている。もう一度だけ問うぞ。それは、何故だ」


 たかが風に花弁を散らされる花は、何を思っていたのだろうか。

 花の姿が、己が望んだ命の終わりだとするならば、それに至るまでの心情とはどのようなものだったのか。

 この場に、花の心を汲める者などいない。


「花が花の一生を終えることが幸せじゃないって、どうして思うの?」


 これまで黙っていた富ノ國のザルザンが、女王のスカートを小さな手で握りしめながら、青ざめた顔をして口を開いた。

 女王は富ノ國の死の國のザルザンを庇うように、その小さな後ろ頭を撫でる。

 

「繰り返すことこそ命ある者の習性であり本能だからだ。獣は賢い。死期が近づけば、自ずからやって我らの元に来る。本能が命の巡りを理解しているんだ」

「でも……」

「私は、花の在り方を不幸と言っているのではない。花が花として愛に満たされるのであれば、それを幸福と呼ぼう。しかし、愛を満たすこともできないまま、全てを失うことが不幸だと言っているんだ。ある者の人生が辛いものであろうが、必ずしも、その者の魂が繰り返し不幸を辿るという訳ではないだろう」


 表情も変えずに老兵の腕を切り離した死ノ國のザルザンと、自國の小さなザルザンが会話を交わしているのを見て、女王は小さく震えていた己の手を戒めるようにして握り締める。


「しかし、その者にとっての今が不幸せであるのなら、次の命の幸福など関係ないのではないですか?」

「それもまた一つの考えだろう。しかし、一つの人生によって己の運命を決めつけ、チャンスを与えられた骨や血肉を廃棄することは、実に愚かな考えだ」


 一瞬でも考える素振りを見せない死の國のザルザンの返答の数々に、富ノ國のザルザンも、女王も、死ノ國のザルザンが己の問い掛けに是を示すことはないと悟った。


 厄介なことになった。

 そう思う女王だったが、溜息を吐いてしまいたい衝動をなんとか抑える。


「…………骨を抜くというのは、解剖でもするのですか?」


 女王の質問に、死の國のザルザンは眉を寄せる。


「冗談はよせ」

「冗談など言える雰囲気ではありません」


 ザルザンは睨むように女王を見つめたが、舌打ちを我慢するように口を堅く閉じたあと、諦めるようにして口を開いた。


「紐を編み、それで陣を作る」

「魔法でも使うのですか?」

「……魔法なんて、そんなものはどこにもない」


 死の國のザルザンは、先ほど老兵の出血を止める為に使った紐を幾つか取り出すと、あっという間に縄の太さに編んでみせた。

 そして、床に両膝をつき、今しがた編んだばかりの縄で言葉通りの陣を描き、斬り落とした老兵の腕をその上に乗せる。

 

「穢れを知らぬ白き心髄(しんずい)。再び、その"芯"に血肉を得るが為に、我が手元に託されよ。巡り、巡るは、お前の骨」


 死ノ國のザルザンが口上を述べると、縄で描かれた陣が光り、斬り落とされた老兵の腕から骨が生々しい音を立てて浮き出る。


「この骨を船に乗せ、大谷に流す。そうすれば谷底で新たな血肉を与えられ、真新しく得た体は次の生を全うする」

「骨以外はどうするのですか?」

「好きなようにすれば良い。埋めようが、灰にしようが、どのみち星に還る」

「血肉を大谷に戻しても意味はないのですか?」

「ない。次を生きる為に必要なのは…………骨だけだ」


 唐突に歯切れが悪くなった死ノ國のザルザンに、女王は訝しげに眉を寄せる。


「もう、語れることなどないぞ」


 話の落としどころを作る為か、死ノ國の死の國のザルザンは首を数回だけ横に振って見せた。


「私はどうしたら良いのですか?」

「まずは、そこのチビスケの教育だ。このままではマズい」


 死の國のザルザンの横には、一時期的に距離を取っていた同行者が横に並んで立っていた。

 フードを被ったままであるもう一人は、顔を見せる意志がないらしい。


「……貴方が骨送りを行いたいということは理解しました。富ノ國のザルザンとの接触も許可いたしましょう」


 長い沈黙の末、女王は渋々といった様子で死ノ國のザルザンの要望を受け入れた。

 富ノ國のザルザンは不安そうに女王の顔を見上げる。その表情が酷く怯えているように見えて、女王は可哀そうになり頭を優しく撫でた。


「しかし、時間をください」

「何の?」

「この國のことについて。私は考えなくてはならない事があるのです」


 この時、女王は初めて苦虫を噛み潰したような顔を見せた。


 死ノ國のザルザンがこの國の惨状を見逃せないのならば、死ノ國のザルザンはて女王の提案を受け入れるしかない。

 死ノ國のザルザンはワザとらしく溜息を吐いて見せる。


「それで、私は何をして待っていれば良いのかな」

「……では、お行儀よくしていてくださいな」


 女王は、先程の老兵への振る舞いについて言っているのだろう。

 死の國のザルザンは、それもそうか、と心の中で納得し「分かった」と頷き理解を示した。


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