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異世界は危険でいっぱい

女神様にさっさと異世界に行けと言われたよ。

そしたら一瞬で景色が変わった。

さっきまで白い空間に居たと思ったら今は大草原に立っているね。


いや、立っているのはいいんだけどパジャマで裸足とかこの格好でどうしろっていうんだろう?


あっ、そういえば収納庫、収納庫に勇者の装備が入ってるって女神さまが言ってたね。


でも収納庫ってなんなんだろう?


ピコン


『収納庫はこの世界から切り離された独立した空間として用意されています。

収納庫への物の出し入れは対象物をイメージして『出ろ、入れ』と命じるだけです。

収納庫内では時間経過もほぼ無視できる程度しか存在しません。

また、収納庫内での収納物の一覧も『一覧』と念じれば頭に浮かびます』


えっ、なに、いきなり頭に浮かんだんだけど?

これって収納庫の情報だよね。

こんな風に教えてくれるんだ。

すごい、便利だよ。

さすが、異世界。

なんてファンタジーな世界なんだ。


『一覧』


僕は頭に浮かんだ指示に沿って『一覧』って念じてみる


勇者の革鎧

勇者のプレートアーマー

勇者のブーツ

勇者の剣

勇者の服

帝国金貨 10枚 

帝国銀貨 10枚

帝国銅貨 100枚 


鎧に剣か!

あとお金もあるね。


鎧は革製と金属製だね。

金属製は重そうだから革鎧が良いかな?


『出ろ、勇者の革鎧』


ピコン


『今の勇者は勇者シリーズの利用条件を満たしていません

勇者シリーズはその希少性から装着可能者でなければ収納庫から出すことはできません』


ウソ、使えないの、意味ないじゃん。


ええ〜、僕はパジャマで素足なんだよ。

この状態でどうしろっていうのさ。


心細くなった僕に周りの情景が追い打ちをかけてくる。


ぴゅう〜


大草原を風が駆け抜ける。

こんな広い場所に僕はひとりなんだ。


カサカサ、カサカサ


風で揺れる草原の草が音を奏でる。

寒い、パジャマじゃ寒いよ。


ドキッ


僕は気づいてしまう。

今の音って風のせいだよね?

何かがいるとかじゃないよね。


見渡す限りの大草原。

この広大な草原が僕は一人なんだ。


ぞわっ


怯えが走る。

体が震える。

心臓がドキドキする。


こんなのどうしようもないじゃないか!

だって僕は素手でパジャマだよ。


戦えない、戦えないよ。


ならどうする?


何もしなかったら死んじゃうよ、絶対に死んじゃうよ。


僕は周りを見渡した。

木でもあれば登ろうと思ったんだよね。

でも木なんか一本もないや。


じゃあ洞窟、隠れる場所。

無理だよ、草原しかないよ。


ガサガサ、ガサガサ


風もないのに草が揺れる。


うそ、何かいるのか?


ガサガサ、ガサガサ


僕は必死で音がする方を見据える。


いた、あれだ。

草の根元に白い塊がもぞもぞと動いている。

それは白い毛糸玉みたいに見える。

いや、うさぎだな。

でも、僕が知っているうさぎよりずっと大きいよ。


それに何だアレ、額に角が生えてるよ。

真っ赤な目は憎々しげに僕を見据えているし。

やばい、あれは愛玩動物なんかじゃない、危ないやつだ。


うわっ、お化けうさぎが飛び跳ねながら僕に迫ってくる


ドスン


お腹に衝撃が走り僕は吹っ飛ばされる。


痛い、痛い、痛い、お腹が無茶苦茶痛い。

そしてお腹を探る僕の手に生暖かい感触が伝わる。


何だこれ、真っ赤だ、手が真っ赤に染まっている。


血、血だ。


お腹からドクドクと血が流れてる。

そして少し離れたところには額の角を真っ赤に染めたお化けうさぎが僕を睨んでる。


逃げるんだ、逃げないと殺される。

僕は痛むお腹を手で押さえながら必死に立ち上がる。


急げ、急げ。

動くたびにお腹からは激痛が伝わって来る。


痛いよ、無理だよ、助けてよ。

それに逃げるって、どこに逃げるんだよ。

大草原は一面の草原で、どこも同じだ。

それでも僕は震える足を動かして進もうとする。


ズキ、ズキズキ


足が地面を蹴るたびにお腹が痛みで悲鳴をあげる。


早く、早く、早く走るんだ。

そうしないとまたお化けうさぎが襲ってくる。

あの角で貫かれる。


でもどんなに気持ちが早くって訴えても体は動かない。

僕は走ってるつもりなんだ。

でも実際は牛歩の歩み。

だから……


ドスン


今度は背中だ。

背中に衝撃が走り僕は前のめりに倒れこむ。


ガン


頭が地面に派手に当たる。


ズキ


額にも嫌な痛み。

景色が赤くなる。

目がしみる。


くそっ、額が切れたんだ。

目に血が入った。


お腹、背中、額と血が流れ出す。


ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ


心臓が動く。

そして心臓に押し出された血が更にお腹と背中から流れ出してゆく。


血の生暖かい感触が身体中に伝わって来る。

どんだけ血が流れてるんだ。


血を流しすぎると確か死んじゃうんだっけ?


ぶるっ、体が寒い。

ああ〜、眠たいな。

異世界でも眠れるんだ。


違う。


違うよ。


僕は死にかけてるるんだ。


死ぬ、死んじゃうよ。


起きろ、起きろ、起きるんだ。


でも体はもうピクリとも動かない。


ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ


心臓の鼓動が聞こえる。

その音が段々と弱々しくなってくる。


これは死んじゃうんだろうな!

だって、痛みも感じなくなってきたし、音も聞こえないや。

眠い、眠いよ、永遠の眠りってやつだ


でも思ったより死は心地良いんだね。

もう、恐怖も痛みも感じないよ。


そして僕は意識を手放した。


僕は死んだんだ。

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