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勝利と敗北

やっぱりここに来るんだな。

ベットで寝入ったらやっぱり異世界だったよ。


目が覚めたら朝で、僕は普通に自分のベッドから起きる。

そんなことを期待してたんだけどやっぱり無理だったね。

本当、眠ったと思った途端に異世界で目覚めるとかキツイよ。


二度目の異世界も一度目と同じ場所だった。

見渡す限りに広がる大草原と真っ青なデッカイ空。


でも、そんなものに感動してる場合じゃない。

ここには僕を殺した角付きの馬鹿でかいウサギがいるんだ。


僕は収納庫から異世界で生き延びるために用意した装備を取り出す。


出てこい、今度は僕が殺してやる。


僕が収納庫から出したい物を思い浮かべると、何もない空間から装備が現れる。


急げ、急いで装備を身に付けるんだ。

身体中にアドレナリンが溢れ出す。


ドク、ドク、ドク、ドク


早鐘のように鳴る心臓の音が頭に響いてくる。

死にたくないなら急いで戦う準備を終えるんだ。


いつウサギが襲ってくるかわからない。

着替えながらも、ウサギへの警戒を怠るんじゃない。

手元を見るな。

広い視野で周りを見て危険を見逃すな。

周りを見渡しながら手探りで服を着替え、靴を履き靴紐を結ぶ。


カサカサ、カサカサ


音がする、ウサギか?


違う、これは風で揺れた草が擦れてるだけ。

まだ、安全だ。急げ、急げ


着替えを終えて、最後にバールとポリカーボネートの盾を手に取る。


間に合った。


そして僕は大きく息を吸う。

心が張り詰めると息をすることも忘れてしまうようだ

少し余裕が生まれたのかな?


やっと周りの景色。見る余裕がうまれる。

異世界の大草原の景色は素晴らしいよ。

吹き抜ける風はなんて気持ちが良いんだろう。

僕は生きてそれを感じてる。


……バカだね。

そんな感傷は油断にしかならない。

また死ぬ気か。

考えを改めろ!


大草原はくそったれだ。

隠れ場所も逃げ場の無い弱っちい生き物が戦うには最悪の場所だ。


風は敵だ。

風で草が揺らぎ音を奏でるせいでウサギの気配が掴みにくい。


観光旅行に来ているんじゃないぞ。

気を張れ、僕を殺しにくるウサギの気配を見逃すな。


ガサガサ、ガサガサ


この音、これは風のせいじゃ無い。


ウサギだ!


音の方を向いて僕は身構える。


ガサガサ、ガサガサ


揺れる草の間から白い毛皮が覗く。

やっぱりウサギだ。

そして、ウサギは白い弾丸となって草の間から飛び出してくる。


「うわああああ」


大声を出して気合を入れる。


今日は死ぬのはウサギだ。

絶対に殺してやるぞ。


ドッガン


白い弾丸が僕が構えたポリカーボネートの盾にぶち当たる。


「いってえ」


盾から伝わる衝撃で僕は吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。


動けるか?

平気だ、こんなのは転んだのと一緒だ。

問題無い。


だから、立て、急いで立つんだ。


でも、脚が震えている、力が入らない。

ダメだ、立たないと。

殺されたく無いなら立ち上がるんだ。


気持ちが悪い。

吐きそうだ。


ダメだ、うつむくな。

ウサギを見るんだ。

目を離すな。


盾に弾かれたウサギはもう体勢を整えてじっと僕を見つめている。

来るのか?

まだ動かないぞ。

僕を警戒していて襲うタイミングを計ってるんだ。


まだだ、まだ来るな。

そう念じてウサギの目を睨みつける。

動くな、動くなよ。


ウサギを睨みつけながらバールを杖代わりになんとか立ち上がる。


ぐらっ


立ち上がった瞬間、体が揺れた。

ウサギはそのチャンスを見逃さない。

白い弾丸になって突っ込んでくる。


どうする?

盾で受けても吹っ飛ばされるぞ。

正面から受けてはダメだ。


ウサギが盾に当たる一瞬前。

僕は片足を引いて半身の姿勢になる。


ドッガン


ウサギが盾に当たる刹那、盾の向きを半身の体に合わせて変える。

ウサギは盾に流されるように弾かれて、斜め後ろへと飛んで行く。


やった、うまく力を逃がせた。


でも、終わりじゃない。

だから体を動かせ。

ウサギと向き合え。


僕は体をひねって盾をウサギと正対させる。


速い、ウサギはもうこっちを向いている。


そしてウサギは白い弾丸になってまた飛び込んでくる。

そのウサギの突進を再び盾で受け流す。


そんなウサギとの命をかけてやり取りが何度か続く。


パリン


なんの音だ?


どこからの音だ?

盾だ、盾が割れている。


割れるのか?

ポリカーボネイトの盾なんだぞ!


もう、盾は役に立たない。

ウサギの突進を受け止める手段はない。


くそ、ここが命の賭けどころか、僕は割れた盾を手放してバールを構える。


一か八かだ。

こいつをお前の脳天に叩き込んでやる。

僕が死ぬか、お前が死ぬかだ。


「こい、くそウサギ」


僕の挑発が効いたのかウサギが一直線に飛び込んでくる。


見える、見えるぞ。

ウサギの動きがスローモーションのように見える。


突っ込んでくるウサギの軌跡がハッキリとわかる。

その軌跡から避けようと僕は身体を動かす。


速く、もっと速く動けよ、僕の身体!

あいつを殺せるポジションまで動け、動くんだ!


気持ちは急くがスローモションの様に流れる時間の中では体は緩慢にしか動かない。


それでも僕は体をウサギとの衝突コースから外すことに成功する。


僕の体の横をすり抜ける白い弾丸、違うウサギだ。

今はちゃんとウサギって見えてるぞ。


僕を殺そうとする凶暴なツノ、大きく空いた口からのぞく牙、ウサギの真っ赤な目も見える。


やれる、やれるぞ!


速く、速く、速く体を動かすんだ。

軋ませるように体を動かしてウサギに向けてバールを突き刺す。


尖ったバールの先がウサギの目に近づき、吸い込まれてゆく。


ガッツン


急にスローモーションの世界が終わる。

腕に衝撃が走りバールが持っていかれる。


やばい、武器が奪われた!


ドシャア


地面に激突したウサギが地面を転がる。


僕のバールがウサギに突き刺さっているのが見える


ビクッ、ビクッ


地面に寝転ぶウサギの体が不自然に動く。

真っ赤な血がウサギを中心に広がってゆく。


殺ったのか?


ゆっくりとウサギに近づいて蹴飛ばして確認する。


ぐじゅ


物言わぬ肉塊となったウサギが転がっている。


死んでる、死んでるぞ!


やった、やったぞ、ウサギを倒したぞ!

身体中から力が抜けて膝をついてしまう。


ガサガサ、ガサガサ、


草が激しく擦れる音が四方から聞こえる。


嘘だろう!!


白い塊が正面と左右から飛び出してくるのが見える。


盾、それとバール。

攻守の武器、僕はどちらも失っている。


ドガ、ドガ


成す術の無い僕の体にウサギが体当たりする。

そしてウサギの角が僕の肉を抉る。


痛い、痛い。


太ももには大きな穴が開き血が吹き出している。

でも、お腹は坊刃ベストのおかげで打撲で済んでいる。

お腹に穴は開いていない。


まだ戦える、戦え、戦うんだ

立ち上がれ、立ち上がるんだ。


そんな僕の想いをあざ笑うかのように目の前に白い弾丸が迫る。

また、時間の進みが遅くなる。

回避だ、回避だ。


ウサギの角が顔に近づいてくる。


ダメだ、今度は間に合わない。

ウサギの角がスローモーションの様に近づき目に飛び込んでくる。


「うぎゃああああ」



目にツノが突き刺さる。

激しい痛みで僕はのたうち回る。


でも直ぐに何も感じなくなる。


ああ……僕はまた死ぬんだ。


そして僕は意識を手放してしまう。

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