第75.5話 オスニア王宮(その1)
短いです
『たっ・・・大変にございます』
初老の女性が飛び込んできた。彼女の名前は、エリーザベート・ド・バンドニア。この国の南東伯に使える参謀である。彼女が飛び込んできた部屋には、一人の男・・・痩せた20代の若者が、豪華な机に山のような書類を積み重ね、確認しながら署名していた。その男は、アストラル・ド・ゴンドア・・・そう、文明崩壊したこの大陸にあった王家の末裔である。もっとも本家ではなかったそうで、オスニア国成立の際、彼の先祖が
『ゴンドアの南東伯である』
と名乗ったことから、オスニア国では、国王のことを南東伯と呼ぶのである。
『エリー。一体どうした?そんなに慌てて』
アストラルは、エリザベート・ド・バンドニアのことをエリーと呼んでいる。元々、彼の家庭教師であったのだが、彼が南東伯に就任する際、参謀として招き入れたのだった。
『南東の森が解放されたらしいのです!!』
エリザベートは叫んだ。アストラルは手にしていた書類を置くと、
『それは重要だ。詳しく説明してくれ』
と机にあったコップに水を入れ、エリザベートに差し出した。彼女は、それを一気に飲み干し、コップを持ったまま膝に手を置いて大きく息を吐く。
『はい。つい先ほど、冒険者ギルドからの報告によりますと・・・』
エリザベートは、ローカの冒険者ギルドからもたらされた内容を説明するのだった。
『それが事実であれば、直ちに調査をしなければならないな・・・』
(インゴニアからやってきた冒険者が南東の森にあるクバ山が古代遺跡の訓練所であることを発見、その東にある旧ドニアの街にあった瘴気発生装置を破壊したため、森に多数いた魔物は消滅する見込みであるなど・・・確かに先祖から伝え聞いた話によると、ドニアという街があったらしいが・・・)
彼の先祖は、シャールカの叔父が始祖である。王弟であった彼は、南東の統治を命じられてクラトに来たのだった。魔物が溢れたとき、彼はイパラにあった堅固な要塞に助けられ、辛うじて生き残った人の1人であった。南東部にはヒャッケラキアが出なかったことも生き残った大きな理由ではある。
『調査隊を2つ編成してくれ。1つは、近衛騎士の中でも最強を選んで訓練所を調べさせろ』
『クリアさせるのですね』
アストラルの指示にエリザベートは納得したように言葉を返す。
『そうだ。ロディア国やアントラニア王国で魔物が街を襲ったりしているらしいからな。我が国も強化が必要だ』
『承知しました。近衛騎士に調査隊を出させましょう』
アストラルの言葉にエリザベートは納得しながら答えた。
(賢王になってくれた)
エリザベートにとって、アストラルそのものが家庭教師としての成果物であり、そのアストラルが賢王であることが彼女の自慢であり、希望であった。
『もう1つは、学者も入れてドニアの街を調べさせろ。本当に安全なのかの確認と、何か今の世の中に活用できるものがないか調べさせるのだ』
『わかりました。アカデミーに話をして調査隊を編成させます』
アストラルの指示を実行するためにエリザベートはで部屋を出ていこうとすると、
『ちゃんと護衛もつけろよ』
背中からアストラルの声が聞こえた。
・・・
エリザベートが出ていった後、アストラルは奥の部屋から1冊の本を出してきた。それは始祖と言われる、アギリール・ド・ゴンドアの日記である。その日記には詩織が1つ挟んであった。アストラルは、その詩織の頁を開いた。
1020年11月20日
ドニアから不審な資材搬出が確認された。一行は砂漠に向かったことまでは分かっている。瘴気発生装置の研究など馬鹿げている。最悪の事態になる前に、やめさせなければならない。だが、陛下直属の研究所なので手が出せない。兄に手紙を書いたが読んでくれるだろうか。
日記は、この後も続いているが、アストラルはこの記述が気になって仕方がなかった。
(砂漠に何かあるはずだ)
次回は1/29の予定です。




