第63話 ノロッペ
ノロッペの街壁にある南門で、暇そうにしている門番に冒険者カードを見せて街にはいる。
『あいつ、まともに見てにゃいな』
『興味なさそうでしたね』
『この街では確認していないではないか』
門番の興味なさそうな態度に3人はそれぞれの意見をいっている。途中、走ってきたため、魔物を倒すこともしてなかった。そのため換金する魔石もないが、金貨は十分あるので問題はない。
『さかなさかな~。さかなが食べたい~。さかなさかな~!!』
ネオは頭の中が魚でいっぱいらしい。メリアとシャールカは呆れている。
『そんなに魚が欲しければ、港にいったらいいのでは』
メリアの一言で行先は港になった。
・・・
港の市場は、既に夕方だったこともあり、競りなどはしていなかったが、街人向けの市場は、買い物客でにぎわっていた。
『さかなさかな~。あじの干物はないかにゃ』
目指すはあじの干物。ネオが一番美味しいものと信じているものであった。通りの左右の店を見ながらネオはが歩いていくと、それは簡単に見つかった。
『このあじの干物が欲しいにゃ』
店の店員らしきおじさんにネオがいうと
『おう、どれにする。』
『ここにある全部欲しいにゃ』
ネオの言葉に、目を向いて驚くおじさん。
『本気か?』
『本気にゃ』
ネオが真剣なまなざしにおじさんに答えると、
『よし、解った。入れ物はサービスしてやろう』
そういうと、店の奥から大きな木箱が出てきた。この店にあるあじの干物を全部出してきたらしい。店頭に出していた分も木箱に入れると
『金貨1枚だ』
おじさんは勝ち誇ったようにいった。
(こんなに出てくるとは思っていなかっただろう・・・ちょっと困らせてやろう・・・)
にやけるおじさんに
『ありがとうにゃ』
そう言って、金貨をおじさんに渡すと、木箱を担いで行ってしまった。
『えっ?』
あっけにとられているおじさんを置いて、ネオは、少し離れているところにいたメリアとシャールカのところに行って、
『たくさん手に入ったにゃ』
と上機嫌である。
メリアとシャールカは呆れながらその姿を見ていた。
・・・
『どこか、飯の旨い宿を紹介してほしいのにゃ』
あじに干物が入った木箱は、路地に入って人が見ていない隙を狙って、アイテムボックスに収納したが、宿の宛てがなかったので、冒険者ギルドに来ていた。
『ここは、宿泊紹介所じゃないんですけど・・・』
応対したカウンターの女性は困惑している。
『せめて、討伐依頼でも受けていただければ・・・』
ぼそぼそつぶやく女性に
『何か、面白い依頼があるのかにゃ』
つい言ってしまったネオに、カウンターの女性の顔はにやけた。
『はい。引き受けてくれる人を探していた依頼があるのですが、受けてもらえませんか?』
『わかったにゃ。どんな依頼にゃ』
内容も聞きもしないで、引き受けてしまったネオであった。
・・・
『ネオよ。依頼を受けてもよいが、内容は聞いてからの方がいいぞ』
『そうですよ』
シャールカとメリアは呆れ果てていた。
『すまんにゃ』
ネオもさすがにまずかったと思っているようだった。
依頼は港に夜現れるシーサーペントを討伐してほしいというものだった。
シーサーペントというのは、このあたりに最近出没する蛇のような生き物で、何故か最近、この港付近に姿を現して暴れるらしい。夜にしか現れないが、夜の漁は危険なので中止になっているという。港には堤防が出来ており、その先端で槍と矢を構えた兵士たちが港を守っているが、シーサーペントには全く通用しないらしい・・・。
『結果、宿は要らなくなったけどな・・・』
堤防の先端にやってきたシャールカは、槍を持って、見張っている兵士を見ながらつぶやいた。
『いつも出てくるのかにゃ』
見張りの兵士たちにネオが訪ねる。
『ここ3日ほどは見かけなかったから、今日あたり出てきそうだな』
一番ネオの近くにいた見張りの兵士は、嫌そうにいった。
『俺たちに出来るのは、槍を投げ、矢を放って港に入らないようにするだけだ』
話を聞く限り、シーサーペントには、投げた槍も矢も通用していないらしい。だが、反撃はされず、しばらく周囲を泳いでいるらしい。但し、船を見かけると、狙ったように攻撃するそうだ。
『だから夜は船が出せないんだよ』
残念そうに兵士はいう。
『昼間漁をすればいいのではないのかにゃ?』
無理に夜に漁にいく理由を知らないネオが兵士にいうと
『イカがとれないんだよ。夜、船につけた明かりに寄ってくるイカをとらねえと、俺たちは生きていけねえんだよ』
兵士たちは、イカ漁に行く漁師だったらしい。シーサーペントのせいで漁に行けないので、兵士のアルバイトをしているそうだ。
『船を出せば出てくるのかにゃ』
『お前、なに物騒なことを言ってやがる!!』
ネオの言葉に兵士たちが驚いてネオの方を一斉に向いた。
・・・
『ネオさん。本気ですか?』
メリアは呆れ顔である。シャールカに至っては、完全に乗船拒否モードである。堤防から一歩も動かなくなってしまった。
『ちょっといってくるにゃ』
漁師に1隻船を借りて、一人乗り込んだネオは、教わった操船方法で船を動かし始めた。
『それにしても、変わった方法だにゃ』
船の左右についた魔道具から、風が後方に出る反動で船が前に進んでいく。魔石をセットするとその力で風が起こるらしい。船についた2本のレバーでその強さを調整して進めていく仕組みである。
港を出てすぐ、船の先端に付けた灯火に影が映った。そんなものが無くてもネオには見えるのだが・・・。目の前には大海蛇という言葉がぴったりの魔物がいた。
『パラライズ』
とりあえず、Maxパワーで放った魔法は、シーサーペントに直撃した。
『ギャー』
不気味な叫び声を発するシーサーペント。
だが、動きが鈍っものの倒すことは出来なかった。口から何やら吹き出してきた。慌てて、船を動かして避けるネオ。ギリギリでかわすことが出来たが、ついさっきまでいたところには、巨大は水しぶきがあがった。
『あれは何にゃ?』
ネオは驚いて叫んでしまった。
『ホーリーウインド』
三日月の刃を放つが、シーサーペントは体をくねらせて避けた。
『ならば!』
『ホーリーボール』、『ホーリーボール』
シーサーペントの左右に連続で火の玉を打った直後に
『ホーリーウインド』
を狙って放つと、火の玉に驚いたシーサーペントは風の刃に対応するのが遅れ、見事に首と胴体が分離した。
『やったにゃ!!』
船をシーサーペントに近づけ、船にあったロープのついた槍をシーサーペントの頭と胴体に2本づつ差し込むと、ゆっくりと船で引っ張って港に戻った。
・・・
夜中だというのに、港は人であふれかえっていた。
『いつの間に来たのにゃ』
驚くネオをよそに、一人の男がネオに近づいてきた。
『お前が、このシーサーペントを倒した奴だな』
そういうと、男は右手を出してきた。ネオも右手を出して握手をしながら、
『そうにゃ』
と答える。男が、破顔した。
『俺は、魚業ギルドのマスターをしているドルフだ』
『よくやってくれた。礼をいうぞ』
そういうと、集まっていた大勢の人々の側に振り向き、
『これで、イカ漁は再開だ!!』
((おお~!!))
ドルフの声に大勢の声が答えた。
『このシーサーペントを買い取らせてくれ』
再びネオの側に向いたドルフはネオに言った。
『魔石以外はあげるのにゃ』
そういうと、ネオはシーサーペントに近づき、アイテムボックスから取り出した剣(爬虫類型人型生物が持っていた剣)で蛇を開いた。中には、ヒャッケラキアくと同じくらいの魔石があった。それをネオは掴むと、袋に収納するように見せかけながら、アイテムボックスにしまった。
(上手くなったにゃ)
何回もしているので、ほとんどの人には違和感なく見えるくらいには出来ていた。
唖然としているドルフに
『これをやるから、朝まで寝られるところを貸してくれにゃ』
・・・
ネオたちは、漁業ギルドの案内で宿に連れてかれた。ドルフが手配してくれたものだった。
『ここも結構立派な宿みたいにゃ』
既に夜中なので食事はない。部屋に案内されると、
『もう寝るにゃ』
後ろからついてきたメリアとシャールカはその姿を唖然と眺めていた。
『もう寝ちまった・・・』
『寝ちゃいましたね』
シャールカとメリアは互いに顔を見合わせた。
『うちらも寝るとしよう』
『そうしましょう』
部屋にはシャールカとメリアのベッドも用意されていたので、そのまま寝ることにしたのだった。
・・・
『よく寝たにゃ』
ネオは起きると、隣のベッドで寝ているシャールカとメリアが起きるまで、部屋の窓から外を見ていた。夜中の喧騒は既になく、港を出ていく漁船の姿が見えた。
ネオが窓を開けて少しすると、入っていた風に気が付いたのか、シャールカとメリアも起きた。
『もう起きていたんですね』
珍しく早起きのネオに、メリアが驚いている。いつもは、メリアの方が早起きだからである。毎朝、メリアがネオを起こそうすると、
『猫は寝るのが仕事』
などといって、中々起きないからである。
『飯にゃ!』
夜遅くまで起きていたので、腹が減ったのが本音であった。
・・・
宿の食堂に行くと、何故か給仕のような服を来た男が、3人を席に案内した。促されるまま席に着くと、別の給仕が何かの肉の塊を焼いたステーキとパン。朝だというのに、ワインまでついていた。
『これは、討伐していただいたシーサーペントです。ご堪能ください』
(本当はあじの干物がいいんにゃけど・・・)
朝から出された、巨大なステーキを前にネオは、本当の気持ちをいうことも出来ず、シーサーペントの肉を一口食べてみた。
『う、旨いにゃ』
その一言を聞いて給仕たちに笑みが出る。きっと、苦労して解体したのだろうことは明らかだった。
『昨夜は、沢山の人がこの肉をいただいて、喜んで家に帰りました。中には、朝まで宴会していた人たちもいたようです』
給仕の一人がネオにそう言った。
一方、シャールカはシーサーペントの肉を堪能しながら、ワインを煽っていた。
『うめえ~!!幸せ!!』
その姿は、王女様ではなく、完全に冒険者の姿であった。
そんな2人を見ながら、メリアは粛々と食べている。だが、シーサーペントの肉は美味しいのだろう、頬がにやけていた。
・・・
丁度、朝食を食べ終わったとき、見覚えのある男がやってきた。ドルフである。
『改めて、礼を言わせてくれ。本当にありがとう。助かったよ』
ドルフはそういうと、袋をネオに渡した。袋の中には金貨が10枚入っていた。
『気持ちだ。本当はこんな金額ではいけないのだろうが・・・イカ漁が出来なくて、財政的に厳しいんだ。すまん』
そう言って、ドルフは頭を下げた。
『昨日、船を借りたままだったのにゃ。貸してくれた兵士さんにやってほしいのにゃ』
ネオは、そういうと、袋をドルフに返した。
『えっ!』
驚くドルフ。
『漁師さんにとって、船は何より大事なもののはずにゃ。無事に戻ってこれないかもしれない状態で貸したくれたのにゃからな。あの兵士さんがいなければ、討伐出来なかったのにゃ』
ネオの言葉にしばらく黙って考え込んでいたドルフだったが、何か合点がいったようで
『わかった。必ず奴に渡す。だが、船は無事だったぞ』
『当然にゃ』
ネオはそういうと席を立とうとした。慌ててドルフが引き留める。
『お前たちを冒険者ギルドに送り届けることになっているんだ。馬車を待たせている。準備が出来たら宿の前に来てくれ』
・・・
ネオたちは、ドルフが用意した馬車に乗って、冒険者ギルドに移動した。言われるままに2階の応接室に入った。何故かドルフも同席している。
中には、スキンヘッドのおじさんが待っていた。
『おお、お前がネオだな。俺はノロッペの冒険者ギルドのマスターをしているバルドだ』
スキンヘッドの男はそう名乗ると、右手を出した。ネオも右手でその手を握り、
『ネオだにゃ』
と言って破顔した。
席に皆が座った後、
『シーサーペントの討伐には感謝している。だが、槍も矢も通用しない相手の首を真っ二つにしたお前は何者なのだ』
バルドはそういってネオを見つめた。
ネオは冒険者カードを出すと
『確認してくれにゃ』
といってバルドに渡す。受け取ったバルドは、一旦奥に消えた後、戻ってきた。但し、その顔は真っ青である。
『冒険者カードを確認させてもらった。レベル20なんて見たことも聞いたこともないぞ』
その言葉を聞いて、同席しているドルフが驚いている。
『それに、討伐記録が異常すぎる。伝説のヒャッケラキアとかケンタウロスとか・・・なんだこりゃ』
どうやら、まだデコルでの出来事は伝わっていないらしい。
『デコルの周辺で倒したのにゃ』
『なに!デコルは無事なのか?』
さすがに事の重大さは理解できたらしい。
『デコルのすぐ近くにダンジョンが出来ているが、問題はないにゃ』
『ダンジョン?』
インゴニア王国にはダンジョンはなかったらしく、それがデコルに出来たというのが理解できなかったらしい。バルドは首を傾げた。
『デコルの南門のすぐ外に、3Fの地下ダンジョンが有ったのにゃ。その3Fのボスがヒャッケラキアの女王だったのにゃ』
『強いのか?』
ネオの説明に恐る恐る質問するバルド。
『魔石の大きさは、シーサーペントとほぼ同じだったにゃ』
今まで闘った魔物は、強いほど魔石が大きかったことから魔石の大きさが強さの指数になるのではないかと考えてネオであった。
『なに!』
強そうであることはバルドにも、ドルフにも理解出来た。
『今のレベルは、ヒャッケラキアを倒したときのものにゃ』
さすがに、バルドにはこの意味が解った。つまり、ヒャッケラキアを倒した状態でレベル20・・・つまり、ヒャッケラキアは倒すとレベル20を得られる魔物なのである。
『どうやって、お前はレベル20になったのだ・・・いや、レベル20に挑戦できるだけのレベルを得たのだ?』
バルドの声はが裏返った。驚愕というのを形にした姿である。まるで、叶うはずのない強敵の前に出くわしたような気持ちになっていた。
『それは秘密だにゃ』
そういうと、ネオは座っていたソファーの背もたれに寄り掛かった。
・・・
『あれで良かったのですが?』
メリアがネオに問いただしていた。あの後も、色々聞きたがるバルドとドルフを振り切って、冒険者ギルドの成功報酬である金貨10枚を貰うと3人は冒険者ギルドを逃げるように出て、東門から街の外に出ていたのである。
『よくないことがあるにゃ』
『なんだ』
『あじの干物を食べてないにゃ』
ネオの言葉に、呆れて固まってしまったシャールカとメリアであった。
イカ漁は船の照明に集まったイカをとることが多いようです。
次回は1/8の予定です




