第58話 初飛行
ネオは明日の飛行の予習をしていた。熊本にいるとき、波高が行先の空港までの距離や予定時間、方位を確認していたのを思い出したのだった。
北東管制所は、方位045°で距離が320km、ここにある(らしい)BE36型という飛行機は、時速250km/hだから、離陸上昇分を含めて、ざっと80分で着くはずだにゃ。
3Fにある地図を見ながら、大体の計画を立てている。実際は、風の向きや強さでかなり変わるのだが・・・。気象観測のないこの世界ではどうにもならない。
夕食前に、機体の予約をしたPCの予約画面には、
1/2の予約を承りました。使用機体は4169番です。明日の朝には整備完了予定です。飛行可能時間はおよそ5時間です。
と表示されていた。今頃、整備ゴーレムが働いているのだろう・・・。
(何か見たような番号だにゃ・・・)
にゃので、
VOR1 北東管制所(113.85)
VOR2 訓練センター(113.45)
にセットしておけばよいにゃ。管制官はいないはずにゃので、無線はいいにゃろ。
地図には、各空港、管制所の周波数が掛かれていたが、明日の飛行において、無線で話す相手はいないので、ネオは控えるのやめていた。
・・・
翌朝、アイテムボックスから出したパンと干し肉で食事をしたのち、1Fの案内人ゴーレムのところに行ってみる。
『飛行訓練のはずにゃんだが・・・』
ネオは予約を入れたものの、どうすればいいのか確認をしようとした。
『はい、格納庫に行っていただければ整備ゴーレムが待機しています』
どうやら、ネオが予約した情報は案内人ゴーレムにも伝わっているらしい。
『じゃ、いってくるにゃ』
そう言ってネオたちは格納庫に向かった。
『あの、シャールカ様とメリアさんの予約はないのですが・・・』
『訓練の同乗にゃ』
ネオはそういうと、シャールカとメリアを伴って格納庫向かった。
・・・
以前来た時は、閉まっていた格納庫が今日は大きく開いていた。そして、1機格納庫前に出してある機体がある。見ると、機体の側面に大きく4169と書いてある。
(波高が乗っていた機体にそっくりにゃ)
それは、波高が乗っていたBeechcraft A36に瓜二つの機体であった。そして、整備士と思われるゴーレムが、手に何かを持って待っていた。
『ネオさんですね。4169の状態に問題個所はありません。燃料は満タンです』
そういうと、整備ゴーレムは手に持っていたものを見せた。それは、タブレット端末の
ようなもので点検結果が記載されていた。項目に異常がないか確認したのち、右上にあった承認ボタンを押す。すると、整備ゴーレムは自分の役目が終わったと判断したのか、格納庫に消えていった。
『念のためチェックするにゃ』
そう言って、外部点検を始めるネオ。シャールカとメリアは黙ってみていたが、自分たちも気になるのか、エンジンのオイルやタイヤを見ていた。
『あの黒い丸いものが回るんですよね』
メリアがシャールカに聞いている。
『そうだ。タイヤというものだ』
シャールカはタイヤというものを知っているらしい。当たり前のように答えている。ちなみに、今のこの世界には存在しない。
(文明崩壊というのは恐ろしいにゃ)
ネオとしては、どちらか右席に座ってもらうつもりだったが、二人とも、後部座席に座ってしまったため、ネオは一人、操縦席に座るとチェックを始めた
『フライトコントロール OK』
『フェイルセレクターバルブ ライト』
『サーキットブレーカー オールイン』
電源を入れて、電圧に異常がないことを確認したのち
『フラップチェック』
フラップを下げてみる。特に動作に問題ないらしい。ネオはフラップを元に戻したのち、
ブースターポンプのLoに入れると、ポンプが動く音がする。
『ブースターポンプ OK』
念のため、周囲に誰もいないことを確認して、
ミクスチャーとスロットを半分くらいの位置にして、エンジンを始動させた。目の前のプロペラが回り始める。しばらくしてエンジンが掛かった。
『あっ』
ドアを閉め忘れていたネオは、慌ててドアを閉める。ミクスチャーを一番奥まで押し込み、スロットルを引いて、1000rpmに合わせる。ピトーカバーと車止めは外部点検時に外して機体に入れてあるので問題ない。
『アビオニクスパワー スイッチオン!』
ネオはそういいながらアビオニクスパワースイッチを入れる。その後、無線機、VOR、トランスポンダのスイッチを入れると、無線の周波数がセットされていた。
ヘッドセットはなく、室内のスピーカとハンディマイクがセットされている。無線機1は130.775、無線機2は128.80にセットされていた。
『まさかにゃ』
ネオはそういいながら、無線機のボリュームを上げると、無線機2から声が聞こえてきた。
『トレーニンセンター インフォメーションブラボー 0900 ユージングランウェイ36 ウインドカム スカイクリアー QNH2995・・・』
(ATISが動いている!)
どうやって気象観測をしているのか不明であるが・・・
『ということは・・・』
無線機1をアクティブにしてマイクを握り、
『こちら4169にゃ、今から滑走路にむかうにゃ』
としゃべってみた。
『・・・』
何も応答はない。ATISは自動なのだろう。管制官はいないので、反応がないというとだろう思われた。
『やっぱりにゃ』
ネオがスロットを奥に動かすと機体は動き出した。
『動いたな』
『動きましたね』
後部座席のシャールカとメリアが何か言っている。ネオはラダーを踏みながら機体の方向を合わせていた。
『脚のペダルで向きを調整するのって、何か変な感じにゃ』
どういう訳か、操縦桿もラダーに合わせ、左右に少し回転している。だが、操縦桿では機体の向きを変えることは出来なかった。
『変な仕様だにゃ』
何とか、滑走路の脇まで来たところで、
『パーキングブレーキ セット』
スロットをさらに押し込んで、回転数を1700rpmまで上げると、イグニッションキーを動かして、
『ライト』
『ボス』
『レフト』
『ボス』
と言いながら、エンジンの回転数を見ている。ライトとレフトにしたとき、回転数が50rpmほど下がったので、正常らしい。
『プロペラピッチ』
真ん中のレバーを引いてやると、回転数が下がった。元に戻すと回転数も回復する。
『問題ないにゃ』
スロットを戻して、1000rpmにしたのち、ミクスチャーを手前に引いていく。エンジンが止まりそうになったところで元に戻す。
『異常ないにゃ』
ネオは無線機のマイクを握り、プレストークSWを入れる
『今から離陸するにゃ』
『・・・』
返事はない。パーキングブレーキを解除してから、トランスポンダをALTにして滑走路に入る。
『忘れてたにゃ』
そう言って、VORをセットしようとすると、何故か、
VOR1 北東管制所(113.85)
VOR2 訓練センター(113.45)
にセットされていた。偶然?にしては出来過ぎなきもするが、気にしないことにした。
『離陸するにゃ』
そう言って、スロットルを押し込んでいった。
・・・
『ローテーション』
73㏏を超えたところで、ネオが操縦桿をわずかに引くと、機体は浮き上がった。
『浮きましたね』
『浮いたな』
後部座席から声がするが、ネオに見ている余裕はなかった。脚を収納して、100㏏を維持しながら上昇していく。途中でトリムタブを修正すると、楽になった。
数分で高度5000ftまで上昇すると水平飛行に移った。進路を045°に合わせると、前方にデコルの街が見える。
『100km以上先のはずにゃのに・・・』
この世界では大気はきれいらしい。
後部座席のシャールカとメリアも外を眺めている。135㏏(約250km/h)で巡行するように調整すると、特にすることもなくなった。
『ありゃ?HSIが動かないにゃ』
ネオは、HSIの周波数を113.45に替えてみると、飛行訓練センターの方位を指した。
RMIも同じ方位を指している。
『北東管制所は稼働してないにゃ』
今頃、気が付いたネオであった。
・・・
1時間ほど飛行すると、前方に山が見えてきた。
『ワイバーンがここにもいたりしてニャ』
などと言っていると、
『ネオさん!あれ!』
メリアが叫んだので、見渡すと、山の斜面から何かが飛び出してきた。
『本当に出たにゃ~!!』
慌てて翼を振ると、ワイバーンは飛行機に近づいてきた。そして機内にいるネオを見ると、“にぃ”と笑ってから、山に戻っていった。
『あのワイバーンって・・・』
『南西管制所にいたやつにゃ』
メリアの問いにネオは確信をもって答えていた。
『お前たち、ワイバーンと知り合いなのか?』
シャールカが驚いている
『まあにゃ』
ネオはそういうと、山を旋回するように高度を下げながら移動し始めた。
『ここですね』
『そうだにゃ』
山は、2500mくらいの高さのところに約100mの人口構造物が立っている。南西管制所にそっくりな建物がそこにはあった。
『あれが管制所だ。間違いない』
シャールカは何か知っているらしい。
『この管制所の北東にカシミという街があったはずなんだが・・・』
シャールカの声は尻つぼみになっていた。何せ、1000年前にあった街である。今、どうなっているのかはわからなかった。
『行ってみるにゃ』
そういうと、ワイバーンに向け、再び翼を振ってから北東管制所の北東に回ると、街と、その外れに滑走路が見えた。どうやら今も人が住んでいるらしい。上空から見る限り、滑走路に降りることは出来そうだったが、今の人は飛行機のことを知らないので、その後、何が起こるかわからなった。
『一旦、戻ってから、この街に移動するのにゃ』
そう言って、再び上昇をしたのち、HSIの方位に従って、飛行訓練センターに戻っていった。北東管制所では、ワイバーンが翼を振っているのが見える。メリアが窓からを振ると、ワイバーンは嬉しそうな顔をした。
(あいつ暇なのかにゃ?)
・・・
1時間ちょっとの後、再び飛行訓練センターの上空についたネオは、フラップと車輪を降ろし、着陸した。初めてだったにも関わらず、ほぼ完ぺきであった。
『とりあえず、格納庫前に移動するにゃ』
そう言って地上を、ラダーを踏みながら格納庫前まで移動させると、格納庫前で整備ゴーレムが待ち構えていた。エンジンを止めてネオが外に出ると、整備ゴーレムが近づいてくる。
『異常はありませんでしたか?』
『北東管制所の電波が入らなかったにゃ。後は正常にゃ』
ネオが答えると、
『北東管制所は1000年前から応答がないです。原因は不明です』
整備ゴーレムはそういうと、機体の点検を始めた。
・・・
『訓練記録を入力してくださいね』
1Fの案内人ゴーレムのところまでくると、いきなり言われてしまった。
『訓練記録?』
『そうです。3Fでちゃんと入力してくださいね』
どうやら、飛行後は3FのPCで何か入力する必要があるらしい。
『わかったにゃ』
ネオは3Fに向かった。
3FのPCの画面には、飛行ルートの入力と、訓練内容があった。
なので、飛行ルートには
訓練センター 北東管制所 訓練センター
と入力し、
訓練内容のところには
ナビゲーション
と入れて、入力完了を押すと
“お疲れ様でした。次回の予約をお待ちしております”
という画面が現れた。
(とりあえず、問題ないにゃろ)
ネオは1Fに戻り、案内人ゴーレムに入力が終わったことを伝えると、
『はい、完了確認できています。次回の予約もされますか?』
『いや、来た時にするにゃ』
ネオはそういうと、案内人ゴーレムに手を振り
『またくるにゃ』
といいって建物の外に出たのだった。
・・・
外には、シャールカとメリアが待っていた。
『これからどうするのだ』
シャールカがネオに聞いてくる。
『デコルに戻って、ギルドに報告しにゃいとな』
ダンジョン探索の報告をすっかり忘れていたネオであった。
HSI:Horizontal Situation Indicator
RMI: Radio Magnetic Indicator
です。
次回は1/4の予定です。




