第50話 デコル
結局、メリアが心配したような、村の人、もしくは村から報告を受けた人が押し寄せる事態は起きなかった。
午後になってようやく回復したネオは、メリアと共にデコルを目指した。
『あれが、デコルみたいだにゃ』
『街壁のすぐ外に人が沢山いますよ』
メリアが指さした方角には、この国の兵士を思われる者たちが何か、丘のようなものを取り囲んでいた。
『何かあったみたいだにゃ』
・・・
兵士たちは街道のすぐ脇まで来ていた。ネオは近くの兵士に
『何があったのですかにゃ?』
といって兵士が取り囲んでいる丘を指さした。
『今日の朝、突然あの丘が盛り上がって現れてな。なんと洞窟の入り口らしいのだ・・・』
そこまで兵士が言ったところで、この兵士の上官と思われる男が、頭部のカバー(ヘルメットの代わり?)を剣で軽く叩いた。
『余計なことはしゃべらんでいい・・・』
そういうと、ネオと話していた兵士の防具を掴んで連れて行ってしまった。
(ひょっとして、これがダンジョン?まさかにゃ)
ネオとメリアは、街門の門番に冒険者カードを見せると、門番はさっさといけとばかりに街中を指さした。
『冒険者ギルドは、この先いったところにあるぜ』
『わかったにゃ』
『ご親切にありがとうございます』
ネオとメリアは街中に入っていった。
・・・
『ここだにゃ』
『ここですね』
ネオとメリアはデコルの冒険者ギルドの前に来ていた。情報源が他になかったからである。中に入ると、一瞬、皆の視線がネオに集まったが、すぐに興味がなくなったらしく、ネオとメリアに話掛けてくるものもいない。よく見ると、ここのギルドは、B級(冒険者)以上のカウンターとC級(冒険者)、D級(冒険者)、EとF級(冒険者)のカウンターに別れていた。
『変な作りだにゃ』
ネオは一言つぶやいた後、当然のようにB級以上のカウンターにいって
『魔石を換金してほしいにゃ』
といって、ポケットから出すふりをして、魔石の袋を取り出した。どう見ても、ポケットに入るはずの無い大きさの袋にカウンターの女性は顔を引きつらせながら、
『ここはB級(冒険者)以上の方専用なのですが・・・』
ネオは、冒険者カードを見せた。
『メリアもにゃ』
メリアも冒険者カードを見せる。
『A級!!』
思わずカウンターの女性が叫んでしまった。そのせいで、全ての職員、ギルド内にいた冒険者が一斉にネオとメリアに注目することになってしまった。
『大声を出すほどではにゃいのではないかにゃ』
この状況に多少呆れながら、カウンターの女性に魔石の入った袋を押し付ける。
『はい、直ちに・・・』
カウンターの女性は逃げるように奥に消えていった。
『にゃんだかなあ・・・』
『そんなに珍しいのですかね』
ネオとメリアがカウンターで待っていると、2階から声がした。
『すまん。2階に来てくれないか』
初老の、明らかに鍛え上げた体の音が、2階の通路から上半身を乗り出して、ネオとメリアに話しかけてきた。
・・・
『さっきはすまん。職員の対応が悪かった』
応接室のようなところに連れてこられたネオとメリアは、ゴリマッチョとでもいうべき初老の男に謝罪されていた。
『俺は、デコルの冒険者ギルドでギルドマスターをしている、グシケというものだ。元A級冒険者だ』
『ネオですにゃ』
『メリアです』
グシケに2人は挨拶したが
『悪いが冒険者カードを確認させてくれ。見た目からは、A級には見えないもんでな』
ネオとメリアは冒険者カードをグシケに渡すと、何やら謎の装置に入れて確認している。
『うっ!!』
2人の討伐記録を見たのか、グシケの顔色が悪い。
グシケはネオとメリアに冒険者カードを返すと、
『疑って悪かった。間違いないみたいだ。だが、謎が多すぎる・・・』
そういうと、グシケは額の汗をぬぐった。
『何がかにゃ?』
ネオはグシケが謎といっている理由が解らなった。一方、メリアは思うところがあり過ぎて固まっている。
『まず、討伐記録に有り得ないものがある。ケンタウロスとかヒャッケラキアとかだ』
『ヒャッケラキア?』
聞き覚えの無い名前にネオとメリアの声が揃った。
『ヒャッケラキアは伝説の魔物だ。ゴキブリの巨大なものらしい。古代文明崩壊時に大量に出現したと言われているものだ』
この説明を聞いて、ネオとメリアは、ヒャッケラキアが何者か理解した。
(巨大ゴキブリが伝説の魔物なのかにゃ・・・)
ネオが動けなくして、メリアが止めを刺したので、両方に記録がついたらしい・・・。
『アミアから来る途中で倒したにゃ』
隠しようもないので、正直に話したところ
『ということは・・・お前たちがトロイでケンタウロスを倒したのか』
グシケは驚愕という言葉がピッタリの、驚きに満ちた顔になっていた。
『途中の村で倒したにゃ』
『はい倒しました』
あっけなく認めるネオとメリア・・・。
(今朝、トロイ村から村長名で書状が来ていたが・・・まさか本当とは)
ネオとメリアがケンタウロスを討伐したトロイ村では、ネオとメリアがいなくなってしまったので、更なるケンタウロスの襲撃を恐れ、冒険者ギルドに救援の依頼をしていたのだった。
(ケンタウロスなど、俺らでは倒せるはずはないのだが・・・)
そこで、グシケは冒険者カードのDATAを再確認して・・・
(なに、レベル16とレベル15だと・・・信じられん。アントラニア王国の人外2人に匹敵するレベルの冒険者だと!!)
さすがに、オケライのオルトラと、アミアのエルバートのことは知っていたが、まさか、それ以上のレベルを持つ冒険者が現れるなど、グシケの常識ではあり得なかった。
『アミアから来たのか?』
グシケは確認するようにいった。
『そうにゃ』
『そうです』
正直に答えるネオとメリア。
『あの街道は通行止めだったはず・・・』
『アントラニア王国側では、そんな制限はなかったにゃ』
『通行止めではなかったです』
グシケの言葉を遮ってネオとメリアが答える。
『えっ!』
どうやら、インゴニア王国側はアントラニア王国がインゴニア王国との街道を通行止めにしていないことを知らなかったらしい・・・。
『もしかして、ヒャッケラキアも途中で出会ったのか?』
『途中というか、すぐ近くだにゃ』
『トロイの次の村を過ぎて、デコルに着く途中の丘で・・・』
メリアの説明に、グシケの顔は驚愕に追加して真っ青になった。
『そんな近くにか・・・』
『巣があったので、出てきたのは全部やっつけて巣穴に死体を放り込んで土魔法で埋めてきたにゃ』
ネオの説明にグシケは慌てて地図を出す。地図にはデコル周辺が記載されていた。
『このあたりにゃ』
それは、デコルの街から20km程度しか離れていない、すぐ近くの丘であった。ネオが野営のために土壁を作ったことは適当にごまかして、野営していたら大量に現れたことだけ説明すると、
『本当に土魔法で埋めたんだな・・・』
まるで懇願するかのような口調であった。
『確かに埋めたのにゃ。あれだけ倒したので、しばらくは大丈夫じゃにゃいのか?』
ネオは思ったことは話しただだったのだが、
『この国には、お前たちのようなレベルの人間はだれもいねえ。ヒャッケラキアが1匹でも現れれば、大変なことになる。アントラニア王国では、お前たちのようなレベルが沢山いるのか?』
グシケは額の汗をぬぐった。
『オケライのオルトラと、アミアのエルバートくらいしかいないにゃ。でも、レベル3ならこれから沢山現れるにゃ』
『そうですね』
ネオの説明にメリアが同意するように答える。
『レベル3が沢山・・・どういうことだ』
グシケは止まらない汗をぬぐいながらネオに尋ねた。
・・・
『・・・という訳で、アミアには、誰でもレベル3になれるダンジョンがあるのにゃ』
ネオは、アミア近くの湖畔にあるダンジョンの話をした。重大な国家機密だったはずだが、誰も、ネオやメリアに口止めをしなかったのである・・・いや、ネオとメリアは、口止めされていたことをすっかり忘れていた。
『ひょっとして、他にもあるのか』
それだけではネオとメリアのレベルが説明のつかない状態なので、他にもダンジョンがあると推定したグシケであった。
『あるにゃ』
『あるのか!!』
『ダレンににゃ』
『ダレン・・・ロディア国の街か?』
『そうにゃ』
ネオは、正直に話していただけであるが、グシケにとっては最悪であった。インゴニア王国からロディア国はあまりに遠い。
(恐らく、ロディア国のダンジョンには、この2人のようなレベルに達するダンジョンがあるのだろう・・・これは大変なことになった)
冒険者ギルドのギルドマスターという立場であれば国家の云々には直接関係しないが、一部の国の兵士が、他国よりレベルアップした兵士になることの意味することをグシケは理解できたのだった。
『できれば、ダレンのダンジョンの話もしてもらえないか』
グシケが頼むと、
『いいにゃ』
とういって、ダレンで起きた出来事をネオは説明した。
『・・・という訳で、ダレンを脱出してきたにゃ』
『そこまで言わなくても・・・』
ダレン伯爵から逃げてきた経緯まで説明したネオにメリアが少々呆れている。だた、ダンジョンのことは話しても、シメ山にある南西管制所のことと、ダンジョンコントロール室の話は適当にぼかしておいた。
(今の人たちでは、南西管制所やダンジョンコントロール室のことを教えると、理解できずに破壊されてしまう可能性が高いにゃ)
ネオは、直感的に話さない方がいいと思ったのであった。
((意識操作成功!!))
この光景を覗き込んでいる変な影が1体あった。
意識操作している犯人は・・・もうおわかりですよね。
次回は本日、12時の予定です。




