第30話 ガロータ
『なんで急いで出発したのですか?』
東に向かって歩いていくネオにメリアがちょっと先回りしてネオの顔を覗き込む。
『嫌な予感がしたのにゃ』
ネオは昨夜考えていたことを思い返していた。
・・・
宴会をしている村人から逃げるように、昨夜は宿に戻ったネオとメリアだったが、ネオはすぐには寝ずに、起きた出来事を振り返っていた。
(この世界の人はオークすら倒せないにゃ・・・)
(だけど、ダンジョンでは、オークよりもっと強いモンスターがいたにゃ)
(レベルアップ神(石像)が最奥にしかいないのが普通らしいにゃ)
メリアにしても、訓練用ダンジョンをクリアした時点でレベル6だった。この時点で、領軍の師範はメリアに歯が立たなくなっていた。その後、訓練用ダンジョンに挑んだ近衛軍の隊長は護衛3名と共に、辛うじて3Fのレベルアップ神にたどり着いたが、条件をクリアできていなかったため、レベルアップできていない・・・。
領軍の兵士たちに至っては1Fで死亡判定(レベルアップ神にたどり着けていない)である。つまり、ネオのアシストなしにはレベルアップすることは出来そうになく、レベルアップしてしまうと、この世界では人外の力を持つものになってしまう・・・。そのメリアであっても、単独で、ネオが最初に入ったダンジョン(ウォーターマウンテン近くのダンジョン)を踏破するのは無理だったと思われる。誰かが、訓練用ダンジョンでレベルアップしたとしても、それ以外のダンジョンで最奥にあるレベルアップ神にたどり着くのは不可能に思えた・・・。
(つまり、この世界の人は、レベルアップすることが不可能なのにゃ)
ただし、同様の施設があと3つあるらしい・・・。これらを調べないと真相は解らない。
・・・
ネオとメリアは少し急ぎ移動した。途中あった村は素通りし、夕方には街壁の見えるところまで来ていた。
『あれが、ガロータですね』
メリアが街壁を指さしながらネオにいった。
ネオが指さされた方向を見ると、何やら黒い塊が街に向かって移動しているように見えた。
『にゃあ・・・あれなんだろうにゃ?』
しばらくすると、馬車が街の方からものすごい勢いで走ってきた。馬車は、ネオとメリアを見つけると立ち止まった。急がせたせいだろう、馬の息が荒い。御者台に座っていた男が、
『魔物が襲ってきたぞ。早く逃げたほうがいい』
どうやら、さっきの黒い塊のことらしい
『よくあるのかにゃ?』
『そんなわけないだろ。オーガが100匹はいたぞ。あんなの見たことがない』
ここまでくれば危険がないと見たのか、しばらく馬を休ませた後、東へと移動していった。
『どうするかにゃ』
ネオはそういいながら、街に向けて歩いていった。
『闘うので?』
『まだいたらにゃ』
見ると、黒い塊は街門を抜けて中に入っていくところであった。
・・・
ネオとメリアが街に着いたのは既に夜だった。あれから、数台の馬車が同じように東に走っていったが途中からはそれもなく、人はもちろん、魔物の気配すらしない状況であった。街門は打ち破られており、そこに人の気配はなかった。どういう訳か、人の気配もなく、門付近には争った跡すらない。但し、建物のほとんどは瓦礫と化していた。
『街の人はどこにいったのにゃ?』
街の中に入っていくと少し高くなっているところがあった。よく見ると、そこには、無数の人々の死体があった。どうやら、このあたりに人々は移動してきて、魔物に襲われたらしい。死体には、兵士や冒険者らしいものも混じっていた。見える範囲には、生存者は見当たらない。
『ひどいにゃ』
メリアがあまりの惨状に目を見開いたまま、声が出なくなっている。
しばらく歩いていくと鳴き声が聞こえてきた。
『あの瓦礫の中からだにゃ』
そういうと、ネオは瓦礫を取り除く。出てきたのは、大きな窯だった。どうやら調理に使うものらしい・・・。声は中から聞こえてきた。
窯の入り口にあった瓦礫をとりのぞき、蓋を開けるとその中には1人の女の子がいた。
『出てこれるかにゃ?』
ネオは女の子に声をかけた。
・・・
女の子は、大丈夫だと思ったのか、自分で窯から出てきた。そして、周囲の姿を見た途端、
『お母さん!!』
と叫ぶとそのまま気を失った。
『ちょっと、ショックが大きかったみたいだにゃ』
そういうと、周辺の瓦礫を片付けた。女の子の家と思われる建物は、一部の部屋がそのまま残っていたので、そこにあったベットに女の子を寝かせてやった。
『今日はここで泊まるしかないにゃ』
『はい』
そういうと、ネオはアイテムボックスからオークを一体取り出す。
瓦礫を使って焚火を起こし、オーク肉を焼いたのであった。結局、この女の子以外に生存者は見つからなかった。
・・・
朝、アイテムボックスからパンと水を取り出し、オーク肉の残りを焼きながら食べていると、昨日の女の子がやってきた。
『あなたは誰?』
あまりの出来事に起きた事象の実感がないのだろう。感情がないその顔は、かえって恐ろしく見えた。
『ネオというにゃ』
『メリアです』
『他の人は・・・』
『見当たらないにゃ』
朝、ネオとメリアは周囲を見て回ったが、生存者を見つけることが出来なかった。女の子は周囲を見渡す。彼女が出てきた部屋以外は全てが瓦礫であった。
『街が・・・』
そういうと、気を失った。
倒れる前に、ネオがその体を支える。すると、女の子は目を覚ました。
『街は魔物に襲われたんですよね・・・』
『そうにゃ』
・・・
しばらくたった後、女の子はメリアが出しだした水筒の水を飲みほした後、話始めた
『私、シャノンといいます』
その言葉にメリアが反応した。おそらく先日埋葬したシャロットを連想させたのだろう。
わずかに肩が震えている。
『私、お母さんにこの窯に入っているように言われたの』
シャノンはこの家の一人娘だったらしい。父は街の衛兵をしており、母は、魔物が街に入った来たのち、まだ使っていなかったこの窯に娘を入れたらしい。
『お母さんは他に何か言っていた?』
ようやく肩の震えが止まったメリアがシャノンを撫でながら聞いた。
『お父さんのところに行くって・・・』
恐らく覚悟していたのだろう。街の衛兵であれば、魔物に立ち向かわざるを得ない。その結果、どうなるかは明らかである。魔物の群れに立ち向かって無事な人間は、この世界ではいないのだ。
『こんなものしかないにゃけど・・・』
ネオはそういいながら、焼きあがったオーク肉の塊とアイテムボックスに入れていたパンを差し出した。
・・・
ネオたち3人のところに歩いてくる人がいた。
突然、シャノンが走り出す
『お母さん!!』
ネオとマリアがら少し離れたところで2人は泣きながら抱き合っていた(いや、母が娘を抱き抱えて泣いていた)。
『無事だったんだね。よかった!!』
ネオとメリアはそれを黙って眺めていた・・・。
・・・
母親の話によると、魔物が街に入った時点で、闘えるものは全員出かけていったそうだ。たまたま、街壁の上にシャノンの夫(シャノンの父親)が勤務していたので、すぐにそこに行ったらしい。結果として、街はほぼ壊滅したが、街壁の上にいた人は助かったそうだ。魔物はどうもオーガだったらしい。街を破壊した後、南側の街壁を突き破って出ていったそうだ。
・・・
ネオとメリアは生き残った人たちが集まっているところに連れて行ってもらった。そこには、約100人程度の人(ほとんどが兵士)がいた。
『みんな元気になってにゃ』
そういうと、一旦瓦礫の陰に隠れて、アイテムボックスからオークを取り出した。
『みんなで食べて元気になるのにゃ』
その場にいた100人の視線が一斉にオークに向けられる。
『なぜ?』
『どうやって・・・』
『いったいどこから・・・』
しばらくの沈黙のあと、一人の男が話しかけてきた。
『東門守備隊長のニールだ。いろいろ解らないことがあるが、ありがとう。実は皆、昨日から何も食べていないのだ』
どうやら、ここには、食料の備蓄はなかったらしい・・・。
何人かが、オークを解体し始める。と同時に、別の何人かが、瓦礫から薪の代わりになりそうなものを探しだす。
鍋一つないのでオークは丸焼きになった。少々グロテスクである。
だが、他に方法もなかったので、焼けたところから順次切り取って配っていく。大半が兵士であるためか、混乱は起こらなかった。
ネオとメリアは、既に食べていたので皆が食べ始めるとやることがなくなっていた。シャノンは母親から離れずにいる。安心したのか眠っているようだ。
『ニールさん。うちらは先に行くのでにゃ・・・』
ネオが言いかけると、
『わかった。この恩は忘れない。冒険者だと思いが、せめて名前だけでも教えてくれ』
『ネオだにゃ』
『メリアです』
そういうと、ニールに向かって手を振って
『バイバイにゃ』
ネオの視界に母のそばで安心して眠っているシャノンが見えた。
魔物が街を襲い始めたようです・・・。
次回は1時間後の予定です。




