第29話 カバチ
翌朝、黒パンの朝食をとったのち、出発した。
『アントラニア王国に向かうのですか?』
『そうにゃ』
不安そうにネオを見るメリア。彼女は、ロディア国の外に行ったことがなかったのである。ラオカ村にいたころのメリアの世界は、東はロディア、西はダレンまでだったのである。
昨日買ってもらった革製の防具を身に着けた彼女は、見た目には子供の冒険者のようにしか見えなかった。
『怖いかにゃ?』
ネオがメリアを覗き込む。反射的にメリアは自分の防具の端を掴んでいた。
『いいえ・・・』
そういいながらも、不安そうに見えるメリアに
『俺にとっちゃ、どこも未知なんだけどにゃ』
ネオはそういうと街壁を東門に向けてすすんで行った。慌てて追いかけるメリア。
(そう、他の選択肢はないのだった・・・)
メリアは昨日、ミラに言われたことを思い出していた。
・・・
『バイバイにゃ~』
門番に手を振りながら門を出ていくネオ。
『変な奴だなあ~』
『ああ・・・』
門番たちは妙にテンションの高いネオと追いかけるようについていく子供を眺めていた。
・・・
街道なので、大した魔物は出ないと思っていたが、それでも、ゴブリンとスライムは時々現れた。
『私が倒します』
メリアがそう言いながら、ショートソードで瞬殺してしまうので、ネオはすることがない。
(もう、スライムやゴブリンを倒してもメリアのレベルは変わらないと思うがにゃ・・・)
・・・
夕方、街道に集落が見えた。カバチ村というらしい。街道に沿ってそのまま村が出来たような感じである。村を囲うように柵があり、見張り台がある。街道にも魔物対策だと思われる門のようなものがあった。おそらく、魔物が襲ってきたら門を閉めるのだろう・・・。だが、柵は大した強度があるようには見えず、オークが1撃で破壊できそうなものでしかない。
(無いよりはマシかにゃ)
『今日はここで泊まろうにゃ』
『はい』
本当であれば、馬車の護衛の仕事でも見つければよいのだろうが、ロディアの冒険者ギルドに行く気がしなかったのである。村に入ると、街道沿いに1軒の店があった。
『魔石の買取をしまっせ~』
店から、明らかに太りすぎのおっさんが声をかけてきた。
『魔石を処分してきます』
そう言ってメリアが店の方に駆けていく。反対する理由もないのでネオはゆっくり後をついていった。
『はい毎度!!』
メリアが討伐したスライムやゴブリンの魔石は銀貨10枚になっていた。
『お店の人があまりの量に驚いていましたよ』
メリアが袋いっぱいの魔石を出したからである。普通、数体のゴブリンが現れても、完全に倒せるのはそのうちの1体であとは逃げていくことが多いらしいのだが、メリアが全てを瞬殺していた結果、この世界の常識からはちょっと多い量の魔石になったらしい。おそらく、冒険者ギルドの方が高く買い取ってもらえるのだろうが・・・この村にギルドがあるとは思えなかった。
『貯めていた分だと思っているだろうにゃ』
そういうと、ネオは宿を探し始めた。後をついていくメリア。その姿を店の主は眺めていた。
『換金は娘任せか・・・』
メリアのことをネオの娘だと勘違いした店の主であった。メリアが1日で倒した分だとは思っていなかったらしい・・・。
・・・
1軒の宿を見つけると、ネオは中に入っていった。
『2人なんだが、別々にゃ』
ネオの前には、いかにも無愛想という感じの中年女性が立っていた。
『2食付きで銀貨10枚・・・』
ネオが銀貨10枚を渡すと、
『ついてきな』
といって2階の部屋に歩いていく、ネオとメリアが後をついていくと、一番奥の部屋の手前で中年女性の脚が止まった。
『この奥の2部屋を使ってくれ。夕食はもうすぐ出来るから、荷物を置いたらすぐに1階に来てくれ。朝は6時から8時までパンを用意しているからね』
そういうと、中年女性は戻っていった。
(愛想がないにゃ・・・)
一番奥の部屋にメリアを入れ、その手前の部屋にネオが入る。部屋自体は、ロディアにあった”女神亭”とほぼ同じ、ベットと小さなテーブルがあった。
・・・
『食事の準備ができたよ~』
さっきの中年女性の声が宿に響いた。どうやら、夕食の準備ができたらしい。メリアを呼んで、一緒に1階に降りる。念のため、革の防具はしたまま、メリアはショートソードを腰につけたままである。
『何と闘うのかい』
中年女性はそういいながら、スープを入れた皿を出してきた。見ると、肉と野菜が少し浮いている。どうやら、このスープとパンであるらしい。
メリアと共に黙って受け取ると、空いている席に座る。
『ロディアとほほ同じ内容ですね』
『そうだにゃ』
“女神亭”と違うのは、銀貨3枚が銀貨5枚になったくらいである。とりあえず黙って食べ終わったころ、宿の入り口が勢いよく開いた。
『オークが来た!!』
見るからに若そうな青年が宿に入ってきた。見張り台から走ってきたのだろう、息絶え絶えである。この一言で宿の様子が一変した。どう見ても皆、慌て始めている。逃げ出す準備をしようとでもいうのだろうか・・・明らかに怯え始めたのである。
『冒険者がいれば手を貸してくれ!!』
誰も動こうとしない。レベル1しかいないのであれば、普通に考えてオークにかなうはずがないからだ。
『ちょっと直後の運動に行ってくるにゃ』
『私も行きます』
ようやく息が整った青年に声をかけ、
『オークのところに案内してにゃ』
といいながら、青年を宿から連れ出すのだった。
・・・
オークは3匹いた。
『ここはオークの肉は引き取ってもらえるのかにゃ?』
ネオは青年に聞くが、
『倒せるわけないだろ!!食えるらしいけどな。どうにか追い払うしかねえ!!』
どうやら、この村ではオークの解体が難しいみたいである。
『にゃら、倒した肉はいただくことにするにゃ』
そういうと、ネオはついさっき村人が閉めた門を開け外に出る。メリアがネオの後に続いて出るが、誰も引き止めない。
『あいつら正気か?』
『どう見ても子供に見えるが・・・』
口々に勝手なことを村人達は言っていた。
『心配にゃら閉めておくのにゃ』
そういうと、ネオとメリアはオークに向かって歩いていった。
『メリア、最初に魔法で1体やるので、残り2体の内、1体はメリアがやってにゃ』
『はい』
3匹のオークはネオとメリアに気が付いたのか、一斉に突進してくる
『ホーリーアロー』
真ん中の1匹にネオの魔法が直撃する。頭に命中したこともあって、そのまま、後ろに飛んでいった。残りの2匹は一瞬、呆然と立ち止まったが、すぐさま突進を再開してきた。右側にネオ、左側にメリアの配置で迎え撃つ。
ネオは突進してきたオークを右に躱し、アイテムボックスから出した剣(爬虫類型人型生物が持っていた剣)で、背中から袈裟懸けに切る。まるで時代劇でもみているかの如く、オークが倒れた。一方、メリアが突きの構えで殴りかかろうとするオークの胸にショートソードを突き刺していた。
『大したことなかったにゃ』
『はい』
そういいながら、3匹のオークから魔石を取り出す。残った3体の内、魔法で頭を打ちぬいたのと、メリアが胸にショートソードを突き刺した2体をアイテムボックスに入れ、袈裟懸けした1体を引きづって門まで戻る。
『開けてくれにゃ』
・・・
『ありがとうございました。助かりました』
どういう訳か、この村の村長宅に招かれ、上座に座らされたと思ったら、村長と数名の世話役に土下座されている状態である。
『まあ、被害が無くて何よりにゃ』
ネオは引き攣った顔を隠すこともなくいった。
『あの、この村ではオーク3匹の討伐報酬を出すだけの財力がありません。どうかこれで勘弁してください』
そう言って村長は袋を1つ差し出してきた。
『食後の運動をしただけにゃので、報酬は要らないにゃ。その代わり・・・』
ネオが村長をじっと見る、村長と世話役の顔たちは息をのんだ。
『持ってきたオークをみんなで分けてほしいのにゃ』
村長と世話役はのけぞって唖然としている。
『無理かにゃ?』
『すぐやります』
村長の号令で、村人総出でオークの解体が始まった。
オークの肉は、可食部だけでも100㎏以上の肉になった。結果として、宿泊者まで巻き込んだオーク肉の大宴会が行われたのであった。
・・・
翌朝、ネオは起きて、朝食をとろうとメリアと共に1階に降りていくと、
『ネオ様、メリア様。おはようございます朝食をどうぞ』
昨日とは別人のようになった中年女性の姿があった。周りの宿泊客も何故か平身低頭である。
(こりゃ、さっさと出ていかないと面倒にゃ)
急いで朝食を食べたネオとメリアは、部屋に戻ったかと思うと、荷物を全てアイテムボックスに入れ、早々に宿を出発するのであった。
・・・
ネオが出発してしばらくした後、
『ネオ殿はおられないか』
昨日の村長が宿を訪ねてきた。昨日は少々、飲みすぎたらしい。
『さっき出発されましたよ』
中年女性が村長に答える。
『しまった。遅かった!!』
手には、ロディアに送る報告書が握られていた。
何故か逃げ出す羽目になるネオとメリア・・・
次回は10/9予定です。




