第17話 ラオカ村
新しい章のはじまり
何故か、神様のお告げと逆である西に向かい始めたようです。
『さて、どこに行きましょうかにゃ~』
ネオは街道を西に歩いていた。あまり往来はないのか、すれ違う人や馬車もあまりない。見渡す限りの草原が広がっていた。集落らしきものが街道からちょっと入ったところに見えたので行ってみると、
“ラオカ村へようこそ”
と書かれた看板が1つあるだけであった。
(変だにゃ。人がいる気配がにゃい)
集落は、街道から少し脇道に入った先にあり、集落で道は行き止まりになっていた。
ネオが集落の中に入っていくと家が全て、引き払われた後のように見えた。
(廃村?)
水だけでも補給しようと井戸を探していると、何か気配を感じた。
(狙われているにゃ)
慎重にあたりを見渡すと、突然、右の廃屋から矢が飛んできた。咄嗟に避けると、廃屋に向かってネオは走りだし、逃げていく影を追った。
『ホーリーボール』
逃げていく影に向かって放つと、影は悲鳴を上げて倒れた。威力は最小にしたから、怪我するレベルではないはずだが・・・。
ネオが近づいてみると、それは子供であった。
『お前はなにものにゃ』
ネオは子供から弓を取り上げてから問いかけた。
『お願い。殺さないで・・・』
なんと、女の子であった。
・・・
『こんな所で何してるのにゃ』
先ほど、この女の子が矢を放った廃屋に戻り、座らせてからネオは聞き始めた。
『ここは、私の家・・・』
『どう見ても、誰も住んでいないように見えるがにゃ・・・』
『ほとんどの人は、いなくなってしまったの・・・』
『何故にゃ』
『わからない・・・突然いなくなってしまったの・・・』
女の子のお腹が鳴った・・・。
アイテムボックスにあったパンをやると、夢中で食べ始める女の子。
3個ほど食べさせるとようやく落ち着いた。
『名前は?』
『メリア』
『いくつかにゃ?』
メリアは指を10本ネオに見せた。
『10歳かにゃ?』
メリアは頷いた。
『みんながいなくなったときのことは話せるかにゃ?』
メリアは小さく頷くとその時の状況を話始めた。
『1ヶ月くらい前のある日、草原に薬草を採りに行ったの』
『1人でかにゃ?』
メリアは小さく頷く。
『ちょっと遠いところに生えている薬草だったの・・・朝出かけて、籠いっぱいにとって、夕方に戻ったら、誰もいなかった・・・』
『両親もかにゃ?』
メリアが首を横に振る。
『両親は昨年死んじゃって、この家は私だけだったの・・・』
『にゃんと・・・』
『近所の人は、一緒に住んでくれなかったのかにゃ?』
メリアは小さく頷いた。
『最近、この集落にいた家畜たちが皆死んでしまったの・・・』
『何故?』
『村に家畜用の井戸があるんだけど、ある日、その水に毒が入っていたらしくて、朝、家畜たちに水をやったら・・・』
『幸い、たまたま人は飲んでいなかったので、死者は出なかったんだけど・・・それから皆の様子がおかしくて・・・』
メリアは泣き出してしまった。ネオは水筒の水を取り出して飲ませてやると、メリアは急に我に返った。
『ありがとうございます・・・』
ネオは頷きながら水筒をしまうと、
『7日後、数件の人が村を出ていきました。東に向かったので、ロディアに向かったのではないかと・・・』
『その後、残った人がどうするか相談してましたが、意見がまとまらなかったらしくて、激しく罵りあっていたんです・・・』
『毒が入っていた犯人は見つかったのかにゃ』
メリアは横に首を振った。
(にゃるほど・・・犯人が解らず、村人同士疑い出した結果、出ていく人が出始め・・・かにゃ)
『いなくなる日の前日も、残った家の人々は2派に分かれて大喧嘩していました。翌朝、私が薬草を採りに行くときも、誰も家から出てこなくて・・・』
『その時はまだ居たんだにゃ』
『はい』
『帰ってきたとき、何か気が付いたことはないかないかにゃ?』
『誰もいないことに気が付いたときは、真っ暗で、家の中でじっとしているしかなかったです。翌朝、街道につながる道を見てみると、台車を引いた跡がたくさん残っていました・・・』
『街道のどっちに行ったのかにゃ?』
『台車の跡は街道に出るとき東西の両方に別れていました』
『つまり・・・喧嘩別れして、どっちもいなくなったということかにゃ?』
『たぶん・・・』
(にゃんかおかしいにゃ。喧嘩別れしても、両方いなくなるとは思えないにゃ・・・。)
『それにしては、家の壊れ方がひどいような気がするにゃ?』
『数日前、盗賊のような集団が来て、荒らしていきました。怖くて、隠れていました』
『にゃるほど・・・』
多少、不自然なところはあるが、ネオにはどうにもしてあげることが出来そうになかった。
『メリアはどうする気かにゃ?』
ネオの言葉にハッとしたのか、メリアの背中がピンと張ったが、すぐに元に戻って、
『どこにもいくところはないんです』
メリアは泣き出してしまった・・・。
『にゃら、旅についてくるかにゃ?』
メリアはネオの顔を見る。
『奴隷にして売ったりしないですよね』
『当り前にゃ』
『ならついていきます。ついていかせてください』
『わかったにゃ』
この日は、ネオが持っていた携帯食を食べた後、メリアの家で1泊したのであった・・・。
・・・
『行くかにゃ』
『はい』
メリアの希望で、彼女の両親の墓によっていた。ここを離れてしまえば、墓参りも難しいだろう。村人もいないので数年もすれば、草原に埋もれてしまうだろうと思われた。
メリアは背中に大きな荷物を持っていた。
『そんなに持っていけるのかにゃ?』
『私の全財産です』
どう見ても、金目のものはなかった。食器とかも売れるようなものではない・・・。
『あの~。ネオさんの荷物は・・・』
『ここにゃ』
空間を開いてアイテムボックスを見せた。
『えっ・・・』
メリアの顔が驚きで硬直している。
『これは、絶対に秘密だからにゃ』
『はい』
『どこに行くのでしょうか?』
『西に行こうと思うにゃ』
『ダレンの街ですか?』
『決めてないにゃ』
『ええ~』
ネオは歩きながら、今までのことをメリアに話した。
『・・・という訳で、誰も知り合いがいないのにゃ』
あまりの内容に、メリアは混乱していた。
・異世界からの転生者
・異世界では猫という小動物だった
・この世界に転生後、ゴブリンに襲われたところを助けてくれた冒険者の仲間になった
・ネオ以外の仲間(3人)がゴブリンに襲われ死亡。
・偶然ダンジョンを見つけ、そのダンジョンの最初の踏破者となってレベル15になった
『レベルがあることは私でも知っています。でも、レベルを上げるのは、普通は不可能で、ほとんどの人はレベル1のまま一生を終えるはずです』
『らしいにゃ』
ネオは、軽くジャンプしてみた。元々猫であったことも影響するのか、軽く100m近くジャンプできる。それを見たメリアは唖然としている。
『面倒なので、普段は秘密にゃ』
『はい』
(この人は、私以上に大変な目に遭っているのに、こんなに前向きに生きている。見習わなければ・・・いや、この人に一生ついていこう・・・)
メリアは心の中で誓ったのであった。
次回は8/30の予定です