第164話 うなぎ
暑いときは・・・ということで、うなぎネタです。
『暑いにゃ~』
ラオカ村の農場は今日も強い日差しが降りそそぎ、麦、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシといった作物が育っていた。だが、ネオは元々猫である。肉や魚の方が好きなのであった。ニジマス以外には、角ウサギやダレンから運ばれてくるアジの開きがネオの欲求を満たしていたが・・・。
(最近のネオさん・・・暑さに負けてバテ気味ですね)
メリアはネオを見ながら思っていた。
そんな時、空が一瞬暗くなった。メリアが慌てて上空を見ると、ワイバーンがラオカ村に降りようとしていたところであった。
・・・
バテ気味のネオを引きずるようにしながら、メリアがワイバーンのところに駆け寄ると
『ネオも尻にひかれたか・・・ハハハ』
ワイバーンは笑い出した。
『違うのにゃ。最近、暑くてやる気が出ないのにゃ』
ネオは必死に反論するが、バテ気味のせいか、いつもの元気がなかった。
『ほう・・・重症だな。ところで、お前は、こいつを食べることが出来るか』
ワイバーンは大きな籠をネオに差し出した。
ネオが籠の蓋を開けると、
『へ・・・蛇?』
『ヘビーーーー!!』
ネオは変な生き物にしか見えないくらいの反応であったが、どうやらメリアは蛇も好きではないらしい。一目散に逃げて行ってしまった。
ネオが1匹摘まもうとすると、ぬるぬると滑って、蛇のような何かはネオの手から逃げていく。
『にゃんか掴みにくいにゃ』
ネオが呟いた。
『これはローラシア山脈の一番北側に流れている川に生息している生き物でな。おふくろ様の話だと、焼いて食べると美味しいそうだ・・・』
ワイバーンは何故か語尾に元気がない。
『多分にゃ。これは“うなぎ”という生きものだと思うのにゃ』
『うなぎ?』
ネオは、熊本空港にいたころ、“うなぎ弁当”なるものを持って来た人を見ていたのである。その人は調理前のウナギを入れたビニール袋を見せ、
『せっかくの天然物なのに、壱岐の人は誰も食べないそうだからもらってきた』
と言って、上機嫌で帰っていったのを見たことがあったのである。
(これは波高を呼ばないと無理だにゃ)
ネオは籠に入ったうなぎを見ながら思った。
『これは、波高でも連れてこないとどうしたいいのか解らな・・・』
途中まで言い掛けたネオは、ラオカ空港の上空を飛ぶ、見覚えのある機体を見つけてしまったのだった。
どこかに隠れていたはずのメリアが猛ダッシュでネオのところにやって来て、上空の機体を指さした。
『あれは・・・』
『『JA4169だにゃ(ですね)』』
ネオとメリアが声を揃えて大声を出したので、農作業をしていたドワーフたちも上空のJA4169を見上げたのだった。
・・・
『・・・でまた呼ばれたみたいだけど、今回は何のようなの』
JA4169はラオカ空港の管制の指示に従って、無事着陸。迎えに来たネオをメリアがワイバーンに波高を乗せ、ラオカ村に移動したのだった。
『わからにゃい・・・ところで波高はこいつを知っているかかにゃ』
ネオは、波高にうなぎの入った籠を見せた。もう、何度も異世界にやって来ている(連れてこられている)波高は慣れたもので、ネオの示した籠の中を確認すると
『ほう・・・美味そうな“うなぎ”だな』
『美味いのかにゃ?』
波高の言葉の内、美味いという部分に反応するネオに
『せっかくだからうな丼でも作ろう。米はないか?』
『あります』
波高の言葉に、うなぎから隠れるように様子を見ていたメリアが答えた。インゴニア王国から米がネオ達に届けられていたのだが、米を食べる習慣のないネオ達にとって、余り気味の食材であった。
・・・
(ハイム村で作ったうな丼を思い出すなあ・・・ハイム村はどうなっているのだろう・・・)
波高は、うなぎを捌きながら、昔召喚された世界のことを思い出していた。暇にまかせて作ったうな丼はハイム村の人々に好評だったと波高は記憶していたのである。まさか、違う異世界でもうな丼をつくることになるとは思っていなかったのだが・・・。
『メリアさん、米を沢山炊いておいてくださいね』
『はい。沢山炊いておきます』
波高からの依頼に張り切って米を研ぎ始めた。メリアとしては、うなぎから離れられれば良かったのである。
大きいまな板にうなぎを乗せ、短剣で頭を突き刺した。このあたりは、異世界でうなぎを捌いた波高らしい方法である。
(異世界うなぎ職人だな)
そんなことを思いつつ、うなぎを捌いていく。平行して、“ネオに”たれ”を作らせていた。これも以前、ハイム村で実装済の方法で、醤油をベースに適当に酒と砂糖を混ぜて煮込むことで、即席の“たれ”が出来るのである。
独特のにおいが広がる中、波高は、捌いたウナギを串に刺していく。バーベキューセットを用意してうなぎを“たれ”に付けて焼き始めると、何とも言えない匂いが広がっていった。
『ほほう・・・こうやって食べるのか・・・』
うなぎを調理する様子をずっと見ていたワイバーンは感心したように呟いた。
・・・
用意された大きめの皿に炊きあがったご飯の乗せ、その上に焼き上がったうなぎを乗せ、串を引く抜いたら、仕上げにたれをかけて完成である。ワイバーン用には、特大サイズの桶にご飯を盛って、その上にうなぎを乗せた。
『では皆さん。食べてみて・・・』
『待て~!私にも食わせろ~!』
波高の言葉が言い終わらないうちにその言葉を遮るものが現れた。声のした方向を皆が見ると、ラオカ空港から、全力疾走してくる一人の女性が見えた。
『女王様とは思えにゃい・・・』
『恐るべき食べものへの執念・・・』
『身体能力をこんなことに使いおって・・・』
ネオ、メリア、ワイバーンが呟く中、やって来たシャールカのために、追加でもう1つ作り、
『では新ためて・・・』
(((いただきます!!)))
うなぎを避けていたはずのメリアも、うな丼を夢中で食べている。調理された後であれば問題ないらしい。ワイバーンもドワーフたちも珍しそうに様子を見ながら食べていた。
そして・・・
『なんじゃこれは。異世界の食材なのか!ゴンドアでも作れないのか』
食べ終わった後も興奮が冷めないシャールカに
『これは、“たれ”が美味いのにゃ。波高は天才なのにゃ』
たれがすっかりお気に入りネオであった。
(俺がもってきたんだけど・・・)
ワイバーンはシャールカやネオが興奮しているのを眺めながら呟いた。
・・・
(ちょうどいいタイミングで召喚出来たわい・・)
この様子を眺める一人(?)の男。新人の神様は、ネオ達の様子を見てほくそ笑んでいた。
新しい小説書き始めました。
ジュアル=ラィシカーラクセンの冒険=異世界転生?した自家用パイロットの数奇な人生=
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文明の栄えた世界が欲しい神様によってコピーした世界が出来た。そして、その世界では一人の自家用パイロットの記憶が国王の息子に組み込まれた。だが、運命のいたずらで追われる身になってしまう。コピーされた世界は、滑走路が謎の遺跡と化しており、ターミナルはダンジョンと化していた。