第160話 幻の果実
もう1話書いてしまいました・・・。
オークの魔石を1000個ほどアミアのダンジョン3Fで回収したネオをメリアは、1Fで気絶していた冒険者4人を叩き起こし、アミアの冒険者ギルドに届けると、そのまま北に向かった。
(とても、奴らでは、レベル15にはなれないにゃ)
エルバートは、何か言っていたが、とりあえず、一回、最奥まで連れて行ってレベルアップさせたので、シャールカのところに行くと言って冒険者ギルドを出てきたのである。
『全くひどい目に遭いましたね』
珍しく、メリアもお怒りである。メリアから見ても、あの4人はとても使い物にならなかったのである。
(それでもレベル5になったら、頑張ればオークは倒せるはずだけど・・・)
果たして、ゴブリン300匹を倒せるのか疑問に思うメリアであった。
パラストアからの飛行機には乗れない状況だったので、アミアからサマランドに向かうには、ロディア国を経由していくことになる。そう・・・アミアを南に移動することになる。だが、ネオとメリアは別の方法・・・飛行訓練センターから4169を飛行訓練として登録、サマランドにネオが操縦してサマランドまできたのである。
『管制の指示に従うのは面倒だったにゃ』
そう言いながら、サマランドの駐機スペースに止めた4169から出てきたネオを出迎えたのは、シャールカであった。
『シャールカさんにゃ』
『シャールカさん』
ネオとメリアが呼びかける。ネオは目を細くしてシャールカを見ながら・・・。
『あ・・・いや・・・珍しく訓練機が飛行してきたのでな・・・様子を見に来た・・・』
シャールカの目は泳いでいた。
『頼まれていたオークの魔石だがにゃ』
ネオの言葉に思わずシャールカの体が硬直した。
(パラストアでエルバートに預けて逃げてしまったからな・・・何を言われるのか。謝らないと、譲ってくれないかもしれない)
内心ひやひやしながらネオを見るシャールカに
『報酬のことを聞いていなかったのにゃ』
ネオはシャールカの予想外言葉を発した。
『シャールカさん。この魔石、おいくらで買っていただけるのでしょうか』
メリアが言葉を被せた。ネオとメリアは4169で移動中、シャールカに対しての対処を相談していたのであった。まさか、サマランドの空港に現れるとは思っていなかったのであるが・・・。
予想外の質問に思わず
『1個、銀貨1枚でどうだ』
シャールカは思わず答えてしまった。
それを聞いたネオをメリアは、
『冒険者ギルドに売ることにするにゃ』
『そうですね。冒険者ギルドに売ることにします』
オークの魔石は、最近数が出ないこともあって1個金貨1枚くらいになるのである。シャールカの値段は、1000年前でも破格の安値であった。予想通りとも思えるシャールカの回答に4169に走り始めたネオをメリア。
4169に再び乗り込もうとしたネオをメリアに
『待ってくれ。1個、金貨1枚だそう』
慌てて言い直すシャールカに
『冒険者ギルドと同じ値段なら、サマランドまで来るのが面倒なのにゃ』
そう言って、ネオは4169に乗り込んだ。直ぐ後を追うメリア。シャールカは、自身がレベル20にも関わらず、ネオとメリアに追いつけず引き離されていった自分に気が付いた
(もしかして、ネオとメリアのレベルは上がっていた?)
調べる気であればタブレットで確認できたのだが、タブレットで確認する方法は、そぐ近くにいる人でなければわからないため、離れてしまったネオとメリアには確認できない。シャールカが4169の所についたときには、既に2人はエンジンをスタートさせてしまっていた。
シャールカと言えども、飛行を止めさせるすべはなく、呆然と4169が離陸して東の空に消えていくのを眺めていた。受理されたフライプランをシャールカは取り消す権限を持っていなかったのである。
・・・
ネオとメリアは、飛行訓練センターに戻ると、1Fのゴーレムに挨拶して直ぐにアミアに向けて移動した。途中、ノッスルで1泊したのち、アミアまでの200kmを途中、野宿1泊で移動してしまったのである。アミアの北門にたどり着くと、
『待っていたぞ』
そこには何故かシャールカがいた。背後にゴーレム兵を100体引き連れて・・・。
(用意がいいことだにゃ)
『交渉は決裂したのにゃ』
『そうです。決裂したのですよ。シャールカさん』
ネオに続いてメリアも棘のある言葉を発した。
『エルバートに預けて帰ってしまったことは謝る。どうか機嫌を直してくれ』
シャールカはネオをメリアに頭を下げた。
・・・
『・・・魔石は1個、金貨1枚で売るのにゃ。だがにゃ。エルバートの頼みを聞いて冒険者の面倒を見させたことに対しての補償がにゃ・・・』
ネオはメリアと相談しつつシャールカと交渉していた。場所は、パラストア空港3FのVIP待合室である。対するシャールカは、ネオをメリアのレベルが25になっているのを確認し、内心焦っていた。
(この2人に暴れられたら、私はもちろん、レベル20のゴーレムも多分敵わないだろう)
今のネオとメリアは実戦経験・・・そう、対ゴーレム戦での実践も豊富な大陸最大戦力なのである。100体のゴーレムを倒してしまう可能性すらあった。
(ここは、何か、ネオのご機嫌を取らねば・・・あっ!)
ここで、シャールカは子供のころの出来事を思い出した。
『ネオ。ちょっと待っていてくれ』
そう言い残すと、VIP待合室から慌てて出ていった。
((???))
ネオをとメリアはその姿を唖然として見送ったのである。
・・・
(あった!)
パラストア空港の北の一角。今は森の端にしか見えないところにシャールカは来ていた。子供のころ、美味しい実がなる木・・・正確にはつる草をこっそり植えておいたところである。本来は、ローラシア山脈の東側の奥地に生えるこのつる草を、自分のおやつのため、パラストア空港の北にこっそり植えたのである。1000年経って、他の木も生えていたため、誰にも気が付かれていなかったらしい。楕円形の果実がたわわに実っていた。
(この実をネオにやって機嫌をとろう・・・)
シャールカは自分の収納袋に果実を収納していったのであった。
・・・
VIP待合室に戻ったシャールカは
『私のとっておきの果実をプレゼントする』
と言った後、ネオとメリアの前に、先ほど収穫した実を積み上げた。部屋全体に独特のにおいが充満していく
『これは、何なのにゃあ・・・・?□◇×△・・・』
ネオの様子がおかしくなっていく。果実を掴むと頬ずりし始めた。その様子にメリアは勿論、持ってきたシャールカも目を見開いて驚いている。
『シャールカさん。この果実は何なのですか』
語気を強めて言うメリアに
『これは、ローラシア山脈の東側に生えているマタタムブという植物でな、甘い果実なのだ。蚊に対して忌避効果もある』
シャールカは様子のおかしいネオを見ながら言った。
(1000年のうちに変質したのか?・・・いや、私やメリアは何でもないぞ・・・どういうことだ?)
シャールカが脳内で自問自答していると
『これはまたたびなのにゃ・・・』
ネオの絶叫が部屋中に響いた。
マタタブム・・・マタタビの語源と言われているアイヌの言葉だそうです(諸説あるらしい)。マタタビに反応してしまうのはネオの猫の本性です。猫は、マタタビ反応でネペタラクトールを体に付着させ蚊を忌避しているのだそうです(実はよく知らない)。興味のある方は調べてみてください。ゴンドア大陸に生えているマタタブムは、こちらの世界にあるキウイフルーツのようなものになります(食べると美味しい)。なので、お転婆なシャールカは、おやつが沢山食べられるように、ルダに採取に行かせ、こっそり挿し木で植えていたのでした。