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ネオー間違って異世界に送られた猫  作者: OPPA
第14章 後日談・・・
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第156話 麦焼酎

『シャールカ様!』

サマランドの王宮にいつものように、セバスチャンの声が響いた。もはや恒例行事と化しているそのことに


『聞こえているぞ』

こちらも恒例の返事になりつつあったシャールカの返事であった。


『新生ゴンドアの民の不満が収まりません』

セバスチャンから予想外の言葉が出ていた。サマランドに新時代を感じさせるものがないというので、ビールを作って販売し始め、信じられない高値でゴンドア中に販売されていたのである。ゴンド航空局はビールの販売だけで、経費が全て賄えるのではないかと思われるほどに・・・。結果、ゴンド航空局は、国の財政に負担を掛けずに多くの雇用を生み出している存在になっていた。


『新しく販売されたビールですが、貴重過ぎて、民の口に入りません。新生ゴンドアの民は新時代の産物に触れることが出来ないのです』

セバスチャンは残念そうに言った。


(こいつ・・・自分もビールが飲みたいと言いたいのか?)

胡散臭い物を見る目でセバスチャンを見るシャールカに


『け・・・決して私もビールを飲みたいからではありませ・・・』

セバスチャンは言葉を最後まで言い終えることなく、シャールカに張り倒された。


『誰も、お前がビールを飲みたいとか言ってないぞ』

シャールカは語気を強めながらも


(はあ・・・。民の口に入る酒が必要か・・・)

内心ため息をついていた。


・・・


『ネオ!メリア!』

シャールカは、プリンセスシャールカ号でラオカ空港に移動すると、ラオカ村まで駆け込んで来た。シャールカの身体能力をもってすれば、馬車よりもはるかに速いからである。突然のシャールカ訪問にネオとメリアは、農作業を止め、シャールカを家に案内する。

 あれからドワーフたちが、入れ替わり研修という名の手伝いに来てくれているため、農場は無事運営出来ていた。今や、ロディア国最大の農場になってしまっていたのである。


『実は相談がある』

シャールカはそう言うと、今日の朝、セバスチャンとの出来事を話したのであった。


『そういうことなら、私たちも適任者たちがいます』

メリアがそう言って、家の外にある鐘を鳴らし始めた。


『一体何が始まったのだ?』

シャールカは、メリアの行動が理解できなかった。


・・・


10分としないうちに農場で働く全てのドワーフがメリアの家に集合した。


『メリアの姐さん。一体何かあったので?』

代表してロクがメリアに話しかけた。


『本日、シャールカ様が見えられました。皆さまの知恵を必要としています』

メリアは臆することなく言った。集まったドワーフたちに動揺が広がった。


『シャールカ様は、ゴンドアの民がたらふく飲めるお酒を造れないか悩んでおられます』

メリアは言い切った。


(そんなことは言ってないぞ!)

シャールカは心の中で叫んだ。


『それは、安くて大量に作れる酒ということか?』

『エールじゃだめなのか?』

『葡萄酒でもだめなのか?』

ドワーフも酒のことになると色々思うことがあるらしく、皆、呟き始めた。


『今のゴンドアに広まっていない、楽しく民が飲めるお酒が必要なのです』

何故かメリアが饒舌に語りだした。


(本当にそれでいいのかにゃ?)

ネオは、シャールカの方を見ると、始めこそ、シャールカの言動に驚いていたが、今はその様子を見ようという姿勢である。


(大きく間違ってはいないらしいにゃ)

ネオもメリアの様子を見守ることにした。


『ドワーフの里では、麦を買い込んで、蒸留酒を作っていますが・・・みな、里で飲んじまうので、里の外には無いはずでさあ・・・』

ドワーフの一人が妙なことを言い始めた。何故か、メリアの口元が緩んだかと思うと、


『あなた達、この村で、こっそり作ってますよね!』

メリアが言い放った。言われたドワーフたちは、最大の秘密がばれたと言わんばかりに動揺し始めた。


(ははあ・・・これは、最初から判っていたな)

ようやくシャールカもメリアの意図が理解出来たのか、楽しそうにニヤニヤしている。


(なんなのにゃ)

理解出来ないネオは、全く違う理由でドワーフのように動揺するのだった。


・・・


『ほう・・・これが麹というものなのか・・・』

シャールカはドワーフたちが隠し持っていた麹を見せられ、驚いていた。


『これを麦と会わせて発酵させるのです』

ドワーフはメリアに睨まれ、シャールカを前にして、緊張していつも使わないような語尾での会話をしていた。

『このとき、レモンのしぼり汁を混ぜるのが秘訣なんでさあ・・・』

思わず口走ったドワーフに、周りのドワーフから容赦ない鉄槌が下った。


『そんなことまでしゃべってどうすんだ。阿保』

メリアが睨む中、シャールカがいることすら忘れて叫ぶドワーフに、


『先を教えろ!』

シャールカの一言で静かになった。


『これで出来た現原料に、水と蒸した麦を加えて、7日から14日くらい発酵させるんでさあ』

ドワーフの説明に頷くシャールカ。


『そうしたら、鍋に開けて、蓋をして、この管を使って瓶の口につなぐのでさあ。そしたら、鍋を火で熱して、中の成分を蒸気にして瓶にしまうのでさあ。この時、瓶の入り口を水で外から冷やすのがコツなんでさあ』

余計なことを言ったとばかりに回りのドワーフから鉄拳制裁を受ける説明したドワーフ。


『これで完成なのか』

何やら液体の入った瓶を眺めるシャールカに


『本当は、これを半年くらい寝かせてやると美味しくなるのでさあ。待てないからすぐ飲んじまうのさあ』

説明するドワーフの言葉に周囲のドワーフももはや観念したのか、途中から諦めて何もしなくなっていた。


『なるほどな・・・誰か、サマランドでこの酒を製造しようというものいないか?』

シャールカの言葉に誰も返事をしない。


『もしかして、ドワーフの里の秘伝なのかにゃ?』

ネオが何気なく言った言葉に、ドワーフたちの顔色が悪くなった。

(ありゃ。図星だったかにゃ)


・・・


それから数日後、シャールカは、ネオとメリア、そして、酒の作り方を説明したドワーフを連れて、ドワーフの里を訪れていた。勿論、移動は回転翼機(ヘリコプター)である。


『いくらシャールカ様の頼みでも、秘伝の酒の作り方だけは勘弁してほしいのじゃ』

長老は苦しそうに言った。何せ、飢えて苦しんでいたとき、1000㎏の麦を支援してくれたシャールカの頼みである。だが、ドワーフにとって酒は大事・・・いや神聖なものだったのである。


『では、ドワーフが作って販売するというのはどうだ?』

『我々が作る・・・のですか?』

シャールカの提案に意表を突かれたのか反応できないでいる長老に、


『製造場所は、この里でもラオカ村でもよい。だが、できれば、空港の近くであるラオカ村であれば、販売しやすい。麦はこちらで用意しよう。ドワーフたちに酒にしてもらった後、ゴンドアが責任を持って買い取らせてもらう。そうすればドワーフも困らないだろう。ついでに自分たちで飲む分も作れば・・・』

話続けていたシャールカの言葉を遮るように


『その話、乗った!』

長老が決断を下したのであった。


・・・


半年後、ラオカ村の一角にドワーフの工場が建てられた。その周囲はネオの土魔法による壁で囲まれ、ドワーフ以外は許可された数人(シャールカ、ネオ、メリアの3人)以外入ることが許されないという厳重な管理の元、大量の麦がサマランドから届けられ、出来上がった蒸留酒が出荷されていく。麦から作られた途中で加熱して作る濃い酒として、“麦焼酎”と命名された酒は、ドワーフ秘伝の酒としてゴンドアの民の食卓に加えられたのであった。


『シャールカ様。なんで新生ゴンドアで作ってくれないのですか~』

セバスチャンの声がサマランド王宮に響いた。


『麦を大量に使うのだから悪い話ではなかろう・・・いずれ、この地でも負けないものを誰か考案してほしいが・・・』

民のための酒を提供することに成功したシャールカであったが、セバスチャンを満足させることは出来なかったのである。更に、この酒をつくることによってゴンドア大陸における麦の価格は上昇してしまった。他の国からは不満が発生したが、新生ゴンドアに住む麦農家の人々は

『最近は麦が高く売れてええなあ・・・シャールカ様は名君だな』

とあちこちで呟かれるほど、評判が良かったのは皮肉である。

シャールカ:民を腹いっぱい食べさせるはずが・・・麦の価格が上がってしまった(泣)

ネオ   :まあ、シャガイモを沢山食べるのにゃ

メリア  :トウモロコシからも作れませんかね・・・


今日、壱岐に美味しいものを食べに行こうという話をしていて思いつきました。壱岐は麦焼酎発祥の地なのだそうです(以前壱岐に行ったら、現地にそんな説明書きがあった)。

次回は未定です。

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