第150話 イパラ空港食堂
2話書いてしましました・・・つい、なんとなく・・・。
イパラ空港の空港レストラン(予定地)に2人の男女は座っていた。
『困った・・・』
アストラルは悩んでいた、そしてその横には、真似しているのかと勘違いするほどそっくりな姿勢のエリザベートがいたのである。
イパラ空港のターミナルはすっかり市場と化してしまい、飛行機での輸送に関係ない取引のために持ち込まれる大量の貨物があった。そのため、空港と街道の間の道は、拡張の上、舗装(石畳み)がされるほどであった。そして、当然、飛行機での輸送はいつも予約がかなり先まで詰まっている状態だったのである。その上、ドニアで見つかった胡椒の輸送もあって、8004はフル稼働状態だったのである。始めのうちは、他の空港にいる機体の応援も得られたのだが、他の空港でも需要が増えて余裕がなくなり、イパラ空港には、常に輸送待ちの荷物が溢れていたのである。
その解決策として、アストラルは、サマランドにいるシャールカに手紙を書いた結果、
“8006が完成したのでイパラ常駐機とする”
との連絡をゴンドア航空局から受けたのである。だが、航空局の職員から追加の伝言があった。
“明日、イパラに向かうので、イパラ空港レストランがどうなったのか見せてほしい”
という内容であった。空港が出来た時、空港レストランはオスニア国に任せられていたのである。市場になってしまった売店エリアのために、パンに、チーズと肉を挟んだものが、軽食として売られていたが、全自動食堂システムは、全く使っていなかったのである。
(まずい・・・このままでは、シャールカ様に怒られる)
胡椒の発見に気を良くしたシャールカは、追加で作ったBE36のイパラに配置することに了承したのである。ここで、シャールカの機嫌を損ねる訳には行かなかった。
とりあえず、食堂を稼働させることにしたのだが、肝心なメニューが無かった。
(とりあえず、ランチセットの販売をすればいいだろう・・・)
オスニア国には酪農地帯が存在し、乳製品を産出していた。そう、チーズやバターである。他国には販売できていなかったがヨーグルトもあった。
エリザベートは、市場で商人たちから、銀貨1枚で提供できそうな料理の食材を聞いて回ったが、チーズにしても、バターにしても高級品になってしまっていて、金額的に不可能だった。唯一あったのが、
『これは、乳が出なくなった廃乳牛の肉なんですがね・・・人気がないので、これなら、銅貨2枚くらいで1食分になりますよ』
と言われて渡された、牛の肉・・・牛肉であった。
全自動食堂システムのメニューを見ていたとき、
(もしかして、牛の骨付き肉でスープを作ったら・・・)
エリザベートがメニューを探すと、
“骨付き肉のスープ”
が出てきたのである。
(これだ!)
スープは、廃乳牛の肉を解体する際に出る骨・・・に僅かに残った肉を骨ごと煮込んだスープにしたのだった。
廃乳牛の肉は、そのままステーキしても美味しくなかった。皆、オークなどの味を知っているので、明らかに美味しくないのが解る・・・。
だが、エリザベートがステーキのメニュー選択に、
“特別な調味料を追加”
という欄を見つけたのである。
ドニアで採れた胡椒をINPUTしたところ、食堂システムのメニューに
“ドニアの胡椒で熟成させた肉のステーキ”
というメニューが現れたのである。
(おお・・・奇跡!)
エリザベートは早速、試作させてみた。もちろん、アストラルもである。
『廃乳牛の肉なのだろう・・・』
アストラルは気が進まないという気持ちのまま、一口食べてみた・・・
(・・・)
その様子をエリザベートが凝視していたのだが、何故かアストラルは一言も話さない。
(そんなに不味いのかしら・・・)
エリザベートが心配そうに
『あの・・・』
と話しかけた時、
『なんだこれ。美味いぞ!』
突然、沈黙を破って、アストラルが叫んだ。その様子を見て、自分も一口食べてみたところ・・・
(なにこれ美味しい・・・)
胡椒を使った味付けの熟成肉(実際は、全自動食堂システムが無理やり熟成させたもの)は、廃乳牛の肉の常識を打ち破るうまさだったのである。
これに、麦(これはサマランドから空輸されてくる)を使ったパンをセットにすることで、何とか銀貨1枚のランチセットが完成した。
『急だが、試しに提供してみよう』
エリザベートはアストラルに断って、急遽、空港レストランを開店させた。
なんと、呼び込みはアストラルとエリザベートである。市場の関係者は、面白半分にプレオープンした空港レストランのランチセットを注文し始めた。
少し遅い時間からの開始になったこともあり、30食限定だったのだが・・・
『これは旨い!』
『牛の肉みたいだが・・・どうしたらこんなに美味しくなるんだ!』
食べた商人たちが、エリザベートにその秘密を問い始めるというおまけつきの盛況となったのである(秘密ということで熟成肉の説明はしてなかった)。
最後は、商人たちも諦め、
『明日から、このランチセットが食べられるのですね・・・すばらしい』
と言いながら市場の仕事に戻っていったのである。
(これで、何とかなる。オスニア国の面目は保たれた!!)
エリザベートはアストラルを見ながら、ほっとするのであった。
・・・
翌日、麦を満載した“プリンセスシャールカ号”と出来たばかりの“8006”がイパラにやって来た。
積荷の麦が競りにかけられている脇で、空港レストランに案内されたシャールカは
『廃乳牛の肉を、ドニアの胡椒を使って味付けした肉にしてステーキにしたか・・・素晴らしい』
発想と味に満足したシャールカは叫んでいた。
(オスニア国には、更に酪農を頑張ってもらわなくては・・・)
安い肉を提供することは、彼女の目標である
“民が腹いっぱい食べられる世界を作る”
に繋がっていたのである。
『オスニア国には、今以上に酪農を頑張ってほしい・・・』
シャールカは満面の笑みでアストラルとエリザベートを見たのであった。
オスニア国名物、胡椒で味付けした熟成牛肉。
(最近、ステーキ食べてない無いなあ・・・)