第138話 再出発
2話書いてしまいました。
『では、ラオカ村をよろしくお願いします』
『わかったぞ。戻って来た時には一面農地にしておくからな』
心配そうに頼むメリアに、ロクが答えた。シャールカは、支援食料の手配をすると言って、サマランドに戻っていった。
『さて、ワイバーンの里を目指すかにゃ』
ネオはそう言うと歩き出した。今回は、リクとレクがいるので、普通の速さで歩いていく。勿論、荷物は全てネオのアイテムボックスに収納したので、リクとレクは短剣を腰に付けているだけという、旅姿としては、違和感のある恰好になっている。見送りのロクたちに手を振って、ネオたちは歩き出した。
『今日は、ロディアに泊まるのにゃ』
ミラは先にロディアに帰っていた。店を閉めたままには出来ないらしい。
『そう言えは、ゴブリンやスライムも以前より出てこないですね』
途中現れたゴブリン3匹を、拾った枝で瞬殺したメリアが言った。
『そうだにゃ・・・魔石も取れなくなるのかにゃ』
そんな会話をしながら歩いていくと、かなりゆっくり歩いたにも関わらず、夕方にはかなり早い時間にロディアの西門に着いた。冒険者カードを見せて通過するネオとメリア。リクとレクは、何か見せていたが、冒険者カードではないらしい。
『門で見せていたのは、何のカードなのにゃ?』
ネオはリクとレクに聞くと、
『これは、商業ギルドのカードです』
リクとレクは、街に物を売りに行くことがあったため、商業ギルドに登録しているらしい。
『あの・・・出来れば、追加で食料を買ってきたいのですが・・・』
リクとレクが言うには、いくらか商業ギルドに預けてあるお金があるので、それを降ろして食料を買っていきたいそうだ。
『わかったにゃ』
時間があるので、そのまま了解するネオであった。
・・・
商業ギルドで預けてあるお金を降ろし、肉や野菜を買っていく。ネオのアイテムボックスがあるので、鮮度が心配ないというのは楽である。買い物の最後に、ミラの店にいくと、予想通り、ミラが待ち構えていた。
『これを持って行ってくれ』
ミラが店の奥に置いてある大きな樽を指さした。
『これは、ひょっとして・・・』
メリアが樽から僅かにする匂いに気が付いて話そうとすると
『ドワーフにとって酒は命だ。頼む。持って行ってやってくれ』
ミラはドワーフの村のために酒を買い込んでまっていたのであった。
『わかったにゃ』
ネオはそう言って、アイテムボックスに樽を仕舞っていく。
(ドワーフは本当に酒が好きなのだにゃ)
今更ながら思うネオであった。
・・・
『久しぶりだにゃ』
ネオたちは、
“冒険者の宿 女神亭”
にやって来ていた。中に入っていくと、見覚えのある、背は高いがいかにも軟弱という感じの中年男が声をかけてきた。
『今日は4人にゃ』
そう言って銀貨12枚を渡すと、中年男は鍵を4つ寄越した。
『今日は1人部屋しか空いてないからこれを使ってくれ』
『わかったにゃ』
ネオ達は鍵を受け取って奥に向かった。
・・・
メリアが以前泊まったことがあるので、特に思うところはないようである。が、リクとレクは泊まったことが無かったらしく
『宿に泊まるのは初めてです』
『私もです』
何と、リクとレクはロディアで宿に泊まったことが無かったらしい。ミラなど、街にいるドワーフの家に泊めてもらっていたそうだ。
『明日から本格的に歩くからにゃ。ゆっくり休むのにゃ』
ネオはそう言うと自分の部屋に入っていった。
・・・
翌朝、朝食を食べた後、4人は東門から出て、街道を東に進んでいく。カバチ、アウトブと1泊しながら、進んでいくと、
『ガロータが見えてきました』
メリアが指をさす。魔物に襲われ壊滅的被害を受けたガロータであったが、かなり復興しているようで、沢山の馬車が出入りしているのが見えた。
『今日はここで1泊にゃ』
ネオはリクとレクに言った。
『はい』
『わかりました』
2人は素直に返事をする。途中の宿代、食事代を全てネオが出しているので、2人に文句はなかったのである。
(ありがたいことです)
2人は素直に好意に甘えていた。ネオから、その分、ドワーフの村に何か買っていくように言われたからでもあった。
『あの時はオーガでしたね・・・』
メリアがそう言ったとき、後ろから悲鳴が上がった。ネオ達が振り返ると、2匹のオークが後ろを走って来た馬車を襲っていたのである。
『助けるのにゃ』
ネオはそう言うと、アイテムボックスからトカゲ剣2を出した。メリアもトカゲ剣1を抜刀して走っていく。2匹のオークは、ネオとメリアの食料に化けていた。
襲われていた馬車の持ち主に感謝されながら、メリアはオークから魔石を抜いていく。ネオがオークと魔石をアイテムボックスに仕舞うと、馬車の持ち主は驚きながらも
『もしかして、ネオ様とメリア様ではありませんか?』
すっかり有名人になった2人であった。
・・・
冒険者カードを見せてガロータに入ろうとすると、門番に呼び止められた。
『シャロンちゃんのところに寄って行ってやってください』
ネオがよく見ると、以前、ここでオークを提供した兵士の一人であった。
(すっかりバレバレだにゃ)
ネオはシャロン達が住んでいたあの窯のある店を目指して歩いていった。
・・・
『えっ!』
『にゃんと!』
店の前には行列が出来ていた。
『はい。もうすぐ食パンが焼き上がります。購入されるかたはこちらにお並びください』
シャロンの声が響いていた。その直後、パンが出来たらしく、行列が少しづつ移動していく、そして、店から大きな食パンを持った人が嬉しそうに出てきたのである。しばらく、その様子を眺めていた4人であったが、
リクとレクが
『あのパンは美味しいのでしょうか・・・大きくて食べ応えがありそうです』
どうやら、食パンをみたことが無かったらしい。大きなパンを丸かじりすることを考えていたリクとレクであった。
『あれは、食パンと言って、サンドイッチようにネオさんが作ったパンです』
メリアがリクとレクに説明し始めた。
ようやく、行列が無くなったのを見て、シャロンに近づくと
『すいません。食パンは売り切れ・・・えっ!ネオさん。メリアさんも! お母さん。大変~!ネオさんとメリアさんが来た!』
大慌てで店の中に入っていってしまった。そして、数秒後、シャロンは彼女のお母さんの手を引いて出てきたのである。
『ようこそガロータへ。どうぞ、中にお入りください』
導かれるように4人は中に入った。
『・・・ということで、ドワーフの村に行くのにゃ』
リクとレクの説明と今回の目的地の説明をしたネオに、シャロンが彼女の母を小突いている。
『実は、この店のサンドイッチを試食してもらえませんか』
何やら意味ありげな言葉が出た。
・・・
結局、この日は、宿に泊まるのではなく、シャロンの家に泊まることになった。シャロンのお父さんは、今日も警備で忙しく、戻ってこないらしい。
『美味しいサンドイッチなのにゃ』
『美味しいです』
『こんな美味しいものがあるのですね』
『村の人たちにも食べさせたい・・・』
4人とも、高評価のサンドイッチを試食させてもらっていた。
『実は、最近飽きられているようで、売り上げが落ち気味なのです。食パンは見ていただいたとおりなので、問題ないのですが・・・』
食パンは、作っただけ売れる状態らしく、店としては問題ないらしいのだが、サンドイッチの売り上げは伸び悩んでいるらしい。
『もしかして、肉が手に入りにくくなっているからではにゃいのか?』
ネオの指摘に顔を曇らす2人・・・図星らしい。
『はい。肉が手に入りにくくなってしまって、仕入れ価格が高騰してます。その関係でサンドイッチの値段も高くなってしまっています』
シャノンのお母さんが残念そうに言った。オークなど、早々手に入らないらしい。
『最近ね。ニワトリの卵が市場に並ぶようになったの・・・これが比較的安いので、肉の代わりに茹でて食べている人が増えたの』
シャノンが残念そうに言った。
(にゃるほど)
『にゃら、タマゴサンドを作ればいいのにゃ』
ネオの言葉にシャノンと彼女のお母さんは驚いたのか、固まっていた。
『ちょっと厨房を借りるにゃ』
そう言って、ネオはタマゴサンドを作り始めた。といっても、元々あるサンドイッチ用のパンに、バターを軽く塗り、茹で卵を細かく切り刻んでからパンに塗りこんで、挟んだだけである。作りながら、ネオは脇にあった40cmくらいの魚の存在に気が付いた。
『この魚は?』
ネオの言葉に
『最近ラーバの街から運ばれてくるカツオンという魚です。昔からあったらしいのですが、最近肉が少ない代わりに市場で売っていることが多くなった魚です』
(カツオン・・・昔、波高が言っていたカツオのことかにゃ?)
『ちょっとこの魚をつかうにゃ』
ネオは、さっき作ったタマゴサンドの残りに油を足し、塩を少々入れてタマゴが原型をとどめなくなるまでかき混ぜた。そしてカツオンを焼いたあと、身をほぐして放り込み、軽くかき混ぜたのである。それをパンに載せてサンドイッチにしてみた。
『ちょっと食べてみてにゃ』
タマゴサンドとカツオンのサンドイッチを試食する5人。
『あれ・・・美味しい』
『これも意外に行けますね』
『2種類あるのが面白い』
『味が変わって楽しい』
『3種類選べるといいかも・・・』
概ね好評である。特にカツオンの入ったサンドイッチは、5人とも好評だった。
『3種類で1食にして売れば、値段も抑えられるし、味も色々あっていいのではないかにゃ』
ネオの言葉に頷く5人であった。
カツオンの入ったサンドイッチ・・・ツナマヨもどきのサンドイッチ。本当は生の卵から作るのだけど、この世界は、日本のように卵が生で食べられる世界ではありません。ゆえに、茹で卵をネオの怪力で完全に潰してしまうことにしました。