第133話 イパラ空港の開港
イパラの空港は8004が届く前に実質開港してしまっていたのです。それも、貨物中心の物流センター的な使われ方で・・・。
ネオによって、デコルの西からヒャッケラキアが駆除された後、予定どおり、デコルの西に転移魔方陣を広げ、建設ゴーレムリーダーと資材を呼び出した。今回は、駆除完了地域にネオによる5mの壁を設置して空港への魔物が入ってこないようにしている。それでも、建設中はネオが監視することになった。一方、シャールカは、サマランドに帰国したのである。
一方、サマランドでは、麦の生産力アップと販売促進のために、サマランドの王宮が一定額で買い取る策が効果を上げ始め、ゴンドア北西部では麦の二期作が広まりつつあった。とりあえず、8003を使ってアミアに販売、途中からラオカ空港経由でロディアに売り込み、何とか在庫を捌いていた。だが、魔物の減少が始まったからと言って、急に麦を大量に食べるわけではないため、今後、更なる販売先が必要な状況であった。
(やはりオスニア国だろう・・・あの国なら、酪農にも使えるしな)
そんなことを考えながら、食料増産を推し進めるシャールカであった。
・・・
シャールカのタブレットに連絡が入る。
“8004が完成しました。今から納品いたします”
機体とパイロットゴーレムはサマランドで受領することになっている。シャールカがタブレットを操作すると、8004がローラシア山脈を越えているところであった。
急いて、サマランド空港に向うシャールカ。セバスチャンが慌てて追いかけてきた。
『シャールカ様。何用ですかな』
急に出かけようとするシャールカにセバスチャンが質問した。
『8004が来るのだ。受け取り次第、イパラに向かうぞ!』
『また留守にされるので・・・』
シャールカの言葉に、嫌そうに返事をするセバスチャンであった。
そんなセバスチャンを無視するように、
『オスニア国に麦を売りに行くぞ。積み込む麦を用意しろ』
納品された8004とプリンセスシャールカ号を使って、オスニア国に乗り込む気であるシャールカであった。
・・・
『市場になってしまったな・・・』
アストラルはエリザベートを見ながら言った。
『はい。飛行機での輸送が出来ることを伝えたところ、クラトの大きい商会全てが店を出してくれました。オスニア国で作られたチーズやバターをアミアやサマランドに売り込んでいます・・・ただ・・・輸送量が不足しています。特に、イパラに常駐する機体がないので、他の空港常駐機の仕事がない日にしか輸送できないのが問題です』
エリザベートはそう言ってため息をついた。まさか、輸送する能力が問題になるとは思いもしなかったのである。中には、サンドワームをアミアの高級レストランに納めるといったことも行われていて、予想外に輸出品が多いことに驚いていたのであった。
『ほう・・・それが、先日の牧場拡張の計画とかと繋がるのかな』
アストラルは楽しそうにいった。
『はい。酪農をしていた者たちが、生産しただけ売れるという状況にやる気を見せておりまして・・・問題は、早く生産を増やさないと国内で消費するチーズやバターが高騰しそうなのです』
アストラルとは対照的にエリザベートの表情は冴えなかった。他国に持っていった方が高く売れるのであれば、商人たちは高く売れる方に持っていく。結果として、今までチーズやバターを消費してきたオスニア国の人たちの口に届かなくなる恐れがあったのである。
『とはいえ、せっかくのチャンスだ。牧場の拡張は積極的に進めていこう。食料不足にならないか監視は必要だな』
アストラルの言葉に
『サマランドから安い麦が届くようになりまして、食料不足の心配は大丈夫そうです』
エリザベートは、やっと破顔したのであった。
『まもなく、プリンセスシャールカ号、および8004が到着します。サマランドからの麦がありますので、積み下ろし次第、2Fで競売を行う予定です』
イパラ空港の管内放送が流れたのである。
『シャールカ様自ら、麦を運んできた?』
アストラルが驚きながらエリザベートを見る。
『多分そうでしょう・・・まさにトップセールスですね』
エリザベートは羨ましそうに言った。
・・・
駐機場には2機のBE36が駐機し、貨物室から麦が降ろされた。警備のゴーレムが、そのまま担いでターミナル2Fに運んで行く。その様子を見ようと、商人たちが遠巻きに眺めていた。
『シャールカ様!』
プリンセスシャールカ号の脇で仁王立ちしているシャールカにアストラルが声をかけた。
『おお、南東伯か。やっと8004が届いた。この機体はイパラ常駐機になる。存分に使ってくれ!』
シャールカにもオスニア国側の利用者が多くなっていて、その需要に応えきれないことが伝わっていたのである。隣に駐機している8004を指さしながら、オスニア国が期待しているであろうことを説明したのであった。
『ありがとうございます。これで商人たちの不満も和らぐでしょう』
アストラルの脇にいたエリザベートが嬉しそうに答えた。
(これで、輸出は大丈夫。牧場の拡大と一部工程に麦を飼料に加えて生産をアップさせれば・・・)
エリザベートの脳内はお祭り状態であった。
・・・
持ち込んだ麦は1時間としないうちに買い手が決まり、それぞれの商人が手配した馬車に乗せられて空港から出発していった。サマランドからの麦はまだまだ、オスニア国では貴重なので、皆、喜んで買っていくのである。更に、今ついたばかりの8004には、パラストアに持っていくチーズとサンドワームが乗せられていた。シャールカのタブレットにも、8004がパラストアに向かうフライプランが表示されている・・・。
もう、仕事か・・・。あまりの速さに驚くシャールカであった。
(私も、チーズを買って帰ろうかな・・・)
シャールカが2Fに歩き出そうとしたそのとき、オスニア国の騎士が走ってくるのが見えた。
(おや?)
シャールカは足を止めて、様子を見ることにした。
騎士は、エリザベートの前で止まり、
『申し上げます。ドニアの調査隊から緊急連絡があり、大量の胡椒を発見したとの連絡がありました』
その言葉に報告を聞いていたエリザベートの脇にいたアストラルが、
『詳細を説明せよ』
と口を挟んだ。騎士は口を挟んだ相手がアストラルなのが判るので、焦りながらも
『旧ドニアの街の一画に胡椒の木が大量に育っているのを見つけたそうです。荷馬車で運べないほど大量に収穫できそうとのことでした』
その報告にアストラルとエリザベートは
『様子を見たい』
と同時に叫んでしまったのである。
(胡椒がドニアで採れる・・・よいことではないか)
話を黙って聞いていたシャールカは口元をやや上げた。
『アストラルとエリザベート、今からドニアに行こう』
シャールカはドニアまで飛行することを決めたのであった。
ドニアは瘴気発生装置以外にもいろいろな研究をしていました。その中に、胡椒の栽培もあったのです。瘴気が作った森が胡椒が大量に育つ環境を作ったのは皮肉な出来事でした。