第131.5話 オスニア王宮(その3)
シャールカは、ネオをインゴニアに置いてきてしまったので、プリンセスシャールカ号で無理やりイパラ空港に来てしまったのです・・・。日本でも昔、開港前の空港に勝手に降りた人がいたという話を聞いたことがあります(但し、公式記録にはなし)。本当なのかな?
『エリー。シャールカ様から連絡は来たか』
アストラルは、エリザベートに聞いた。彼女は首を横に振る。それだけで、全てを察するアストラルであった。
シャールカに建設ユニットに連れていかれ、ラオカ空港の食堂まで連れられた結果、建設場所に決まったイパラ要塞の西に移動した。広げられた魔方陣シートを稼働させたシャールカを見て驚き、その後やって来たゴーレムとおびただしい建設資材に驚き・・・。当のシャールカは、
『後は任せた』
とパラストアに帰ってしまったのである。工事の様子は気になるので、毎日見に来ていたアストラルであったが、僅か7日で完成したのには言葉すら出なかった。
『我が始祖はすごい人だったらしい・・・』
この建設ユニットを作ったのはシャールカの叔父である。つまり、アストラルのご先祖様でオスニア国建国の人である。空港が完成すると、空港管理、及び警備のゴーレム以外は、貨物スペースに集まって機能停止していた。なんでも、シャールカが送還の魔方陣を稼働させて建設ユニットに返すことになっているらしい。アストラルは、当分の間、この空港への立ち入りを禁止。兵士を配置して侵入者を監視していた。一方、クラトとイパラ要塞までの街道を全て石畳に整備するべく、工事を行い、クラトから空港までのアクセスを、馬車半日で可能にすべく、整備していた。
建設リーダーのゴーレムは、
『空港レストランも完成している』
と説明してくれたのであるが、正直なところ、よくわからなかった。後は、シャールカに完成確認をすれば終わりだという。
(早く、シャールカ様が来ないかな・・・)
『あれは・・・もしかして』
エリザベートが、驚きながら指さした先、クラトにあるオスニア国、アストラルの執務室、その窓から見える先に空を飛ぶものが見えたのである。
『ほぼ間違いなくシャールカ様だろう・・・イパラ要塞、いや、空港に向うぞ』
アストラルはエリザベートに至急馬車を用意させるのであった。
・・・
『遅い!』
アストラルとエリザベートが、イパラに出来た空港に到着したとき、プリンセスシャールカ号の脇で仁王立ちのシャールカが叫んだ。
『既にゴーレムから完成報告を受け、奴らを返してしまったわ』
何と、シャールカ一人でやって来て、建設ゴーレムリーダーを見つけて再起動させ、空港の完成検査をしてOKを出してから、ゴーレムたちと資材を送還の魔方陣で返した後だという・・・。貨物スペースにあったゴーレムや資材は跡形もなく消えていた。
『今から案内するぞ』
シャールカはそう言って歩き出した。慌てて後を追うアストラルとエリザベート。
『あの・・・護衛の方々は・・・』
エリザベートが恐る恐る聞こうとすると、
『面倒なので、パラストア(空港)に待たせてある。帰りに拾っていくので大丈夫だ』
((一体どこが大丈夫なんだ))
アストラルとエリザベートの心の声が揃った。
『ここが売店予定地・・・あっちが全自動食堂システムだ』
ターミナルの2Fを説明していくシャールカは、構造がそっくりなラオカ空港を知っているので、迷うことなく説明していく。そして予想通り、水洗トイレに驚愕するアストラルとエリザベートを見て
(みんな考えることは同じだな)
妙に納得するシャールカであった。
『空港自体は、ゴンドア航空局の職員が担当するが、ここの空港レストランはオスニア国でやってみないか?』
シャールカの言葉に
アストラルとエリザベートは言葉もなく頷くのであった。
・・・
翌日、8003がイパラ空港にやって来た。赴任するゴンドア航空局の職員3人を乗せてきたのである。彼らは空港内にある宿舎で暮らすので、住宅は要らないのだが、人が暮らす以上、生活に必要なものは必要なので、それらが購入できるよう、便宜を図ってほしいとシャールカに言われている。食堂のメニューから使い方まで、職員が判っているとのことで、シャールカはパラストアに帰ってしまった。
『8004ができ次第、イパラ空港常駐機になります。それまでは、他空港の機体を借用する形での運航になります』
職員の説明を聞く、アストラルとエリザベート。
『運賃はいくらなのですか?』
エリザベートの質問で、最初の1ヶ月は往復金貨2枚です。ですが、その後の価格改定がないので、シャールカ様の新たなご指示があるまでは、往復金貨2枚です。
((安くない?))
アストラルとエリザベートはお互いの顔を見て首を傾げていた。
そう・・・ゴンドア航空局の職員は、サマランドの新生ゴンドア王国の職員であり、運航はゴーレム、設備は建設ユニットで作られ、燃料も建設ユニットから供給されるので、ほとんど負担がないのである。月に3件も利用客があれば、職員の報酬が払えてしまうという、あり得ない状態だった。
『エリー、この売店予定地だがもったいないので、市場を作って物流拠点にしてはどうだろう・・・』
アストラルは、エリザベートに提案してみる。国王が宰相にとる態度としてはおかしい気がするのだが、アストラルとエリザベートの関係は、元々家庭教師と生徒の関係だったこともあり、アストラルは、自分の判断に自信がないときは、エリザベートに提案する形で話すのが普通になっていたのであった。
『そうですね。クラトに持ち込む物資のコントロールとしても有効でしょうね』
イパラの要塞はクラトからも近い上、この国のメイン街道である東西を結ぶ街道のすぐ近くである。この空港には貨物スペースが作られており、各地の物資が届いても、ここで仕分けと保存が出来る。空港というより、物流拠点として有用だったのである。
エリザベートは、ゴンド航空局の職員に
『ねえ、他の空港では、どんな料理を出しているの?』
何気なく聞いたつもりであったのだが、
『はい。そう言われるだろうとシャールカ様に言われたので、ラオカ空港のランチメニューを一回分ご用意させていただいております』
そう言って、アストラルとエリザベートを空港レストランに連れていく。いつの間にか、入り口にはゴーレムが立っていて、立体映像のメニューが表示されている。エリザベートは、呆然とそれを見ていた。
『これは、メニューの立体映像です。ランチセットになります』
そう言って、アストラルとエリザベートに銀貨を1枚ずつ渡す。
『これをゴーレムにお渡しください』
職員に言われるまま、2人は銀貨をゴーレムに渡すと、ゴーレムは注文ボタンを押した。
アストラルは一度シャールカにラオカ空港まで連れていかれたので知っているものの、エリザベートには未知世界であった。
適当なテーブルに用意された椅子に座って待っていると、ゴーレムがランチセットを運んできた。
一回食べたことがるアストラルは余裕で食べ始める。一方、始めてみるエリザベートは目を白黒させながら
『魚料理?に何か挟んであるパン、黄色のスープ・・・』
未知の食事に固まっている。が、目の前にあるアストラルが美味しそうに食べているのを見て、試しにスープを一口含んでみると、
(なにこれ美味しい)
エリザベートも出されたランチセットを堪能したのであった。
『シャールカ様は、オスニア国らしいメニューを用意してくれることを期待されています』
そう言って、職員からここの自動調理ユニットが対応可能な調理一覧を渡された。
(クラトに戻って料理長に相談しましょう)
エリザベートは、渡された一覧を眺めながら思っていた。
エリザベートはメニューに悩みます。何せ、銀貨1枚で提供しないといけないので・・・。高級食材は使えないのです。それに、オスニア国らしい・・・”そんなものあるか!”と悩むエリザベートなのでした。