第131話 インゴニア王国訪問(その2)
『それはありがたい』
グルバードは嬉しそうにいった。現状では、レベル15のヒャッケラキアに対抗できるものがいないインゴニア王国にとって、最大の懸念事項であったのである。
『まあ・・・あれは元はといえば・・・』
途中まで言い掛けてシャールカは言葉に濁した。
(負の遺産は何とかしなければ・・・)
古代文明を滅ぼしたヒャッケラキアの存在は、シャールカにとっても頭の痛い問題であった。そしてなにより、シャールカにとって親とパラストアの民の仇なのである。
『ネオ、空港の建設が終わるまで、デコルに駐在してヒャッケラキアの殲滅をしてくれ』
交渉というより、シャールカの願望のような要求に
(当分、ラオカ村に帰れにゃいな・・・)
ネオは諦めるしかなかった。
・・・
ちょっと休憩を挟んで、会議は続く・・・。
『これが大豆というのですか』
シャールカはネオが持っていた大豆の種を1つ出させ、インゴニア王国に見せた。グルバードと、ローベスは、興味深く見ているが、
『このまん丸の種がどうして食料事情の改善になるのですか?』
ローベスが不思議そうに言った。
『実はな、この豆は肉に代わりになるそうだ』
シャールカの発言に
『???』
『???』
『???』
グルバードや、ローベスはもちろん、ネオも首を傾げる。
『実はな、先日ラオカに設置した空港レストランにある、全自動食堂ユニットの料理をしらべていたら、大豆を材料にした色々な料理が見つかった。そして、そこにあった解説によると、この豆は、肉と同じ種類の栄養を含んでいて、肉の代わりになるらしいのだ』
既に、インゴニアでは、魔物の発生数はかなり減ってきていた・・・つまり、魔物の肉が手に入りにくくなってきていたのである。米の生産にはまだ余力があるものの、不安要素ではあった。
『ほう・・・肉の代わりですか・・・興味深い』
ローベスは汗を拭きながらも、食料事情が改善されそうな話に内心喜んでいた。
(水田にしにくい土地にこれを栽培すれば・・・)
思わずにやけるローベスであった。
結局、現在、ラオカ村で試験栽培中なので、うまく収穫でき次第、インゴニアにも種を持ち込み試験栽培することで合意したのであった。
(断られる訳がにゃいけど・・・にゃんでインゴニアに勧めのかにゃ)
ネオはシャールカの本音が解らなかった。
・・・
夕食後、デコルの王宮に泊まることになった一行であったが、ネオの部屋に尋ねてくるものがあった。
『誰かにゃ?』
『私だ!』
ネオの問いに答えのはシャールカであった。
『入るぞ』
有無を言わさず入って来たシャールカは、周りに誰もいないことを確かめたあと
『すまん。どうかヒャッケラキアを倒してほしい』
そう言って頭を下げたのであった。ネオは部屋にあった椅子にシャールカを座らせると
『最初からこれが目的かにゃ?』
と目を細くしてネオはシャールカにいうと
『ああ・・・すまん。ヒャッケラキアだけは許すわけにはいかないのだ』
そう言って泣き出したのである。
その後、親とパラストア住民の仇であるヒャッケラキアへの恨み言を延々と話し続けるシャールカに眠い目をこすりながら付き合うネオなのであった。
・・・
翌日、グルバード、ローベスと共に、デコルの西にある空港建設予定地にやってくると、ネオは早速、魔力探知を行いヒャッケラキアを探し見る。
『どうだ。いるか?』
シャールカの問いに
『いるニャ』
そう言って少し先の丘を指さすネオに、グルバードと、ローベスが真っ青になる。慌てて護衛たちが二人を囲んだ。
『あの丘の中にかなり大きいコロニーがあるにゃ』
そして少し向きを変えると、ネオの顔色が悪くなっていた。
『そんなにいるのか?』
心配になってシャールカが聞くと
『多分にゃが、ローラシア山脈に沿ってかなり南までヒャッケラキアの生息域が出来ているにゃ』
過去にヒャッケラキアが発生してきたのは、いずれもローラシア山脈の東側であることを、ネオとシャールカは思い出していた。
(ワイバーンに手伝ってもらわにゃいと無理だにゃ)
ネオはヒャッケラキア駆除の困難さを理解したのだった。
『このままだとアントラニア王国の開拓地も危にゃいかも・・・』
実際には、アントラニア王国のヒャッケラキアは、瘴気発生装置と共に駆除しているので、数は相当減らしているのだが、殲滅させるべく倒したのでないので、他の巣が残っている可能性は否定できなかったのである。
(瘴気のレベルが低くなったので、そんなに増えることはにゃいはずだが・・・)
ネオは思ったより深刻な事態にため息をもらすのだった。
猫使いが荒いシャールカ・・・それは考え抜いた上の判断だったのです。
ゴンドアを繁栄させるため。
悲劇を繰り返さないため。
ヒャッケラキアの脅威を取り除く必要性を誰よりも理解しているのがシャールカなのです。