第130話 インゴニア王国訪問(その1)
アストラルをパラストア空港経由でイパラ要塞に送り返した後、ネオはラオカに戻って来て、大豆とサツマイモの栽培をしていた。ジャガイモとトウモロコシの栽培もあったはずだったのだが、メリアの指導の元ドワーフ3人が栽培しているため、ネオの出番はなかったのである。角ウサギを狩ってくるとドワーフ3人が喜ぶので、数日ごとに狩りはしたのだが・・・暇であった。今日も、大豆とサツマイモの畑を眺めていると、空港からゴーレムが走ってくるのが見えた。
(何かあったかにゃ)
ゴーレムはネオを視認したのか、目の前までやってくると
『シャールカ様がラオカ空港に見えられました。話があるのでお連れするようにと言われております』
ゴーレムの報告が終わると、ネオはメリアの方に向かって
『メリア。ちょっと空港までいってくるにゃ』
と言って空港に駆けだした。最近は、ドワーフ3人の指導をするメリアは
(今度はインゴニア王国だろうなあ・・・何日かかるのか)
ネオがしばらく帰ってこないことを予想するのであった。
・・・
『ネオ。よく来た』
空港で仁王立ちのシャールカの前まで来たネオに、いきなりシャールカは声を掛けた。
『来るなら事前に連絡がほしいにゃ』
ネオは思わず呟いた。
『今からインゴニア王国に行くので付いてきてくれ』
『はにゃ?』
シャールカの言葉を理解しきれないであるネオに
『インゴニア王国だけ空港がないという訳にはいかないからな。その話をしに行く。既に、先方には使者を送っているから、ちゃんと連絡は行っているはずだ』
シャールカはどや顔である。よく見ると、サマランド常駐機の8003とプリンセスシャールカ号が並んで駐機しており、後席には護衛と思われる騎士が座っていた。
『メリアに話をしておかないと・・・』
ネオがラオカ村に戻ろうとすると
『ゴンド航空局の職員に連絡に行かせる。騎士たちを待たせているから早く乗ってくれ』
シャールカは無理やりネオをプリンセスシャールカ号の右席に乗せてしまった。
・・・
飛行訓練センターまでBE36で移動した後、何故か用意されていた馬車でデコルを目指す一行。以前あった通行止めの処置は既に解除され、馬車での移動も可能になっているとはいえ、デコルに着くまでは数日を要したのである。途中の村でネオを見つけた村人たちに、神のごとく崇められしまうネオに
『ネオ。お前、ここで何をやらかした?』
シャールカに細い目で見られてしまうのであった。
『悪いことはしてにゃいのだ!』
ネオはシャールカの視線に反論するように叫んだ。
・・・
グルバードは、ローベスと共にデコルの王宮正面入口でシャールカを出迎えた。
『出迎え大儀!』
シャールカは馬車を降りてすぐに叫んだ。
『インゴニア王国へようこそ』
グルバードはシャールカに近づき話しかけた。
(あくまで対等の国として・・・)
言葉と裏腹に額には冷や汗がにじんでいた。
ローベスの先導で、王宮の会議室に移動した一行は、着席後、
『シャールカ様。よくお越しいただきました。インゴニア王国を代表して歓迎いたします』
さっき似たようなことを言ったはずなのだが・・・。シャールカに明らかに気おくれしている状態であった。
『今日、ここに来たのは2件相談したいことがある』
そう切り出したシャールカは、自分の意見を入れながら
・デコルの近くに空港を作り輸送サービスを行いたい
・大豆という作物があるが、インゴニアで作ってみる気はないか
という内容を説明したのであった。
最後に、
『これによって、インゴニア王国の民が腹いっぱい食べられるようにしたいのだ』
何故か、最後は彼女の持論・・・もはや口癖ともいえる言葉で締めくくられた。
『我が国にも空港を作って、飛行機による輸送が行われることは、大変ありがたいことです』
ローベスが発言したが、顔を曇らせ
『しかし、現在の我が国にあのようなものを作る技術も財力もありません』
ローベスは正直な気持ちを話していた・・・いや話してしまったのである。本当であれば、相手の手の内も解らない状態で、“我が国では作れない”と言い切ってしまうのは悪手である。にも拘わらず、ローベスにはとても空港や飛行機が作れるとは思えなかった。
『安心いたせ。場所さえ提供してもらえれば、ゴンドアで用意する。インゴニア王国にはデコルと空港を繋ぐ街道を用意してもらえればよい』
シャールカはそう言って胸は張った。実際は建設ユニットが作ってくれるので、用意するのはゴーレム用の魔石だけである。その魔石もネオが大量に渡してあるので、全く問題が無かったのである。
『それは・・・助かります』
ローベスは言葉を失った。インゴニア王国にはほとんど負担なく作ってくれるなど、彼の常識ではあり得なかった。
『ローベス。デコルの西にある丘のあたりはどうだろうか?』
グルバードが思い出したようにいった。水田の多いインゴニアにあって、デコルの西は水が乏しく水田が作れないため、人が住むことなく荒野になっていたのである。
『いや・・あそこには・・・』
ローベスが何か言いにくそうに口ごもった。
『何か問題があるのか?』
ローベスの様子を見たシャールカが問いただすと
『デコルの西にある丘にはヒャッケラキアの巣があるとの報告があります。空港の建設工事をすることで、万一ヒャッケラキアが出てきてしまった場合、デコルが壊滅してしまいます』
ローベスは汗を拭きながら答えた。
(グシケに報告したにゃ)
ネオは以前、デコルの冒険者ギルドで報告した内容を思い出していた。
『なんだ・・・そんなことか。それなら大丈夫だ。ネオを建設が終わるまで派遣しよう』
そう言ってシャールカはネオ見てほほ笑むのだった。
(全く猫使いが荒い・・・)
ネオはガックリとうなだれるのであった。
ヒャッケラキア対策に使われるネオ・・・。確かに、この世界ではだれよりもあてにはなりますが・・・。