第128話 ニジマス料理
翌朝、ネオは水槽をもって空港脇に池に来ていた。
波高から受け取った水槽を使って、ニジマスをパラストア空港まで運ぶのである。このために、網を用意したネオは、瞬く間に10匹のニジマスを水槽に入れた。
(雄雌わからにゃいが、10匹もいれば、にゃんとかなるにゃろ)
そう言って空港に戻ろうとしたとき、
(自分の食べる分もとっておくのにゃ)
更に、もう10匹とって、こちらはすぐに腸を出し、軽く水洗いしてアイテムボックスに入れた。
ネオがプリンセスシャールカ号に水槽を搭載し終わったとき、シャールカがやって来た。もちろん、メリアも一緒である。昨夜、ドワーフと飲んだはずなのに、何ともないと言わんばかりである。
(さては、自分にホーリーヒールを掛けたにゃ)
そう、この世界ではネオ以外には1人しかいない、回復魔法が使えるシャールカなのである。最近、その能力が上がっているらしい。ネオが感じるシャールカの魔力が明らかに増えている。
『では、さっさとパラストアに行くぞ』
既に、自分が操縦する前提で、フライトプランも処理済みとのことで、ネオとメリアは後席でおとなしく座っていることにした。
・・・
パラストアに着いた後、ネオが水槽を降ろしていると、
『ちょっと南東伯のところに行ってきたいのだが・・・』
とシャールカがネオを見た。
(ホーリートランスかにゃ)
『水槽の魚は早く湖に持っていった方がよいのにゃ』
ネオはそう言って水槽を指さした。
『解った。先に湖に行こう』
シャールカはネオの圧に負けて湖までついていくことにした。空港で待っていても面白くないからである。
水槽を持ったまま、猛スピードで走るネオをメリアとシャールカが追いかけるようにしてついていく。30分としないで、湖畔にたどり着いた。
『久しぶりだにゃ』
『すっかり綺麗になってますね』
湖畔は、すっかり綺麗に整備され、“冒険者の宿 湖畔”はその中心的な建物になっていた。よく見ると、冒険者ギルドの出張所まであるらしい。
『まずは魚を放流するのにゃ』
ネオはそう言ってアイテムボックスから船を取り出した。そう、この湖が出来た時、乗ってきた船である。船外機の燃料は、BE36に使っている魔石ベースの燃料で動くことを確認済みで、満タンにしてあった。
『少し沖で放流するのにゃ』
このあたりは水深が低く、放流しても、奥に行くまでに、他の動物や生き物に襲われることを心配したネオなのであった。
ネオとメリアが水槽をもって乗り込み、シャールカが少し沖に押し出してやると、無事、船は浮いた。船外機を動かし、ネオは船を沖に移動させていく。
(あいつ泳げないのに怖くないのか?)
メリアからネオが池でおぼれたことを聞いていたシャールカは、船を操船するネオを不思議そうに見ていた。
『このあたりでよいにゃろ』
ネオが船外機を止める。かなり大きな湖らしく、中心はかなり先のようであるが、魚を放流するのにこれ以上先に行く必要は感じなかった。
(魔物の反応なし・・・大丈夫だにゃ)
湖に魔物がいないことを確認したネオは水槽を、そのまま水中に入れた。水中で水槽の蓋を開けると、ニジマスはゆっくり湖の中に消えていった。
『元気に育ってにゃ』
ネオは思わず呟いた。
・・・
船で湖畔まで引き返してくると、大勢の人が集まっていた。
『あっ!コレットちゃん』
メリアが叫ぶ。ネオは、メリアが手を振る先を見るとかなり大きくなった女の子・・・成長したコレットちゃんがこちらに大きく手を振っていた。
船を岸に置いてコレットちゃんに近づくと
『来てくれるなら連絡くらいくれればいいのに・・・シャールカ様は中に入ってもらったわ』
よく見ると、宿の1Fにある食堂に座って何か飲んでいるシャールカが目に入った。
『そうだにゃ。ちょっとシャールカを送っていったらすぐ戻ってくるにゃ』
ネオはアイテムボックスに入れたニジマスを思い出したのである。
一方、周辺では、突然のシャールカ様来訪に、居合わせた冒険者たちが興奮気味にシャールカを眺めている。そう、彼らにとって、シャールカは、ゴンドアの女王様であるだけでなく、レベル20という最高峰の剣士でもあったのである。だが、ネオとメリアは忘れていた・・・自分たちも、レベル20の冒険者であることを・・・。
『あっネオ様だ!』
『メリア様もいるぞ!』
湖畔でシャールカを遠巻きに見ていた冒険者は、ネオとメリアというシャールカよりも近づきやすい(?)存在を見つけ、駆け寄ってきたのである。
『メリア。宿で待っててにゃ。俺はシャールカを送ってくるにゃ』
ネオはそう言うと、宿に駆け込み、シャールカを抱えて走り出した。
瞬く間にアミア方面に消えるネオとシャールカに冒険者の目線はメリアに向く。
『メリア様。模擬戦をお願いします』
冒険者たちがメリアに殺到した。
(待ってて・・・こいうことだったのね)
メリアは、冒険者たちに頼まれるまま、模擬戦を始めるのだった。
・・・
『メリアは大丈夫なのか?』
パラストア空港に着いたシャールカは、ネオに言った。
『100人で掛かってきてもメリアに勝てる奴はいないにゃ』
レベル20にレベル3が100人で掛かっても勝てるはずないことを、ネオは知っていたのである。
『早く、イパラに行くのにゃ』
パラストア3Fの魔方陣によって、イパラ要塞に移動するシャールカとネオであった。
・・・
『シャールカ様!』
どこから話が伝わったのか、それともただの偶然か、イパラ要塞の転移魔方陣から通路に出たところにアストラルが待ち構えていた。
『おお、南東伯よ。ちょうどよい。お前も来るのだ』
そう言ってシャールカはアストラルを連れて建設ユニットへの魔方陣がある方に歩いていく。
『ネオ!明日迎えに来てくれ!』
そう言い残し、シャールカはアストラルと建設ユニットに転移していった。残された護衛たちは目を白黒している。
『用が済んだらあの2人は戻ってくるはずにゃ』
ネオはそう言うと、転移魔方陣でパラストアに戻ったのであった。
・・・
パラストア空港のゴンドア航空局職員に、明日まで、プリンセスシャールカ号の駐機を依頼すると、ネオは湖畔に向けて走り出した。今度は水槽を持っていない(正確にはアイテムボックス仕舞った)ので、全速力で移動する。20分とかからず湖畔についた。
『ありゃ・・・』
あまりの光景に思わず声が出たネオ・・・。模擬戦を挑んで来た冒険者をメリアが全て気絶させていたのであった。
『メリア・・・やりすぎにゃ』
『訓練にもならないです』
メリアはすましていった。そしてその様子をおっかなびっくり見ているコレットちゃんとその両親の姿があった。
・・・
ネオはホーリーヒールをこっそりエリアで掛け、冒険者たちを回復させた後、宿の中で改めてコレットちゃんとその両親にあいさつしていた。
『お久しぶりにゃ』
ネオの言葉に
『お久しぶりです』
『お久しぶりだねえ・・』
どことなくぎこちない返事がコレットちゃんの両親から帰って来た。
『今日は土産があるのにゃ』
そう言ってネオはアイテムボックスからニジマスを取り出した。
3人が興味深そうに見ている。
『これはニジマスといって、ラオカ空港のレストランの看板メニューの材料なのにゃ』
・・・
ネオが持ち込んだニジマスは、早速ムニエルになった。といっても、ここには全自動食堂システムが有るわけではないので、フライパンを使ってネオが料理したのである。塩、胡椒を振った後、小麦粉をまぶし、油をひいて焼いただけである。にも拘わらず・・・
『美味しい!』
『美味い!』
『ここでもメニューにしたいね』
コレットちゃんのお母さんであるマレットさんが叫び、コレットちゃんのお父さんが絶賛、コレットちゃんは宿のメニューにしたと言い出すありさまである。
『実はな、さっき、この湖に10匹放流したのにゃ』
ネオの言葉に3人は一瞬固まった。そして
『この魚がここでも食べれるようになる~♪』
とはしゃぎだしたのである。
(そんなにすぐには増えないはずにゃ)
ネオはため息をついた。
次回は未定です。