第116話 穀倉地帯対策
シャールカは、ブジェの開拓村をネオとメリアに任せ、サマランドに帰還していた。飛行訓練センターのBE36を使えば1日で往復できるのだが、サマランドの先にあった空港は、北西管制所脇にあった空港は滑走路以外使える状態ではなく、サマランドからも100km離れていることから使いにくい。
(いっそ、新しい空港を作るか・・・)
シャールカは、昔の記憶を辿っていく・・・
(確か、都市建設ユニットがあったはず・・・どこだったけ・・・)
『シャールカ様!!』
サマランドの執務室に大きな声がとどろいた。シャールカが顔を上げると、そこには初老の男が一人。不在がちのシャールカに代わり、旧バルディカ帝国・・・新生ゴンドア王国を切り盛りしているセバスチャンである。本来は、執事として、オスニア国のアストラルから派遣されてきた、アストラルの親戚である。ブジェの開拓村に行っていることが多いシャールカに代わり、実質的に新生ゴンドア王国を切り盛りする羽目になった男である。
『セバスチャンか・・・どうした』
シャールカはようやく目の前の男を思い出した。
『陛下!どうしたではございません。旧バルディカ帝国内から民の不満が出てきております』
そう言いながら、男は1枚の紙をシャールカに渡す。シャールカは渡された紙を読み始める。それは、シャールカがブジェの開拓村で進めている食料増産計画が、ゴンドア北西部の穀倉地帯で生産される食料の売れ行きに支障が出ると心配している者たちからの、生活保障を求めるものだった。
(そうか・・・他の地域で食料が増産されれば、北西部の穀倉地帯で生産する麦の価値が相対的に下がる・・・かもしれないか)
読み終わったシャールカはため息をついた。
『確かにな・・・だが、食料を増産して民に腹いっぱい食べてもらうことは私の悲願である。これだけは譲れない・・・』
セバスチャンに話すというより、独り言のようにぼそぼそというシャールカに
『陛下。穀倉地帯の民を安心させなければいけません。まだまだ、食料は十分ではありませんので、彼らのやる気を確保しなければいけません』
とセバスチャンは言い返す。ゴンドアは1000年前に比べ、人口がかなり減っていた。それゆえ穀倉地帯の麦だけでも足りていたのだが、魔物の被害を抑え込むことでの人口増加が予想される上、災害への備えも考えれば、穀倉地帯の麦も増産したいくらいなのである。だが、穀倉地帯には、他の地域での農業生産によって麦が買い叩かれることを心配する農民、商人が多くいたのである。
『麦の最低買取価格を決め、ゴンドア王国が買い取ることにしようと思うのだが・・・』
シャールカの言葉に
『現状では、王国が買い取ることはほとんどないでしょう。麦の最低価格維持には有効かと思いわれます』
とセバスチャンは返す。
最低買取価格を決め、王国が買い取ることを保証することで、増産すればそれだけ手元の収入が増える仕組みを作ろうという考えでもあった。
『恐らく、あと数年で魔物の狩猟数は激減するはずだ。今のうちに食料増産が必要になる』
瘴気発生装置を破壊し、瘴気を減らした結果、元のゴンドア並み・・・すなわちゴブリンや角ウサギくらいしかいない世界になるはずだと思っているシャールカである。オークやオーガは、ローラシア山脈の一部にのみ生息する状態になるはずだった。
『1000年前の魔物発生レベルを参考にすると、陛下の言われた状態が予想されます』
セバスチャンは、アストラルから、古代文明が栄えていたことの記録・・・オスニア国に残っていた記録を読ませてもらっていたのである。その記録自体は、シャールカが、イパラ要塞の地下で見つけたものであったのだが・・・。
(叔父上が残してくれた資料は助かる・・・あの資料がなければ、この先のゴンドアに必要なものが予測できなかった)
麦の最低買取価格の話は、昔のゴンドアのルールでもあった。シャールカはそんなことは解っていなかったが、イパラ要塞の地下にあった書類によって、当時のゴンドア運営方法にあった物である。シャールカはセバスチャンから以前説明を受けた内容を思い出しただけだった。
『では、早速準備に掛かります』
セバスチャンは一礼した後、執務室を出ていった。
・・・
(これだけ資料を残してくれた叔父のことだ。都市建設の資料もあるかもしれない)
シャールカは自身が見つけたイパラ要塞の地下の資料をアストラルに丸投げしていたのである。アストラルは、自国の復興を優先するように、シャールカに言われたこともあり、また、見つかった資料は古代文明の文字で書かれていたため、その解読はあまり進んでいないらしかった。
(ネオを連れてイパラ要塞の地下に行こう・・・もしかすると重要な資料がまだあるかもしれない。あの魔方陣の先になにがあるはずだ!)
あの魔方陣・・・何かシャールカは思い出しました。