第115話 ブジェ開拓村
また書いてしまいました。
シャールカがパラストア空港で、ジャガイモコロッケをアルガソードやゲルドに食べさせてから1年が過ぎた。当初、ネオとメリアの力だけで開拓するつもりだったブジェ付近の草原は、コロッケの噂を聞きつけた一部のアミア市民から、絶大な協力を得ることになった。
(アントラニア王国の面目を辛うじて保てた・・・)
ゲルドは、ブジェの開拓村を視察しながら思っていた。・・・そう、アミア市民にコロッケの噂を流すように護衛たちに指示したのはゲルドである。そして、湖畔のダンジョンでレベル3にした開拓志願者を送り込んだのであった。
『ゲルド自ら視察とは・・・』
シャールカは、訓練センターとサマランドを何回か往復しながら、開拓を指揮していたのである。シャールカのいる時を狙ってゲルドがやってきたことは公然の秘密である。実際は、いない時間の方が長いシャールカに代わり、ネオとメリアが中心に進められていたである。
『すごいですな・・・たった一年で、一面の畑になってしまうとは・・・』
ゲルドは多少大袈裟に言った。
手に入ったジャガイモはほぼ全て種芋として植えられ、まずは種芋の数を確保することが優先された。予想以上に開拓面積が広がったので、連作防止のために波高から渡されたトウモロコシの栽培もおこなわれ、運が良かったのか、トウモロコシも順調に生育していた。結果として、かなり広大な面積にジャガイモとトウモロコシが育っている畑が広がっていたのである。開拓者にはアントラニア王国からの支援で食料等が配られたので、開拓者はジャガイモとトウモロコシをゴンドア全土に広めるための種芋、種の確保に注力することが出来たこともあり、アントラニア王国の支援が開拓者の心の支えにもなっていたのである。
『もう少しで、よその地域に渡せる種芋が確保できる見込みだにゃ』
『トウモロコシも沢山種が採れそうです』
ネオとメリアの頬が緩んだ。何せ、農業の経験はない。頼りは波高が教えたことと、残した栽培方法だけで、ゴンドアの気候に適応できるのかもよく解っていなかった。だが、結果としてはかなりの豊作になりそうである。畑に進入しようとした魔物の退治に明け暮れた日々もあっただけに、順調に育っている姿に思うところがあったらしい・・・。
(そろそろラオカ村に帰りたい・・・)
メリアは村が気になっていた。
・・・
ブジェの開拓村に豪華な馬車がやって来た。
『シャールカ様!』
馬車から降りてきたのは、オスニア国のアストラルであった。エリザベートも同行してきたのか、同じ馬車から降りてきた。
『おお。南東伯ではないか。遠路はるばるよく来たな』
シャールカは収穫されたジャガイモを確認する作業を止めて破顔した。
『シャールカ様・・・自ら作業されておられるのですか!』
エリザベートは、シャールカが作業をしているのに驚愕したのか、声が裏返っていた。
『エリザベートと言ったな。私はゴンドアの民に腹いっぱい食べてほしいのだ』
そう言って、ジャガイモも1つ放り投げる。思わず、両手で抱え込むように受けたエリザベートは、
『すばらしいお考えです』
驚きながらも答えていた。
(シャールカ様は本気らしい)
エリザベートは、アストラルからジャガイモの話を聞いていたのだが、そんな都合の良い作物があるわけがないと半信半疑だったのである。旧ドニア付近の森を農業地帯に出来ないか検討していた南東伯が、半ば無理やりエリザベートを連れてブジェに来たのといのが実態である。
『エリー。この作物を、ドニアを拠点に開拓すれば、我が国の食料事情もかなり良くなるのではないかと思うのだが・・・』
アストラルは、エリザベートに懇願するかのように見つめながら言った。
(まったく、家庭教師時代じゃあるまいに・・・そんな目で見られたらいやと言えないでしょ)
エリザベートは心の中で叫んでいた。
・・・
シャールカとアストラル・・・実際はエリザベートの協議により、ブジェの開拓村の団員から指導者を募り、ドニア周辺を開拓することになった。ネオとメリアまでは必要ないらしい。開拓団員は、ゴンドア各地の開拓を指導することを前提にしていたからであった。
『我が国の兵士達もレベル6が増えましたので、彼らに開拓させれば大丈夫です』
エリザベートは労働力に勝算があった。幸い、今は戦争や紛争はない。なので、湖畔のダンジョンでレベル3にした兵士達に南東訓練所に挑戦させ、かなりの数のレベル6を確保していたからである。
(開拓はレベル6の兵士を主力にして・・・。入植者には湖畔のダンジョンでレベル3にすると言えば、希望者が殺到するでしょうし・・・)
エリザベートは頭の中で描いた勝算ににやけていた。が、突然、現実に立ち返ったのか、引き締まった顔に戻る。早く帰国しないと、政務に支障が出かねないからであった。
『早く帰国しましょう。政務が心配です』
エリザベートはアストラルに懇願するように言った。
『ん?』
それを聞いたシャールカは、
『種芋とトウモロコシの種は開拓指導者に持たせて、先に帰国するか?』
そういってにやけた後、
『ネオ!ちょっとオスニア国までアストラルを連れて行ってくれ!』
傍を通りかかったネオを問答無用で捕まえたシャールカであった。
・・・
『全く、猫使いが荒いにゃ』
アストラル、エリザベートは護衛と共に、馬車でパラストア空港に向かっていた。
『ネオ殿。本当に大丈夫なのでしょうか』
エリザベートは心配そうに聞いた。
『大丈夫にゃ。シャールカも使ったしにゃ』
パラストア空港に到着すると、ネオを先頭に空港のターミナルビルに入っていく
『いらっしゃいませ。パラストア空港へようこそ。私は、案内人ゴーレムです』
ゴーレムが元気よく挨拶してきた。手を振って答えるネオの後に入ってきた、アストラルとエリザベートはゴーレムを見た途端、
『出た~!!』
思わず叫んでしまったのである。幸い、ネオとゴーレム以外は護衛くらいしかいないので問題ないのだが・・・。
ネオからゴーレムの説明を受けたアストラルとエリザベートは
((恥ずかしい~))
叫んでしまったことを後悔していた。
『こっちにゃ』
ターミナルの3FにあるVIP 待合室・・・一番奥の部屋に入ると、シャールカが以前破壊した壁のところにやって来た。
『これが魔方陣・・・』
アストラルは目の前にあるホーリートランス用の魔方陣を眺めていた。
『そうにゃ。これがホーリートランスの魔方陣にゃ』
そう言いながら、シャールカに渡された魔石を壁にセットした。
『早く中に入るのにゃ』
ネオの言葉に、アストラルとエリザベート、そして付いていくことに2人の護衛が中に入ると、
『馬車と種芋を頼みます』
エリザベートの言葉が言い終わったのを見計らって、
『ホーリートランス』
とネオが唱えると、魔方陣内にいた皆の視界が真っ黒になった。少し、間があって、天井から明かりが降りそそいできた。
(前と同じだにゃ)
ネオは成功を確信した。
『イパラの地下に着いたのにゃ』
護衛の一人が確かめるように扉に向かい外を確認する。シャールカのように蹴り飛ばしたりしないので、外にいた兵士は無事であった。
アストラルとエリザベートを地下通路まで送ると、
『帰るにゃ』
とネオはそのまま引き返し、魔方陣近くの壁に魔石をセットしてパラストアに帰還したのだった。
その様子を呆然と見ていたアストラルとエリザベートは
(これをいつも使えれば・・・)
と思うのだった。
ゴンドアの南東は元々砂漠(砂丘?)が広がるところでした。瘴気発生装置により森がドニア周辺に出来た後、瘴気発生装置がネオによって破壊されたあとも、森は残ったのです。ドニアの街跡を利用して、森を開拓し、食料事情を改善しようというアストラルの野望なのでした。シャールカの願いにも合致する野望だったので、話がすんなりいったという訳です。
ホーリートランスは、現在、ネオしか使えない魔法なのです(第84話参照ください)。