第112.5話 ゲルド・ド・イスタールの報告(その9)
ちょっと続きを・・・
『ブジェの村の開拓拠点の件ですが・・・』
ゲルドの話を遮るように右手を挙げたアルガソードは、
『ああ・・・シャールカ様の開拓の話だろう・・・』
明らかに嫌そうに言葉を遮った。
『どうやら、本当になにか作物を作るらしいです』
ゲルドは嫌がるアルガソードに無理やり聞かせるように言った。
『場所だけ使わしてもらえればよいとのことです』
ゲルドの言葉に、
(あの草原は、今までも畑にしようとしたことがあったが、麦は育たなかった・・・)
アルガソードは、メストの近くで実験的に草原を畑にする実験を指示したことがあったのである。出来た畑に麦を植え、馬車で水を運んでみたが、土地が痩せているのか実がならなかったである。
3ヶ月前、突然シャールカが乗り込んできて、
『ブジェ近くの草原に畑を作らせろ』
と言われ、思わず許可をしてしまったのだが・・・。畑に水をやるだけでも大変な労力が必要だったのである。にも関わらず労働力は要らないだと・・・
(一体どうするつもりなのだろうか)
『それが、ネオ様とメリア様を連れてブジェに現れ、草原を開墾させているそうです。かなり広い範囲が畑になったようで・・・』
ゲルドは、聞きたくなさそうなアルガソードを無視するように話続けた。
『シャールカ様は作物を育てるのに水が必要なのをご存知なのか?』
アルガソードはゲルドを見ながら呟いた。
『それが、先日、遺跡が川になったところから水を草原に引いているようです』
『どうやって!!』
アルガソードはゲルドの言葉に驚いて叫んだ。
(あの川の両岸は謎の石が敷き詰められていて、水を引くことなど出来ないはず・・・埋め込まれた石は、ハンマーで叩いても割れず、魔法で攻撃しても傷一つつかなかったはず・・・)
アルガソードは以前、あの遺跡を調査させたとき、現在、川岸になっている石についての調査報告を受けていたのである。
『それが、シャールカ様があるところの石を外すと川の水は自然に草原に流れ始めたそうで・・・』
『どういうことだ!』
アルガソードはゲルドの言葉が理解できなかった。
『シャールカ様のお言葉によると、取水口を開けただけだと言っていたそうです』
(???)
『つまり、元々、水を草原に引けるように出来ていたと言うのか?』
アルガソードはゲルドの言葉を理解したらしい。
(つまり、古代文明は元々あの川を使って草原を農地にしようと計画していたというのか・・・だが、土地が痩せているのはどうにもなるまい)
『ネオ様とメリア様に、森から落ち葉を大量に運ばせて土に混ぜているそうです』
(そんなことでどうにかなるのか?)
この大陸では、土の養分についての知識はほとんど普及していなかった。ゴンドアの北西部にある穀倉地帯はローラシア山脈から季節風で大量の落ち葉等が毎年巻かれ、それをそのまま畑に混ぜていただけだったのである。インゴニアの水田に至っては、毎年発生する洪水で土壌に落ち葉等の養分が流れ込んでいただけだったのである。
『麦を植えるのか?』
アルガソードは、ゲルドに尋ねるように言った。
『それが、”じゃがいも”という土の中に出来るものだそうで・・・1つ見せてもらったのですが、私には異常な形をした木の根のように見えました』
ゲルドは彼自身が半信半疑の内容を説明しているせいか額に汗がにじんでいた。
(シャールカ様が言っていたことは本当なのだろうか・・・)
ゲルド自信、あんな木の根のようなものが食べられるとは思えなかったのである。
アルガソードは、ゲルドの報告を聞いて、額に右手に宛て、上を向いた。
(シャールカ様は気がふれたのか?木の根など食えるか!)
『近く、試験栽培したものをアミアに持ってくるとのことです』
『シャールカ様がか?』
アルガソードは、ゲルドの報告に思わず聞き返した。どう考えてもシャールカ以外に持ち込むものなどいないはずなのだが・・・。
『アミアに来て試食会を開くと言っておりますが、いかがいたしましょう』
『好きにさせろ!』
アルガソードは、投げやりに言った。
(本当に食えるのか・・・)
護岸工事時に取水口を用意していたが、古代文明崩壊とともに忘れられていたもの。シャールカは知っていたらしい・・・。
そして、開墾作業をネオとメリアに協力してもらうように頼みこんでブジェに連れてきたのであった。
(シャールカ自身も作業する気持ちがあったらしいが、女王様が農作業をするわけにはいかなかったらしい・・・)森から落ち葉を持ってきて混ぜるのは、波高から言われたものである。