第111話 ジャガイモ栽培(その2)
以外と早く出来ました。
『これでよしと』
波高はJA4169に大きな段ボール箱を積み込んでいた。通販サイトで購入した種芋である。
『どこに持っていくの?』
整備士さんから問いには曖昧に答える。まさか、異世界から頼まれたとはいう訳には行かない。そのため、フライトプラン上は、大分に行くことになっていた。
・・・
ランウェイ07から離陸したJA4169は阿蘇山に向かって高度を上げていた。高度6000ftで中岳の上空まで来た時突然、真っ白な雲に覆われる・・・。2秒後、セットしていたVOR1がFORMからTOに代わり、113.45MHz にセットしたVOR2が北を示しているを確認した波高は、VOR1の周波数を113.45MHzに変更、ホーミングしながら高度を下げていった。
今回は、特に無線通信はないらしい。見えてきた滑走路にそのまま着陸する。前回と同じ場所・・・建物の前まで機体を移動させると、見覚えのある顔が3つ並んでいた。操縦席から軽く手を振った後、エンジンを停止。電源類をOFFにして外に出た。
『また来ましたよ』
3人にむかって波高は叫んだ。
(面倒なことになったなあ・・・)
前回から28日後のフライトである。何せ、勝手に異世界に転移されてしまうので、波高に拒否権はない。戻るときは、転移直後のタイミングに戻されるので、行方不明にはされていないのであるが、正直面倒である。
機体から降りた波高に、シャールカが歩み寄り
『頼んだものはあるか?』
と波高に顔を近づけた。
『持ってきましたよ』
波高はそう言って貨物室の扉を開けた中には、段ボール箱に入った種芋が鎮座している。
シャールカは、段ボール箱を取り上げ、機体から降ろすと、地面に置き、見えていた種芋を見てにやけていた。
『芽が出かかっているな。直ぐにでも植えよう!』
シャールカの声が響いた。
『今度は、シャールカも手伝うのにゃ』
『そうですよ!』
ネオとメリアが嫌そうに声をあげた。
・・・
訓練センターの敷地内にある土地をある程度畑として作っておいたところに移動した。シャールカは畑つくりを見ているだけで、作業はネオとメリアがしたものである。種芋の植え付けはシャールカにも手伝わせる気であったネオとメリアであった。
『私は王家の人間なのでな・・・』
何とか作業から逃げ出そうとするシャールカ。それを目を細めて見るネオとメリア。そして、その様子を見た波高は
『シャールカの希望なのだろう?何故しない』
思わず言ってしまったのである。その言葉ににやけるネオとメリア。
(上手くいったのにゃ)
『わっ・・・わかった。やりますよ。やりますから!』
シャールカは波高の言葉に耐え切れず答えた。
・・・
種芋は、適当な大きさに切ってから、25~30cm間隔で植えられた。もちろん、波高の監督の元、ネオ、メリア、そしてシャールカが作業した結果である。
『農作業がこんなに大変だとは思わなかった』
種芋を植えただけなのに、悲鳴に近い声を上げるシャールカ。それを見てネオとメリアは少し嬉しそうである。
(これは、ちゃんと言っておかないと・・・)
『水やりを忘れずに、但し、多すぎないようにね』
シャールカを見ながら波高は言った。
『わっ・・・わかった』
引き攣った顔としたシャールカの声が響いた。
・・・
その後、28日前に植えた姿を確認した波高は、
『芽が出るのが早い・・・』
と言いながら、既に土寄せしてあった様子に満足し、
『草丈が30cmほどに成長したら、2回目の土寄せをしてください。その時、肥料も混ぜてね。3ヶ月くらいすると葉っぱが7割くらい黄色くなる。そうしたら土の中にある芋を収穫できますよ。あっ。花が咲いたら、花だけ摘んだほうがいいです。その分、芋に栄養が行きますから』
そう言うと、機体に戻ろうと歩き出した。
『もう帰っちゃうのですか』
メリアがいかにも残念そうに言った。
『私はこの世界の人間ではないですからね』
そう言うと、波高は機体に乗り込み、JA4169は滑走路に向かって移動を始めた。
・・・
『行っちゃったね』
メリアが残念そうに言った。
『また、呼べばいい』
シャールカの声が響いた。
(また呼ぶの?)
その声を嫌そうに聞いていたN2122HDの神であった。
・・・
離陸後、高度6000ftになった時点で、真っ白な雲に覆われたJA4169はその2秒後、阿蘇中岳の上空にいた。
(さて、大分にとり天でも食べに行きますか・・・)
波高は、機体を旋回させながら、VOR117.7MHzにセットした。
フライトプラン:飛行機の出発前に行先は飛行ルートなどを国土交通省に提出しておくもの
117.7MHz:MUSASHI VOR(大分空港にあるVOR)
とりあえずここまで・・・。