第109話 再会?
お人好し?の波高。
『どうぞこちらへ』
メリアが降りてきた波高に言った。本来であれば、シャールカが言った方がいいような気がしたのだが、シャールカの口調だと波高が驚いて見げ出すことを心配したのである。
『ピトーカバーだけでもしていくから・・・』
波高が慌ててドアを貨物室のドアを開けてカバーを取り出そうとすると、
『大丈夫にゃ。ここの整備ゴーレムに任せるのにゃ』
ネオが波高の言葉を遮るようにいった。その言葉を裏付けるように、ゴーレムが、車止めを用意し、ピトーカバーを取り付けていた。
・・・
飛行訓練センターの3階。宿直室に3人と波高はいた。正確に言うと、ほぼ無理やり連れてきたのである。
1月1日に雑煮が提供されているテーブルに用意された椅子に、メリアに促されるように波高が座ると、シャールカ、ネオ、メリアの3人も向かい合うように座った。
『お久しぶりにゃ。以前、熊本空港でアジの干物をもらった猫なのにゃ』
ネオは、自己紹介を始めた。
『えっ?あの時の猫。人のように見えるけど・・・』
波高は、干物をあげた猫のことは覚えていたが、頭以外は人間に見えるネオを見ても、未知の生物にしか見えなかった。
『この世界に来た時に、人の体に替えられたのにゃ』
(???)
波高には意味が解らなかった。
(前に行った異世界でも、猫が人にはならなかったはず・・・この世界には獣人がいるのか?)
黙ってしまった波高を見かねたのか、テーブルの脇から男が現れた。N2122HDの神でああった。
『波高といったね』
『はい』
突然現れた男に驚きながらも返事をする波高に
『私は、この世界の神である。ここは君が以前行ったN6276GPの世界とは別の異世界だよ』
(???)
新人の神様は、波高が前に行った世界が、N6276GPの世界であること知らないということを忘れていたのである。
『確かに、以前、異世界に行ったような記憶があります。ですが、あそこはN6276GPの世界というところなのですか?』
波高は怪訝そうに新人の神様を見た。
『そうです。あなたが前に行った異世界がN6276GPの世界。そしてここが、N2122HDの世界なのです』
当然と言わんばかりにいう新人の神様だったが、
『そうなんですか・・・』
波高は小さく呟いたののみであった。どうも理解が出来ていないらしい・・・。
(しまった。どうやら、N6276GPの神は何も波高に説明していなかったらしい・・・)
ようやく新人の神様は、波高が異世界の名前を全く知らないことに気が付いた。普通は知らないのが当然なのだが・・・。当時のN6276GPは今は処分されて存在しないため、確認できていなかったである。
『で・・・私をこの世界に召喚したのはどのような理由でしょうか?』
波高は4人(?)に向かって言った。
・・・
ネオは、この世界(N2122HDの世界)での出来事を説明した。すなわち、1000年前の魔物の発生でゴンドアの王家が自らの犠牲と引き換えにこの世界を救ったことから、バルディカが行った悪事に至るまでである。
『・・・という出来事があったのですにゃ』
波高は黙って聞いていた
(だから何だっていうんだよ・・・)
内心つまらないと思いながらも・・・。
『で、私がシャールカだ。ゴンドアの王女である』
シャールカはそう言って胸を反らせた。
『王女じゃなくて、女王でしょ』
メリアが口を出す。
『まだ実感が無くてなあ~。私のゴンドアは今もパラストアにあるゴンドアなのだよ・・・』
その声は少し寂しそうだった。
『実は頼みがある』
シャールカは波高に顔を近づけた。思わず避ける波高。そんなことには構わず
『ゴンドアは飛行機が飛び交う文明を誇った世界だった。それが、崩壊してしまった。遺跡を稼働させて、一部はこのように使っているが・・・』
そう言って、シャールカは右手をゆっくりを右から左に動かした。この建物のようにと言う意味らしい。それ察した波高が、
『この空港とかですか?』
と言葉を返す。シャールカは静かに頷いた。
『ネオに聞いたところ、君の世界は大変文明が進んでいると聞いた』
『まあ。そうかもしれないです』
シャールカの言葉に波高は、小声で言葉を返す。
(この世界の文明がどれくらいか知らないし・・・)
波高は困惑していた。
『この世界の発展に協力してほしいのだ』
シャールカは言葉を強めていった。
(さて、どんな反応があるかな・・・)
シャールカは波高をじっと見つめる・・・見つめる・・・見つめる。
『それでいいのですか?』
波高は、大人しくしていた新人の神様の方を向いていった。
慌てて首を縦に振る新人の神様であった。
その様子にため息をつく波高であった。
『どのようなことを希望されているのですか?』
波高は、シャールカに向かって言った。
『この大陸では、北西の穀倉地帯以外では、北東で米を作っている以外、あまり農業が出来ていない。そのため、食料が不足気味だ。魔物の肉がそれを補っているが、魔物は人間よりも強く、容易には倒せないのだ』
シャールカは、この際だからと、常々思っていたことを話し始めた。南東部、南西部でも農業が出来れば、魔物を狩らなくても食料は確保でき、人口も増やせる。そうすれば、人の活動が活発になって遺跡の解析を進めていくことで、昔のゴンドアを取り戻したいというのがシャールカの思いであった。
『つまり、先週見たような草原でも育つ作物があればよいのですか?』
波高は、先週見た風景(ラオカ村付近の風景)を思い出していた。一面に広がる草原。草は生えていたが、たぶん痩せていて、作物は上手く育たないのだろうと・・・。実際は、だれも試していないからと言うだけなのだが・・・。
『先日、家の上を飛んで行かれましたよね』
メリアが思い出すように言った。
『そうですね。突然、草原の上空になったのには驚きました』
波高も落ち着て返事を返す。シャールカが、新人の神様の方を見ると、慌てて新人の神様は目を逸らした。
『ちょっと飛行機まで来て』
波高の言葉に疑問を感じながら、3人と1柱(神)はあとに続いた。
・・・
JA4169の貨物室のドアを開け、大分の道の駅で購入した芋・・・ジャガイモを取り出した。
「これはジャガイモと言います。見たことはありますか?」
3人+1柱(神)は波高の手にあるものを眺めた。
『岩みたいだな』
『見たことがあるにゃ。でも食べ方を知らないにゃ』
『植物?・・・根っこ?』
『他の神に見せてもらったことがあるな・・・その手があったな』
シャールカ、ネオ、メリア、新人の神様は、それぞれ波高が手荷物芋を見て呟いた。
『どうやら、神様はご存知らしいですね。これはジャガイモと言って、土に埋めておくと、目が出て、葉が出て広がって光合成をおこない、でんぷんが地下にこうやって出来るのです。』
『こうごうせい・・・』
『でんぷん?』
3人+1柱(神)は揃って首を傾げた。
(あちゃ・・・解っていない)
波高は心の中で舌打ちした。
・・・
波高は、ネオとメリアにジャガイモの育て方を大雑把に教えた。農業をしているわけではないので、詳しいことは波高にもわからない。だが、波高は、小学生のころに学校でジャガイモを育てる授業を受けていた。そのため、基本的な栽培方法は知っていたのである。
(世の中、何が役に立つか解らないな・・・)
そして、また来月来ることにして、飛行訓練センターから離陸した。高度、6000ftを過ぎたところで、新人の神様に転移してもらい、阿蘇上空に移動。何事も無かったかのごとく熊本空港に着陸したのであった。
(28日後、また行くって言ってしまった・・・)
波高は一人後悔しながら自宅に帰るのであった。
果たしてネオたちはジャガイモを栽培できるのか・・・。
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