第108話 再び召喚
波高はプレストークスイッチを押した後
『Ooita Tower JA4169 NOW T3 NOW RADY』
と伝えると、無線機から応答が来た
『JA4169 Wind 010 degrees at 4knots, ranway01 Tango3 cleared for take-off 』
スロットルを押し込み、エンジンの回転数を上げていく。機体が滑走路を、速度を上げながら走りっていく。73㏏を超えたことを確認して操縦桿を引くと、機体は浮かび上がった。(特に異常なし)
先週は、突然見知らぬ所に飛ばされたようであったものの、何とか無事熊本空港に帰り着いた。今日は、気を取り直して大分に“とり天”を食べに来たのである。空港でとり天を堪能した後、空港のすぐ近くにある道の駅で安く売っていた農産物を買い込み。機体に積み込んだところであった。
(それにしても、これじゃ行商みたいだな・・・)
キャベツ、人参、ジャガイモ、シイタケ・・・試しにと玄米まで買い込んだのである。熊本市内にも、無人の精米所(機?)があり、簡単に玄米を精米できることに目を付けた結果である(これで、精米したての米が食える!)。なにも、わざわざ大分で買わなくてもよいのだが、何となく買ってしまったのである。機体に行く途中に寄った情報官事務所の人にも呆れられながらようやく積み込んだ農産物たちであった。
・・・
大分市上空を通過したのち、高度を上げ、6500ftで巡行していこうとしたところ、
(おもったより、雲が多いなあ・・・)
下層悪天予想図では、雲はなさそうであったのだが、この予想図は外れることも珍しくないので、諦めながら雲の合間を縫って雲の上を目指していく。
8000ft付近で雲海の上に出ることに成功した後、VORを見ながら熊本を目指していく
(確か阿蘇の上空だったな・・・)
突然見知らぬところに飛ばされたのは先週のことである。今回は雲海の上なので問題ないだろうと思うことにした。熊本空港まで15マイルの地点に来た時、突然、下から雲が沸き上がってきた
(噴火?)
波高は阿蘇山の噴火を予想したが、それにしては、位置がおかしい。いつも噴煙を上げている中岳はもっと南のはずである。持ち込んだGPSを確認しても、間違いなく阿蘇山はもっと南にある。JA4169は沸き上がってきた雲をよけきれずに入ってしまったのである。
・・・
(???)
雲は2秒と経たずに消えた。思わず息を吐く・・・
(よかった)
が、次の瞬間、波高の顔から余裕が消えた。なんと、VORがTOからFROMに代わっていたのである。何故か前方には高い山脈が見える
(島原半島はあんなに大きくないはず!)
状況確認のため、旋回を始めると地上が見えた。
(森?)
阿蘇にも森のようなところはあるが、明らかにおかしい。あまりに広範囲に森が広がっていたのである。
咄嗟にGPS
を確認すると
“衛星をロストしました”
と画面に表示されている。
(まさか・・・)
波高が東をみたとき、それは確信に変わった。見たこともない街、その先に見える滑走路、そして大きな崖。明らかに阿蘇ではない。そのとき無線から声がした
「こちらパラストア空港管制所・・・」
(どうやら、また異世界に来てしまったらしい・・・)
波高は諦めたようにプレストークスイッチを押した。
・・・
『こちらJA4169です』
『こちらパラストア空港管制所、進路を北にとって、VORを113.45MHzにセットしてください』
波高は、指示通り、VOR1を113.45MHzにセットすると、DMEが20マイルと表示が出た。方位を確認すると、ほぼ北西である。
『VORをホーミングして、飛行訓練センターに着陸してください』
『(飛行訓練センターの)周波数は?』
『現在、他の航空機は飛行していません。他の周波数での管制支援はありません。着陸後、無線で連絡をお願いします』
(どういうこと?)
波高はいろいろ疑問に思ったものの、従うことにした。従っていないと撃ち落される危険を感じたのである。
『了解。着陸後レポートします』
・・・
数分飛行すると、前方に滑走路が見えた。周辺は森である。3階くらいの建物が近くにあり、その手前に駐機場らしきものが見える。PAPIは見つからないが、感覚的に3°のパスを作って着陸姿勢をとる。タッチダウンポイントの表示もないが、速度を調整。80㏏を切らないところで滑走路端に無事接地した。
プレストークスイッチを押して
『今、着陸しました』
と反した後、プレストークスイッチを放す。すると、無線から応答があった。
『ようこそゴンドア大陸へ。そのまま建物の前にある駐機スペースに来てください』
(ゴンドア大陸?聞いたことがない!)
波高が、建物の方を見ると、建物の前に手を振っている人が3人いた一人は、手に何か持っている。
(タブレット端末?)
それは、波高にはタブレット端末に見えた。
・・・
波高は、JA4169を建物前に移動させ、エンジンを停止させた。手を振っていた3人は、以前行った異世界にいたような剣士。その隣には猫の頭をした男。そして、小学校高学年くらいの女の子であった。
(これは・・・またまた異世界だよ・・・)
波高は諦めるしかなかった。
パラストア管制所には、当然ですがだれもいません。
JA4169に呼びかけ、指示をしたのはシャールカです(持っていたタブレットで遠隔操作)。
因みに、パラストア空港には112.8MHZのVOR(熊本空港と同じ)、飛行訓練センターには113.45MHZのVOR(天草空港と同じ)がある設定。
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