第105話 異世界へ
『見つけた!』
新人の神様は、アミアの王宮で、イライラしながら待っているシャールカの前に現れたと同時に叫んだ。
『見つけたかにゃ!』
『見つけたのですね』」
『早く連れてけ!』
ネオ、メリア、シャールカが立て続けに話しかける。新人の神様は、大きく頷いた後、
「時間がない、先方の神には断ってきたから、直ぐに転移する」
そう言うと、3人がすっぽり入る、大きな魔方陣が現れた。
「いざ!」
魔方陣が消えたとき、ネオ、メリア、シャールカの3人の姿が消えていた。当然、新人の神様もである。直後に異変を察知したアミアの騎士たちがなだれ込んできたが・・・
『シャールカ様がいない』
『ネオ殿とメリア殿もいない』
忽然と消えた3人に驚きながらも、
(シャールカ様だから・・・)
騎士たちは自分たちの理解出来ない行動をとる王女様(今は女王様なのだが・・・)とその仲間のすることへの理解を諦めたのである。
『陛下にはお伝えしておこう』
騎士たちはそう呟くと、部屋を出ていった。
・・・
『ここはどこにゃ』
突然、丘の頂上に移動したネオ達に、新人の神様はある方向を指さした。
『ゴーレム』
シャールカの叫び声のような大声が響く。見ると、ゴーレムたちが、土壁を粉砕したところだった。その先には2人の男・・・。
『ネオさん!』
メリアの声にようやく事情を理解したネオは、
『シールド』
をゴーレムに囲まれている2人に張った。襲い掛かるゴーレムや粉砕された土壁の破片がシールドに当たるが、シールドはその全てを受け止めて守り切った。
『ほう・・・またパワーアップしてないか?』
シャールカは、ゴーレムがレベル20だと事前に知らされているので、無理に突撃したりはしない。数的に不利なのを一瞬で理解したのである。
『とりあえず、ゴーレムを倒してくれ』
新人の神様はそう言ってネオを見る。
(こっちの世界の猫にやったサンダーボルドでは、ゴーレムを倒すのには力不足だったとは今更言えないからなあ・・・)
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
ネオは、ゴーレムに向かって魔法を放つ。彼が、呪文を唱えるたびに、光が走り、ゴーレムに突き刺さる。聖属性魔法の威力なのか、この世界の魔力の違いなのか、ゴーレムは爆散していく。程なくして、全てのゴーレムはネオの魔法の餌食となった。シャールカとメリアは、ゴーレムを見た瞬間、反射的に剣を抜き、ネオの左右に並ぶように身構えた。しかし、その後はネオの放つ魔法がゴーレムたちを爆散させていくのをただ眺めているだけだった。
『やっつけたにゃ』
ネオが呟く。
『では、バルディカ達のところに移動するぞ』
新人の神様が珍しく元気に叫ぶ
『早く連れてけ!』
シャールカがまさに答えようと声を発したとき、新人の神様は、バルディカが作らせた洞窟に転移させたのである。
・・・
洞窟の中に転移したネオ達3人と新人の神様。その先にはシャールカにとって見覚えのある人物が立っていた。
『見つけたぞ、バルディカ。お前だけは許さん!』
そう言うと、手にしたトカゲ剣を振り上げ、シャールカが突撃していく。不意打ち状態のバルディカ・ド・ゴンドアは丸腰であった。
『そうはさせません』
突然、バルディカの前に何かが現れた。振り下ろされたトカゲ剣はその何かに当たって跳ね返された。
『メイドゴーレム!』
シャールカは後ろに飛び退いて距離をとった。
シャールカがトカゲ剣をよく見ると、剣に亀裂が入っている。どうやら、メイドゴーレムの体に剣負けてしまったらしい。辛うじて、形を保っているだけになっていた。一方、メイドゴーレムも頭に損傷を受けたのか、その場に倒れてしまった。
『うう・・・剣が!』
シャールカが叫ぶ。
『シャールカ!異世界まで追いかけてきたのは褒めてやろう・・・だが、お前の剣は使い物にならんな・・・メイドゴーレムの装甲は無敵なのだ・・・ハハハ』
バルディカ・ド・ゴンドアは笑い出した。そう、バルディカはネオとメリアのことを理解していなかったのである。なので、シャールカが切り込んできて、メイドゴーレムがその剣を使い物にならないようにした時点で自分の勝ちだと思ったらしい。
『パラライズ』
ネオはバルディカに状態異常を起こさせた。いきなりは殺してはいない。バルディカの体は指一つ動かすことが出来なくなっていた。
『これは・・・まさか・・・何故この魔法が・・・』
自分がパラライズを掛けられたことを理解したバルディカは、予想外の出来事に混乱していていた。
『ゴーレムたち。反撃しろ!』
何故か動いた口を使ってバルディカが叫ぶ。
が、姿を現した諜報員ゴーレム9体。
『にゃんだこいつら』
突然現れたゴーレムに驚くネオ。
『こいつらは、諜報員ゴーレムだ。動きが早い。暗殺も出来るからな』
シャールカが叫んだ。折れる寸前のトカゲ剣を握りしめるシャールカ・・・だが、異変に気が付いた。
(こいつら攻撃して来ない)
しばらくして、気が付いたシャールカは剣を鞘に納め、笑い出した。
『何がおかしい』
バルディカが唯一動く口を使って怒鳴る。
『バルディカよ・・・お前、1000年経ってすっかり馬鹿になったらしいな』
(???)
シャールカの言葉が理解できなかったらしいバルディカ。口しか動かないので何か言おうとしたとき、シャールカは手に持っていた短剣をバルディカの口に突き刺した。バルディカの体から血が吹き出す。返り血がシャールカに降りそそいだ。
『一体にゃにがあったのにゃ?』
『ゴーレムは明らかに様子がおかしいですね』
ネオとメリアは不思議そうにゴーレムを見ている。
『ネオ、早く倒せ!』
シャールカの言葉で我に返ったネオは、
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
『ホーリーボルト』
を1体ずつ放っていく。光がゴーレムにあたるたび、そのゴーレムは爆散していった。
『どうしてゴーレムは動かなくなってしまったのですか?』
メリアがシャールカに質問すると、
『簡単だよ。ゴンドアのゴーレムは、王族を攻撃出来ないように作られているんだ』
そう言ってシャールカは破顔した。
その後、命令者であったバルディカが死亡したので、停止してしまったのである。シャールカの足元には、壊れかけたメイドゴーレムが転がっていた。
・・・
『お疲れ様・・・』
新人の神様は、3人・・・ネオ、メリア、シャールカの3人をアミア王宮に転移させた。事前に神様同士の話が出来ているので、問題は無いはずである。戻って来た3人に声を掛けた新人の神様であったが・・・
『剣が・・・』
シャールカの剣は当然であるがもとには戻らなかった。辛うじて形は残っているが、軽く振っただけで折れてしまう状態である。
『戦乱の時代は終わった。剣の時代は終わったのだ』
泣きそうになっているシャールカに向かって新人の神様が言った。はっと驚いて新人の神様を見るシャールカ。そう、彼女は、これからこの世界・・・ゴンドア大陸の人々を導かなくてならない・・・戦乱ではなく繁栄を目指して。
『初めてまともなことを言ったにゃ』
ネオは新人の神様が、神様として成長しているのだと思った。
『初めて・・・は余計だろう』
ネオをジト目で見る新人の神様に、
(変わっていないような気がする)
と思うメリアであった。
ネオたちがバルディカを倒した世界の続きは
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になります(第54話以降)。