第9話 出発の朝
ここから新展開です。
朝食のパンを食べた後、宿を出発したネオは、途中、市場に寄っていた。
1軒の店の前で足を止め、
『いらっしゃい』
愛想よく話しかけてきた店主に
『これなあに』
と樽を指さす。
『これは、葡萄酒だよ。冒険者が水の代わりに買っていくよ。あんたもどうだ!』
店主の説明にネオは考え込んだ。
『入れ物が・・・』
そう答えると、店主は
『こっちの瓶に入ったものもあるぞ。ちょっと重いけどな』
見ると、一升瓶のそっくりな瓶に、紫色の葡萄酒が入っていたが、ここでネオは前世の記憶を思い出す。
親から離れた直後、お腹が空いたネオ(当時猫)はたまたま落ちていた葡萄の実を一口食べた・・・がみるみる体調がわるくなり、吐いてしまった。以来、葡萄は苦手なのであった。
『ごめん。またにゃ』
そう言って店の前から立ち去るネオであった。
その後、パン屋で昨日の売れ残りという格安パンをあるだけ買い込み、アイテムボックスにこっそりしまう。
『これで、しばらくは大丈夫にゃ』
そういうと、街を出ていった。
・・・
ネオには宛てがなかった。行ったことがあるのは、イヒアチの森と、その先にある村だけである。
(まずは3人に別れの挨拶に行ってこよう)
西に歩いて、見覚えのある村ウォーターマウンテン)の近くまで来たネオは、村の集落には入らず、井戸の近くに埋葬された3人のところに向かった。村を信用する気がしなかったからである。また、井戸で水筒に水を補給する気であった。
・・・
3人の墓はギルドが掘り返したと言っていたが、その形跡が解らないほどであった。きっと、丁寧に元に戻してくれたのだろう・・・。
(これから旅に出るにゃ。もう会えないけど、今までありがとうでしたにゃ)
そう心の中でいうと、井戸に向かった。幸い、誰も来ていなかったので、水を汲んで、水筒に入れておく。
とその時、背後から気配がした。ネオが振り向くと、そこには1匹のゴブリンがこちらをうかがっていた。ネオはショートソードを抜くとゴブリンに向かって走っていった。ゴブリンはネオが襲ってくるとは思っていなかったらしい。立ちすくんでしまっていた。そこに容赦なく、ネオが持っているショートソードが切りかかった。
ネオに剣の心得はないはずだが、袈裟懸けでゴブリンは絶命していた。
(そういえば、崖の下にゴブリンの巣があったはず・・・)
旅の腕試しにゴブリンを討伐しようと、魔石を回収しながら思っていた。
・・・
ネオは、崖を降りていった。よく見ると、ゴブリンの巣の近くには川が流れていて魚の姿もあった。どうやら、ここは人間にはあまり知られていないところらしい・・・。
ゴブリンの巣に入ってみようとした瞬間、頭の中に何か不思議なものが流れてくる感覚があった。
(ひょっとして使えるかも・・・)
『ライト』
ネオが叫ぶと、光の玉のようなものが現れた。どういう訳か、宙に浮いたまま、ネオの近くをくっついて移動しながら照らしている。
ネオはそのまま中に入っていった。
・・・
ゴブリンの巣だと思っていたものは、どうやら違うらしい・・・というのも、ゴブリンは現れない。少し進んでいくと、石碑があった。何やら書いてある。
ロディアにダンジョンを作った。初めてダンジョンに人が入ったとき、このダンジョンの封印は解ける。
ネオが読み終わった都議の瞬間、石碑は光り輝き・・・そして消えた。と同時にネオの脳内にファンファーレが鳴り響く。
(にゃんだこりゃ)
そしてどこから発しているのか
『ダンジョンの封印は解けました』
(???)
・・・
そういえば、新人の神様が
『この近くに初級でも対応できるダンジョンが1つ残っている。実は、そのダンジョンの最奥に初級ダンジョンの復活が出来るアイテムがあるはずなのだ』
なんて言っていたのを思い出した。
(そういえば、さらに・・・)
『なので、その復活のアイテムを見つけて発動させてほしい』
と他力本願なことを言っていた。
(もしかして、ここがそのダンジョン・・・)
・・・
しばらくするとゴブリンが2匹現れた。
(ここは試しに・・・)
ネオは突進してくるゴブリンに右手を広げ、
『ホーリーボール』
光の玉がゴブリンめがけて飛んでいく。光の玉がゴブリンを通過した後、ゴブリンは跡形もなくいなくなっていた。
ネオが駆け寄ってみると、魔石が2つ床に落ちていた。
(魔石だけ回収できるというのは本当なんだにゃ)
そういうと、魔石をアイテムボックスにしまい込んだ。
その後、道が三つまたに別れていたので、右手を壁に沿わせながらダンジョンを移動していく。ダンジョンは右に曲げってしばらくいった後、左にドックレッグしていた。しばらくすると、ゴブリンが6匹現れた。
『ホーリーボール』
ダンジョンの中だと狙いやすい。最初の攻撃で5匹倒した。残り1匹が突進してくるが、右にかわして、ショートソードを胴体に向かって切りつけると、あっけなく、上下に別れた。
魔石を回収しながら
(これならどうにかなりそうだにゃ)
などと思いつつさらに進んでいく。が、すぐに行き止まりになった。
(引き返すしかないにゃ)
右手を壁に沿わせながらダンジョンを戻っていく。その途中でも5匹のゴブリンが現れたが、
『ホーリーボール』
で壊滅。
(楽勝!!)
以後、ゴブリンを見つけ次第、『ホーリーボール』で倒し、魔石を回収していった。
入り口近くまで戻ってきたのち、今度は真ん中の道に入っていく、途中、右に開けた空間が見えたので入ってみると、大きなホールのいような場所であった。
(集会所かにゃ)
よく見ると、一番奥に机が1つあり、その上に何やら瓶のようなものが置いてある。
机の近くに来ると、10匹のゴブリンに囲まれた。
(罠かにゃ)
ゴブリンは一斉に襲ってくる。範囲が広すぎて、ホーリーボールを使っても、せいぜい2匹くらいしか倒せない。
ネオは
『ホーリーボール』
を正面に打って、2匹倒した後、その空いたスペースに駆け込んだ。気がついて回り込んでくるゴブリンをショートソードで切りつける。振り向きざまにもう一回『ホーリーボール』を打ち込んで、残りをショートソードで片づけた。
(危なかったにゃ)
魔石を回収後、机に近づいてみると、机の上には1本の瓶と紙きれがあった。
これは、魔力回復ポージョン。飲むと魔力が全快する。
(おお、アイテムだ)
ネオは瓶をアイテムボックスにしまった。
その後、ホールを出たのち、ふぐ、行き止まりになったので、そのまま引き返し、入り口近くの分かれ道を左に向かう。途中、右にドックレッグした後、前方になにか大きなものがいるのを発見した。
(なんだにゃ、ありゃ)
ゴブリンを拡大コピーしたような姿をしたものがいる。おそらく、ある程度近づくと反応するのだろうと思われた。
(やつは強そうだにゃ。さっきのアイテム使うかにゃ)
そういうと、さっき手に入れた魔力ポージョン
アイテムボックスから取り出し、一気のに中身を飲み込む。
(まずい・・・)
だが、なんとなく気だるくなっていた感じが、朝起きたときのような、シャキッとした感じ変わっていた。
(これが、魔力の回復・・・?なのかにゃ)
ショートソードを手に持ったまま、巨大ゴブリンに近づいていった。
・・・
予想通り、突然、思い出したように、こちらに向かって、巨大ゴブリンが突進し始めた。
(いままでのゴブリンと迫力が違う・・・)
めいいっぱいの力で、『ホーリーボール』を打ち込んでみる。
ダメージはあったようだが、倒れてはいない。一瞬立ち止まったが、再び、思い出したように突進してきた。
ショートソードを握る手に力が入る。ネオは、思いっきり、巨大ゴブリンの胸めがけて飛び込んだ結果、ネオのショートソードは巨大ゴブリンの胸のあたりに完全に収まった。巨大ゴブリンの胸を脚で蹴って、ネオがゴブリンから離れすと、巨大ゴブリンはフラフラと数歩歩いた後、ばったりと倒れて動かなくなった。
(どうやら仕留めた見たいだにゃ)
・・・
ゴブリンが消えた後、ちょっと他より大きい魔石を回収したネオは、その先に、何か変な像があるのを発見した。
よく見ると、それは、新人の神様をそのまま女性にしたような姿・・・。
(新人の神様がいっていたレベル神っていうのはこれか・・・?)
近づくと、どこからともなく、声が聞こえてきた。
『ダンジョン1Fを初めて制覇した勇者よ。褒美にいままでの経験値をレベルに変換してやろう』
その直後、ネオの体が光に包まれた。
『お前はレベル4になったぞ・・・ハハハ』
最後は謎な笑い声と共に、レベル神と思わる石像は消滅し、ネオを覆っていた光も消えた。
前方を見ると下に降りる階段が見えていた。
・・・
念のため、周辺に変な個所がないか確認していると、右側の壁が触った途端に消滅した。
(なんだにゃこりゃ)
消えた壁の先には“休憩所”と書かれた部屋があった。ご丁寧に内側からドアでダンジョンとは仕切れるようになっていたのである。中に入ってみると、机とベットがあり、机の上には紙があった。
=ダンジョン休憩所=
ダンジョン作成時に使っていた休憩所を改装したもの。このダンジョンを最初に見つけたもののみ入ることが許される。この部屋には魔物は発生しない。最奥までこのダンジョンが攻略されると、ダンジョンと共に、この部屋も消滅する予定ある。注意すること。
(なんじゃにゃ、こりゃ)
新人の神様の配慮か悪戯か、ネオはダンジョンの中に部屋を確保することが出来た。
(こりゃ、ここを拠点にダンジョンを攻略するばよいにゃ)
ちょっと一休みと思って、ベットに寝転がると、急に疲労が襲ってきた・・・おやすみ・・・。
たまたま、ゴブリンの巣の奥にダンジョンの入り口があったのではないかと・・・。
ダンジョンのゴブリンが湧き出てきたのではない設定です。
次回の投降は22日の予定です。