第89話 北西管制所
『では、行くぞ』
ワイバーンが離陸した。ネオたち3人はワイバーンの背中に乗っていた。ワイバーンに乗るのは2回目ということもあって、特に問題はない。ただ、出来るだけ見つからないように、少し高度は高く飛んでいく予定である。
・・・
ロディアの上空を経由した後、バルディカ帝国の都があるサマランドを目指していた。
『サマランドから北西管制所まではどれくらいあるのかにゃ?』
ワイバーンにネオが尋ねると
『少し北西にいった所に北西管制所はあるな・・・地上を歩いたことがないからよくわからん』
『・・・』
(ワイバーンに聞いた俺が馬鹿にゃった・・・)
『昔の北西伯の領都であるサマランドと同じ場所であれば、約100km北西に管制所はある』
『にゃんでそんなに離れているのかにゃ?』
シャールカの説明ネオが思わず問うた。
『サマランドの北西にゴンドアの食料備蓄庫があったのだ。何か食糧供給が必要なときは、北西管制所脇の空港から物資を運ぶことになっていたのだ』
『にゃるほど』
大陸の北西は、穀倉地帯があるために食糧の供給能力が高い。最も北西に倉庫を接地したのはバルディカの大叔父が強引に決めたものであるそうだ。
『今にしてみれば、元々何か企んでのかもしれない・・・』
シャールカが何かブツブツと言っている。
『どのあたりから爆発したのかにゃ?』
ネオが何か知っていそうに思えたワイバーンに向かって言うと
『訓練施設の中から爆発したらしい。大きな穴が開いていた』
(ということは、この訓練施設は使えにゃいな・・・)
・・・
サマランド上空までくると、街の北西に北西管制所が確認できた。
『あれかにゃ?』
『あれが、北西管制所だ』
ワイバーンはそういうと、北西管制所に向かって、高度を下げていく。
近づいてくると、その姿が他の管制所とよく似ていた。但し、シメ山のように、土が被っているようなことはなく、地表から鏡面仕上げされたような壁が見えていた。そして、山の途中、真横に大きな穴が開いている。
(確かに、他の管制所の作りから考えると、あそこはダンジョンの2Fくらいだろうにゃ)
『入り口に降りるぞ』
そう言って、ワイバーンは、ヘリポート(だったらしいところ)に着陸した。飛行機でないので滑走路は要らない。ネオたちの目の前には、他3つ管制所にそっくりな管理棟が目の前にあった。
『少し寒いな』
『寒いです』
シャールカとメリアがワイバーンから降りるなり言った。標高2500m付近なので、当然である(1000ftで2℃気温が下がるので、2500m≒約8000ft・・・つまり、地上より16℃低い気温である)。
『まずは同じように調べてみるかにゃ』
ネオはそういうと、管理棟の入り口に向かって歩いていった。
・・・
『開かないにゃ』
正面の入り口は自動で開かなかった。周囲を見渡すと、脇に小さな扉があった。扉の近くに見覚えのあるものがあった。
(ここも番号を入力しないと開かないのにゃ)
『番号を入力しないと開かにゃいみたいにゃ』
試しに、そのまま開けようとしたが、ネオの力では全く開きそうになかった。
『恐らく、バルディカの大叔父の誕生日・・・0821だと思う』
シャールカがネオに向かって言った。
(可能性は高いにゃ・・・北東管制所も南東管制所も誕生日だったにゃ・・・)
“0”“8”“2”“1”
『ピピッ!』
扉から電子音のような音がした後、扉は自然に開いた。
『大正解!!』
『へへっ!』
『さすが王女様』
ネオの言葉に、照れながら嬉しそうにしているシャールカと、そのシャールカを羨望の眼差しで見ているメリアがいた。
中に入っても、照明はつかなかった。
『ライト』
ネオは照明の魔法であるライトを使ってあたりを照らす。中の構造は、他の管制所と酷似していた。
『そっくりだにゃ』
『似せて作らせたのだから当然だ』
ネオの言葉に返すシャールカ。
『恐らく、電源が遮断されているな。非常用の照明が使われた形跡があるから、爆発時に遮断されたのだろう』
冷静なシャールカの観察であった。
『ということは、エレベータは動かない・・・のかにゃ』
ネオ、エレベータのボタンを押してみるが反応はない。脇にあった入り口から非常階段をひたすら登っていった。
『この階段、何時まで続くのでしょうか』
何時までも続く螺旋階段にメリアが悲鳴を上げ始めた。体力的に問題なのではく、何時までも続く階段に気が滅入ってきたのであった。
・・・
螺旋階段に扉が見えてきた。“ダンジョンコントロール室”と扉に書いてある。
『やっとついたにゃ』
ネオが扉を開けると・・・
『にゃに?!』
ダンジョンコントロール室は、滅茶苦茶に破壊されていた。そして、白骨化した人の骨が散らばっている。
『最近ではないにゃ』
『バルディカの大叔父の手下が襲ったのだろう』
シャールカが床に落ちていたボタンのようなものをネオとメリアに見せた。
『これは何にゃ?』
『???』
ネオもメリアもこれが何を意味するのか解らなかった。
『これはな・・・。バルディカの大叔父が自分の配下・・・というか子分に付けさせていたボタンだ。これは数人しか持っていなかったはず・・・つまり、バルディカの大叔父の側近が襲ったということの証拠だ』
よく見ると、ボタンに血が着いていた跡がある。中央の席には椅子に座ったままの白骨死体がある。おそらく、この死体が襲われるときにもぎ取ったのだろう・・・。
『推測だが・・・バルディカの大叔父は、ここを占領しようとしたのだろう・・・おそらく、北西は魔物被害が少なったものと思われる。ドニアから最も遠いから・・・そして、パラストア消失後、ゴンドアを支配しようと考えたのだろう・・・ひょっとすると、ドニアを飛び立った飛行機が本当にサマランドを目指していたのであれば、意図的に起こした可能性も考えられる・・・』
シャールカはそこまで言うと膝をついた。立っていることにも耐えられないほどの衝撃だったのかもしれない。
『今は、瘴気発生装置を見つけることが先決にゃ』
ネオはそういうと、白骨死体に手を合わせた。
・・・
『ここもきっと・・・』
ネオたちは、螺旋階段を更に登って、北東管制所に入ろうとしたが・・・。
『にゃんと!』
『なんてこと!』
『むごすぎる』
管制所の入り口は爆破されており、内部は、爆発物がさく裂した後のようにしか見えなかった。ところどころ、白骨化した骨が見える。おそらくここの職員だろう・・・。照明も破壊されていて、ネオが使っているライトが無ければ、何も見えない状態である。
『そうだ・・・』
何か思い出したのか、シャールカが中央のテーブルに駆けていく。すると、テーブル
中央が微かに光った。
『ネオ。ここに魔力を注いてくれ!』
シャールカの勢いに、ネオは頷きながら魔力をテーブルに注ぐと、テーブル全体が光りだした。そして、立体映像が現れたのである。
((えええっ~!!))
ネオとメリアが絶叫した。
『まずはこのメッセージを確認しよう』
シャールカは解っていたようである。少しすると、立体映像の男がしゃべり始めた。
『私は、北西管制所長 エストラスト・ド・ダークである。突如発生した魔物によって、ゴンドアは壊滅しつつあったが、国王陛下とパラストアの犠牲により、瘴気封印装置が発動し、魔物は消えた。だが、バルディカ伯は、自らをバルディカ帝国皇帝と名乗り、大陸南西に墜落した機体にある瘴気発生装置を回収するといっている。管制の交信記録から、バルディカ伯がこの機体の操縦者と交信していたことを突き止めた。その内容は、バルディカ伯が、瘴気発生装置をドニアとパラストア付近で暴走させるように指示していたことを確信させるものであった。おそらく、バルディカ伯は、瘴気発生装置を手に入れてこの大陸を支配するつもりだろう。我々はその証拠を維持するため、ここに立て籠もっている。他の管制所との通信が出来れば、その情報を共有しようと思っているが、何時まで耐えられるか解らない。幸い、ここには、王家の封印があったのでこの記録をここに残す。正当な王位継承者のみこの封印は解除できる。詳しい理由は解らないが、現在の正当な王位継承者はバルディカ伯ではないことだけは解っている。いつか、正当な王位継承者にこの証拠が渡ることを望んでいる』
立体映像が終了した後、1つのカプセルのようなものがテーブルに残った。
『シャールカさん。それって、シャールカさんなら見れるのでは?』
メリアに言われて慌てて、シャールカはそのカプセルを、タブレットにセットした。
『おお・・・これは』
それは、北西管制所が捕らえた、バルディカ伯が瘴気発生装置を暴走させるように指示している交信と、ドニアから瘴気発生装置を運び出した機体との交信記録であった。そして、それは、
『ワイバーンにエンジンを壊された・・・』
で終わっていた。
(ワイバーンの話は本当だったのにゃ)
『許せん!!』
シャールカが叫んだ。
怒りがMaxのシャールカ・・・でもバルディカの大叔父は1000年前の人です。
次回は1時間後の予定です。