第86話 西へ移動中
『見覚えのある道だにゃ~』
ネオたち3人は、残りの瘴気発生の手がかりを求め、クラトから大陸の南側を西に進んでいた。もちろん、目的地は村である。途中、メストまでの道は、つい先日アミアに向けて歩いたばかりだった。
『“トシミツ”もノッスルで倒したからにゃ・・・。あの村はいったいどうなっているのかにゃ?』
村長であるはずの“トシミツ”はノッスルに出ていっており、長期不在であるはずであった。
『あの村って、何かおかしいですよね』
メリアが言い出す。
『何か気が付いていたのか?』
シャールカがメリアに問いただす
『普通、あんな深い井戸で水を汲む必要がある所に村を作らないような気がするんです』
メリアが言うには、周辺は草原であり、草原に集落をつくれば、井戸も大して深くなくて良いそうだ。何も好き好んで山の上にする理由がないのだという。
『ゴブリンもいたみたいですし・・・魔物からもあの山は防げていないじゃないですか』
(にゃるほど・・・確かに不便なところに住む理由はないにゃ・・・)
『とすると、村の住人たち全体で何か隠し事をしているのかもしれないな・・・』
シャールカは、地形的におかしい村は、村ごと何か隠していると思っているらしい。
『そういえば・・・』
(あの村で子供を1人も見なかったにゃ。大人しかいない上、老人も少なかったにゃ)
シャールカの言葉を聞いて思い出したネオであった。
人外の能力を持つ3人なので、1日100km移動し、夜は村の宿に泊まるという方法で移動していった。荷馬車の御者が驚いていても気にしない。彼らでは追いつけないのは間違いないのだがら・・・。
・・・
『今日はここに泊まるにゃ』
ネオはオケライの街を指さしていた。
『オケライですね』
メリアも懐かしそうである。
『何かあったのか?』
シャールカがメリアに向かって言った。
『この街でB級冒険者になったんです』
『ほう』
『またオークでも出てきたりしてにゃ』
『まさか・・・』
ネオの言葉にメリアが返そうとしたとき、街の東門から大きな物音がした。
『あれはオルトラだにゃ』
『オークとオーガに襲われているぞ』
オークとオーガが数匹ずつ東門のすぐ外でオルトラと闘っている。門は閉められ、街を守る兵士と思われるものが、街壁の上から様子を見ていた。
・・・
『1人じゃきついな』
オルトラは呟いていた。オークやオーガも1匹ならば、レベル15であるオルトラの敵ではない。だが、既に冒険者は引退した身であり、アミアのダンジョンでもオークとオーガの連合など見たこともなかった。何とか注意を引き付け、街に向かわせないようにしていたが、それが限界だった。
(やばい・・・このままじゃ持たん・・・)
ついに、オーガの一撃を躱しきれず、まともに受けてしまった。辛うじて立ち上がったが、剣を持つ右手に力が入らない。
オーク達が突撃してきた。
(もうだめた・・・)
オルトラは目を瞑った。
(???)
何時まで経ってもオークの衝撃が来ない。オルトラは目を開けると、
『ええっ!!!!』
その光景に驚愕していた。
『ネオさん。こんなに遠くでも狙いが正確ですね』
メリアがネオの放ったホーリーアローに感心している。
シャールカは、驚愕していたオルトラに近寄り、
『おい。しっかりしろ。最後まで諦めるな』
と言いながら、肩を叩いた。
『ぎゃー!!』
オルトラはあまりの痛さに悲鳴を上げて倒れてしまった。
『そんなに強く叩いてないはずだが・・・』
シャールカは、オルトラが肩にダメージを受けていたことを解っていなかった。
・・・
『・・・おまえたちか・・・助かった。礼をいう』
門から出てきた兵たちに、ホーリーアローで倒したオークとオーガを回収させ、オルトラを街の連中に見えないところに運んだ。
『これからすることは秘密にゃ』
ネオはそういうとオルトラの肩に手をかざし
『ヒール』
を実行した。
オルトラの顔から痛みに耐える表情が消えた。
『???何をした。痛くねえぞ』
オルトラは自分の体に起こった変化が理解できないでいた。
『まっ・・・シャールカが悪化させてしまったからにゃ・・・特別サービスにゃ』
ネオはそういうと、街の中に入っていった。
・・・
冒険者ギルドの2階の応接室にオルトラとネオたち3人はいた。
『・・・という訳なんですにゃ』
ネオは、アミア以降の出来事をオルトラに話した。
『おう・・・アミアから・・・エルバートから連絡を受けたからだいたい知っているがな・・・であれば、どうしてこの街にオークやオーガが出てくるんだ』
瘴気発生装置は破壊したはずなので、新たな発生はないと思っているオルトラであった。
『たぶんにゃ。瘴気発生装置で増えた魔物が、周辺の魔物を外に追いやったのにゃ。結果としてはじき出された魔物が出てくるではないかにゃ』
インゴニア王国に現れたケンタウロスは、森の奥から追い出されてきたらしかったからである。
『王命により、アミアに来るように言われてな・・・出かけようとしたとき、奴らが襲ってきたんだ』
オルトラは顔をゆがめた。
『お前たちが来てくれなかったら、たぶんダメだったと思う・・・それでも、俺はこの街を守らなきゃいけねえ。という訳で、しばらく怪我したことにしておいてくれ』
オルトラの見事な土下座であった。
『わかったから土下座はやめてくれ』
シャールカに言われて、顔を上げるオルトラ・・・。
『もしや、あなたはシャールカ様で・・・』
ようやく気が付いたらしい。アミアから情報は来ていたはずだが、見たことがないオルトラには解らなかったようだった。
『私がシャールカだ』
シャールカはそういうと、腰に手を置いて反り返った。
(すっかり王女様だにゃ・・・)
『ところで、ローラシア山脈の端に住んでいるらしいワイバーンを知らないかにゃ』
ネオは、オルトラを覗き込むように見ながら聞いた。
『お前が言っているワイバーンかは解らねえが、ロディア国に入って、ガロータから北に行くとプロボディスという村がある。その村から東に30kmほど行くと、ワイバーンの村があるぞ』
オルトラは淡々と話した。
『そんなに有名なのかにゃ?』
『そんなことはねえ・・・おれは一度行ったことがある。普通の人間はたどり着く前にワイバーンにやられちまうから、誰も近寄らねえ・・・』
そういうと、何か思い出したように奥から何か持ってきた。
『これは、俺がワイバーンの村に行ったときにもらったものだ。俺からの紹介だといえば連れて行ってくれるだろう』
そう言って渡されたのは、卵のような形をした透明なものだった。
『これは何にゃ?』
ネオが不思議そうに見ていると、
『ワイバーンの雫・・・』
シャールカが呟いた。
『これは“ワイバーンの雫”というのですか?』
メリアがいうと
『くれたワイバーンはそういっていた。貴重なものらしい・・・ぞ』
オルトラは貴重らしいことは解っているが、それ以上は知らないらしい。
『これは、まぎれもない“ワイバーンの雫”だ。パラストアでは金貨1000枚でもすぐに買い手が決まる高級宝石だ。ワイバーンが感動したときにだけ出来ると言われているものだ』
シャールカの説明にオルトラを含め、皆が驚いていた。
『何をそんなに驚いている。パラストアでは皆知っているぞ・・・』
『シャールカ様。今の時代にはその話は伝わっておりません!』
オルトラは何故か、再び土下座して話をしている。
『そうか・・・ワイバーンの雫は伝わっていないのか・・・』
シャールカの呟きはだれも聞き取れなかった。
そのまままっすぐにはいかないようで・・・。
次回は午前10時(一時間後)の予定です。