距離感
作者初の恋愛モノ。
果たしてこれは恋愛モノなのか。
良い気持ちになれる作品では御座いません。
それでも宜しければ、ご一読下さい。
手元のスマホを見る。
一昔前なら、絵はがきを送って来そうなものだが、今は写真も文章もスマホがあれば事足りてしまう。
情緒よりも利便性の勝利と言った所だろうか。
とはいえ、苦い顔をしているのは、そんなお手軽感への揶揄ではない。
相手と内容に起因するものだった。
相手は隣家に住んでいた幼馴染の女性だ。
現在は上京しており、隣家には彼女のご両親が住んでいる。
その彼女が、久々に帰郷するとの知らせだった。
文面からも、添付された写真からも、幸せそうなのが伝わって来る。
写真に写っているのは三人。
彼女と、共通の親友である男性と、赤ん坊。
そう、彼女は親友と交際し、子供を授かっていた。
現在、彼女達は状況先で同棲しているらしい。
近々結婚するそうだ。
いわゆる、できちゃった婚と言うやつか。
その挨拶や孫の顔見せに、帰郷するのだ。
隣家に住む俺は、そのついで。
それが今の俺達の距離感だった。
俺達の距離感が明確に開いたのは、高校生の頃。
それまではお互い、付き合う訳でもなく、しかし、互いに異性として意識し始めていた。
そう思う。
何となく、付き合うなら彼女なのだろうと、そう考えていた。
共に登下校した。
同じクラスで、昼食も一緒に取っていた。
休日には、一緒に遊びにも行っていた。
夏にはプールや海にだって行った。
互いに気持ちを確かめ合う事こそ無かったが、同じ気持ちなのだろうな。
そう思っていた。
思い出には、少し足りない部分があった。
人数だ。
二人だけで過ごしていた訳では無かった。
親友の男性だ。
彼と共に、三人で良く過ごしていたのだ。
気が付かなかった。
彼女との距離感は絶対のものだと、何の疑いも無く信じていた。
そして、時間と共に縮まっていくものなのだろうと。
だから、気が付かなかったのだ。
彼と彼女の距離感が、以前よりも縮まっていたという事に。
気が付いたのは、いつだっただろか。
偶に、俺の知らない会話を二人がしている事があった。
同じ物を身に着けている事もあった。
手を繋いでいる所を見かけた事すらあった。
親友同士の距離感では、無かった。
愕然とした。
青天の霹靂?
いや、地面が消え失せたような、そんな喪失感だった。
いきなり、見知らぬ世界に放り込まれた様な、そんな違和感。
理解を拒んだ。
納得出来なかった。
だって、それは、その場所は、俺のじゃなかったのか、と。
無性に吐き気がした。
二人の距離感に気が付かず、いつまでも一緒に居た俺に。
その鈍感さに。
空気を読んだ俺は、次第に二人とは距離を取るようになった。
それまでと場所は変わっていないのに、何故あれほど距離を感じたのか。
二人を遠くに感じた。
失恋、だった。
きっと。
多分。
ちゃんと形にもしてやれなかった、俺の初恋。
それを自身の手で握り潰した。
そんな感覚。
二人の姿を見るのが辛かった。
一緒に居るのが辛かった。
一人で居るのは辛かった。
高校卒業と同時に、二人共上京する事になった。
同じ大学に行くのだそうだ。
もう、距離が離れ過ぎていて、言葉も碌に聞き取れなかった。
どうでもいい。
自分には関係のない話だ。
二人でよろしくやってればいいさ。
腐った。
何に対しても、やる気が起きない。
誰でも入れそうな大学に、籍だけ置いて、自堕落な生活を続けていた。
必要な単位も取れず、留年か、中退か。
そんなの、どうでもいい。
既に人生を失敗したも同然なのだ。
これから先の事なんて、どうでもいい。
何も考えられない。
先の事なんて尚更だ。
もう、歩き方すら分からない。
毎日毎日、元の世界に戻れる事だけを願った。
ここは俺の居た世界じゃないんだ。
何かの間違いで、こんな世界に来てしまったんだ。
だから、早く。
早く、元の世界に帰してくれ。
変わらぬ日々。
変わらぬ現実。
どうやら、俺と現実との距離までも離れてしまったらしい。
そうして現在へと至る。
別世界まで離れてしまった、俺と二人の距離感。
たまらず、スマホを投げ捨てる。
見たくない。
知りたくない。
こんなの現実じゃない。
こんな世界、俺は知らない。
早く、元の世界に。
こんな悪夢はもう沢山だ。
夢なら、もっと良い夢を見させろよ。
距離感は埋まらない。
距離感は戻らない。
現実が俺を苛む。
切ない話にする筈が、気が付けばこんな事に。
どうしてこうなった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。