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泡風呂

作者: 柿畑 紫慧

泡風呂


「後輩くん、見てみて〜!」

ピンポンといつものようにインターホンが鳴ったので出てきてみたら、先輩が何やらピンク色の箱を突き出して立っていた。

「…なんですか、それ。」

「おうちで泡風呂できるんだって、後輩くんもやろ!」

「…は?」

先輩から箱を受け取ってよく見てみる。横文字で、「Mr.FOAM」と書いてあった。

「こんなのどこで手に入れてきたんですか?」

「ん〜なんかね、川沿いでやってるフリマ覗いたらおじちゃんがくれたの。」

「あ、そう…。」

側面のバーコードの上には近くの家電量販店のシールが半分剥がれかけながらも張り付いていた。こんなもの、買う方も大概だけど、貰ってくるやつも貰ってくるやつだよなぁと、先輩の顔を見て思った。

「…でも先輩、部屋に風呂なんてないじゃないですか、一体どこでやるつもりなんですか?」

「大家さんに聞いたら、お風呂貸してくれるって。」

うちのアパートには風呂がない。普段は近くの銭湯を利用しているのだけれども、流石に先輩のアフォな脳みそでも銭湯でおもちゃ使っちゃいけない事ぐらいは理解しているのか、大家さんのところの風呂場を借りてきたらしかった。

「へぇ、よかったじゃないですか。」

「うん、だから後輩くんも一緒にやらない?」

「結構です。」

「え〜、きっと楽しいよ?」

「はぁ、なんで先輩の道楽に付き合わされなきゃならないんですか、僕眠いんで寝ますね、それじゃ。」

閉じようとした扉は、先輩が強引につま先をねじ込んだことにより叶わなかった。

「痛い!」

「そりゃ無理やり挟んだらそうなるでしょ…」

「はい怪我させた〜、罰として後輩くんは私の泡風呂の準備を手伝わなければいけません〜」

むちゃくちゃな理論を展開する先輩。

「…準備?」

「そう、風呂掃除。大家さんが、貸してもいいけどちょっと掃除してねって。」

「で、掃除はしたくないから、後輩に押し付けようと。」

「あ。」

誘導尋問にあっさり引っかかる先輩。

「いや、そんなことはないんだけどね…?」

途端に目が泳ぐ先輩。まったく、いつまで経っても精神年齢が成長しない。

「はぁ、わかりました、行きますよ。」

「本当かい?じゃあ準備して、すぐ大家さんちね!」

先輩はにぱぁっと笑顔を浮かべると、すぐ自分の部屋へと引っ込んで行った。


5分後。大家さん宅にて。

「おやおや、君も一緒かい?人手が多いのは助かるねぇ。」

「はい!」

元気よく返事をする先輩。ピシッと上げた手には軍手がはめられていて、その時点で僕も訝しんでおくべきだった。


中に入る。3人も人間がいても余裕があるくらいのかなり広い浴室には、何やらうなりを上げる黄色い機械が一台。

「…何あれ?」

「高圧洗浄機だけど?」

なんてことのないように先輩が言う。

「いやぁ、にしても助かったよ、天井のカビ取りとか、最近腰の調子が悪いせいでキツくてねぇ。なまじ機械だけあるもんだから、技わざわざ業者呼ぶのも面倒くさくて。よろしく頼むよ。」

大家さんは先輩に高圧洗浄機の使い方を教えると、ささっと出て行った。

「…先輩、謀りましたね?」

「ん?」

「すっとぼけても無駄ですよ、何が『ちょっと掃除』ですか。ガッツリ大掃除じゃないですか。」

「そ、掃除には違いないだろう?」

いけしゃあしゃあとこういうことを平気で言う。だから信用ならないんだ、この先輩は。

「はぁ、こういう条件で貸してもらったんですね…」

「そう!さぁ、頑張ろうじゃないか。」

腕まくりをした先輩は俺に近づいてくると、耳元でこう囁いた。


「なんなら、一緒に入ってもいいんだぞ?」


「あ、そういうのいいんで。」

「うわぁやっぱり酷いぞ後輩くん、君は何故そうやって乙女の心を傷つけるんだぁ!」

「これくらいで傷つくんなら最初から言うなよ!というかそんなガラスのハート持ってたらこんな掃除他人に押し付けねぇわ!」


やいのやいのと騒ぐ声が、浴室内で鈍く反響した。

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