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龍に翼~双龍伝~  作者: クレト
5/12

何とも言えない気持ちになった

「…その頬はどうした?」

「気にするな。

 それで何かわかったことでも?」


顎珠(がくしゅ)の所に来ていた。

鳥の合図は彼からの連絡だった。

寒さで冷えるかと思ったが、

思いの外、頬の赤い痕は残っていたようだ。


「ここではよそ者は警戒される。

 だから中々情報を渡してもらうのが難しくてな。」


また茶を淹れてくれた。


「“はぐれ者”ってやつの件だが、

 どうも死姫(しき)に関わったことのある人物達らしい。」

『確かに実際に関わってはいるが……。』

「この街の人間がよく話したもんだな。」

「来る途中でちらっと人間を見たんだが、あいつらは大丈夫なのか?

 って聞いたんだよ。まぁ、俺もよそ者だしな。

 そしたら、“死姫に関わった奴らだ、近づくなよ!”て、

 形相を変えちまって。ちょっとびびったよ。

 それで、そっちはどうだ?

 死姫って姫の情報は得られたか?」

「護衛に就かされた。」

「何だって!?会ったのか!?」

「あぁ、気高い…少し大人びた少女ってとこだな。」

「はぁ?それが死を呼ぶ姫?残酷なのか?」

「残酷なのは長女のほうだ。

 この国にある唯一の罰を知っているか?」

「いいや?」

「生きたまま張り付けにされ、

 傷をつけられ憎塊に食わされる。」


顎珠がうっと顔を青くした。


「その様子を務めだと言ってじっと見ていた。

 あれこそ死の姫と呼ぶにふさわしいぞ。

 いくら物資が限られているとは言え、

 物を願っただけであぁなるとは………。」


兵士たちの生気が無いのも頷ける。

まさに恐怖で縛られているようなものだ。


ふと、外を見ると雪がまた降ってきた。

それも大粒の。


「こりゃ、また一層深くなりそうだな…。」

「……好機だな。」

「何がだ?」


柳森はふっと微かに笑った。


********************


斎姫(さいき)は雪が深くなったのを確認して外に出た。

これだけ降っているほうが身を隠しやすい。


手慣れたように近くの木に手足をかけてよじ登る。

あっという間に木をつたい、塀を登った。

慎重に塀の上を移動し、街外のほうにある、

似たような木を見つけ、

これまた手慣れたようにするりと降りた。


雪と木々に紛れて急いで移動をする。

なるべく早く城から遠ざかるように。

上の窓から見つけられるともわからないのだ。


やがて深い森の中。

真っ暗な洞窟の前までやってきた。


「さいき様!!」

「ひめさまだ!!」

「おかえりなさい!」


子供たちが元気に走ってくる。


「ただいま、戻りました!」


にっこりと笑って斎姫は彼らをまとめて抱きしめる。


「皆、体調は変わりありませんか?」

「「「「はい!」」」」


愛おしく、その顔や頭を撫でていく。


「さ、今日の分です。皆でわけなさい。」


持ってきた小さな包みの中から食べ物を取り出して渡す。

子供たちは喜んで受け取った。


「斎姫様、いつも本当にありがとうございます。」

「何を言っているの?気にしないで?

 さ、(とう)もちゃんと食べなさい。

 そんなに多くは無いけれど………。」

「そうおっしゃらないでください!

 僕たちはどれだけ斎姫様に助けていただいているか…。

 大事に僕も頂きます!」


その日食べる分を仲良く食べあう子供たち。

そんな彼らを優しく見守る斎姫。


「今日は雪が多いねぇ…。」


(きく)が外を眺めながらそう呟いた。

雪が先ほどよりもはるかに多い量で降っていた。


「今日はみんな、ここで待っていなさいね?

 私が食料を見つけてきます。」

「ダメです!斎姫様!!お一人なんて!僕も行きますから!」

「胆、あなたは年長なんだから、

 皆と一緒にいて、守ってあげないといけませんよ?」

「ひめさま!だめ!」

「そこら一か所だけ、行って来るだけです。ね?」


斎姫は籠を持って、外に出た。

黒い外套をしっかりと頭からかぶって歩く。


吹雪になる直前だろうか。

少しだけ風が強くなってきた。

流石に寒さが堪える。


だが、斎姫はほんの少しだけ嬉しかった。

この大雪が隠してくれる気分になれるから。

少しだけ、自由になれたような気分に浸れた。


積もりかけた地面に膝をつき山菜を見つける。

雪を払いのけ、いくつかだけを摘む。


「自然の恵みに感謝いたします……。」


少しだけでもいい。

彼らの糧になるなら。

そうして、一生懸命目を凝らしている彼女の耳にそれは聞こえた。


「これは食べられるものですか?」

「きゃあ!?」


突如、耳元に聞こえた声に驚く。

振り向けば柳森が立っていた。


「どうしてここにいるのです!?」


彼の手には木の実のようなものがあった。


「これが木の上になっていたのですが、

 食べられるものかと思いまして…。」


斎姫は驚きながらも恐る恐る確認する。


「だ、大丈夫です。

 高い場所にあるものなので、よく鳥が食べますが。

 人間が食べても何の問題もありません。」

「そうですか。」


柳森はそれを斎姫の籠に入れた。


「あと、どれくらいあれば足りますか?」

「え?」

「まだ生っていたので取ってきます。

 どれくらいとればいいかと。」

「あと、2房ぐらいで十分かと思いますが…。」


軽い身のこなしで、柳森はあっという間に木の上に姿を消した。

そして、これまたあっという間に2房とってきたのだ。

木の実を籠に入れ、ついでに斎姫の上に積もった雪を払う。


「早く行かねば、あなたが積もりますよ。」


戸惑いながらも斎姫は洞窟へ戻った。


「おかえりなさい!」

「あ、りゅうしんだ!」

「柳森!!」


子供たちが彼に気づいて飛びついてくる。

柳森は一人を肩に担いでもう一人を腕に。

腰に体当たりしてきた子をもう片方の腕で抱えた。

皆、楽しそうにきゃあ~と声をあげる。

怖がりの(いん)だけは斎姫の服の裾に引っ付いた。


「こらこら、みんなこっちに…。」

「かまわんさ、胆。」


今度は三人とも腕にぶら下がってくるりと柳森は回る。

やはり、きゃあ~と楽しそうに声が上がる。

心配した胆だったが、彼らの楽しそうな様子に、少しほっとした。


「……さいき様…あの、引は、お話が聞きたいです………。」


座った斎姫の膝の上で、引がそう言った。


「そうね…今日は何のお話にしましょうか……。」


悩んでいると、柳森にぶら下がっていた三人も、

斎姫の元に走っていって、彼女の周りに集まった。

あれがいい、これがいいと言われながら、

斎姫は物語をゆっくり話し始める。

彼女が話し始めると、不思議とあれだけ騒がしかった、

子供たちはしんと大人しく聞き入った。

離れた場所で胆が乾燥させた植物で何かを編み始めた。


「何を作っているんだ?」

「草履です。あんまり丈夫じゃないからすぐに壊れてしまいますが…。」


その様子を見て、柳森はその植物を手に取って、

何本かを捩じって少しだけ太さが増した紐を作る。

それから器用に草履を編み始める。


「一本で編むより、数本を組み合わせたほうが強度は上がる。」

「わぁ、柳森様、とってもお上手ですね。」


彼は素早い手つきでどんどん編んでいく。


「俺もあちこちを歩き回るのでな。

 そこらへんで手に入るもので作るんだ。

 しかし、この植物はわりと柔らかいが、

 中々に強度がありそうだな。」


胆もそれを見様見真似でやってみる。


「呑み込みが早いな。」

「ありがとうございます!」


気が付くと、漿(しょう)が近くにやってきていた。

彼を膝に乗せてやり、そのまま手は草履編みをしていく。

膝の上の漿は植物を何気なく捩じって手伝いをする。

だが、耳は斎姫の話に傾けているようで、

捩じりながらも目は彼女に向いていた。


柳森は、久しぶりのその感覚に何とも言えない気持ちになった。

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