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龍に翼~双龍伝~  作者: クレト
2/12

太陽以上に大切な光を奪う

言われた道に沿って歩いていくと街門らしきものが見えた。

そんなに大きくはない門の両端に兵士がそれぞれついている。

事前に送られていた通行所を見せた。


「………確認した、お通りください。」

『随分、覇気のない兵士だな!』


2人とも頬がこけているような、

とても逞しさの微塵も生気も感じられない。

この門番で大丈夫だろうかと不安になったが、

とりあえず門内に入ってみた。


『これはどういうことだ?』


柳森は驚愕していた。

見るからに多くの建物が立ち並んでおり、

間違いなく城下町だと思われる。


だが、どんなに歩けども人の姿も気配も無い。

どこかで生活の音一つ聞こえてこない。

ただひたすらに大粒の雪と静寂が広がっているのみ。


「驚いたろ?柳森。」

「………入口辺りからついてきただろう?顎珠(がくしゅ)。」


背後に突然その男は現れた。


「何だ、気づいてたのかよ!」

「お前は気配を消すのが下手すぎるからな。」


顎珠という男。

彼は柳森の仕事の紹介をしたり仲介をしたりする、

柳森にとってもある意味相棒と言うべき存在である。


「こんな人のいない場所に本当に仕事があるのか?」

「あぁ、人がいないわけじゃない。」


顎珠が指を指す。

僅かながらに明かりが見えた。


「この地はほとんど作物が育たない、

 食べ物や必要なものは全てが配給になっているんだ。

 まぁ、こんな厳寒の国に攻め入ってくる馬鹿はいないし、

 戦なんてものも起きることは無いから兵力も必要ない。

 だから必要以上に出歩いたりせずにみんな生きているってだけだ。」

「作物が育たないのに、どうやって生きていけるんだ?」

「全くでは無いさ。

 僅かに育つものは他の国ではとにかく貴重過ぎる価値のあるものだ。

 それを色んなものと取引をしながら賄っているってわけだよ。」


ゆったりと歩く大通りにも人はいない。

店のようなものも無く、まるで廃村のような雰囲気だ。


「それで?ここで何の仕事があるんだ?」

「そりゃ、あそこに行かなきゃわからん。」


彼の視線の先。

見えたのは一際大きな城。


「まさか、王族の相手をしろと?」

「そのまさかだ!

 この国の王、吏王(りおう)様からの依頼でな。

 腕の立つ男を呼んでくれとのことだ。

 詳しい話は城についてから説明するそうだぞ?」

「……王族の相手はしないと言わなかったか?」

「まぁ、それもそうなんだが…仲介料が良くてな。」

「斬り捨ててやろうか……。」


両掌を柳森に向けて、まぁまぁと宥める。


「ちょっと気になることがあってさ。

 試しに様子を見てきてほしいんだよ。」

「何をだ?」


顎珠はとりあえず近くの建物に入った。

旅人の少ないこの国では宿というものが無い。

だが、空き家が多いため、安い金額で家を借りられるという。

柳森を案内したそこは顎珠が借りた場所だった。

中は最低限の家具があり、

彼は慣れた手つきで湯を沸かし、茶を淹れる。

それを柳森に手渡して、椅子に腰かけた。


「どうも、この国ってのは伝説やらに縛られていてな。」

「“双龍伝”というやつか。」

「お、知っていたのか?

 この国に入らないと知ることの出来ない話のはずだが…。」

「ここに来る途中で道に迷ってな。」

「お前さん、相変わらずだな。」

「煩い。とにかく案内をしてくれた子供たちが教えてくれたんだ。」

「街門の外ってことか?」

「そうだ。ここの人間には言わないほうがいいと言われているが。

 彼らは自分たちのことを“はぐれ者”と呼んでいた。

 顎珠、お前は何か知っているか?」

「いや、それは俺も知らないな、調べておこう。

 だが……街門の外が危険だということを知っているか?柳森。」

「“憎塊”のことか?」

「知っているんだな!」

「知っているも何も遭遇した。」

「は!?お前さんは!!どんな生き物だった?」

「気持ちの悪い異形の生き物だ。

 子供たちは“龍の呪い”だと言っていた。」

「そう、その龍の呪いが問題なんだ。」

「どういうことだ?」

「この国の王には4人の娘がいるんだ。

 まず、長女の一の姫、女だてらに才知に長けた娘で、

 民衆からは“知姫(ちき)”と呼ばれている。

 そして次女と三女の二の姫と三の姫は双子だ。

 二の姫は器楽に精通していて“音姫(おんき)

 その音色に合わせて三の姫の“舞姫(まいき)”が舞えば戦も終わると言われる。

 だが、問題は四の姫だ。」

「四の姫?」

「彼女自身が“龍の呪い”にかかっていて、

 四の姫に関わると“死”をもたらす“死姫(しき)”と呼ばれている。」

「………くだらんな。」

「お前さんならそう言うと思ったよ。

 ただ、この四の姫だけは民衆の前に姿を現さんのだ。

 ここの人間誰も見たことが無いと言う。」


顎珠のその言葉に含まれた意味を感じ取った。

茶を一口すすると、柳森はめんどくさいため息をついた。


「その姫を調べてこいと言いたいんだな?」

「そういうことだ!さっすが、柳森は察しがいいなぁ!」


ニコニコと嬉しそうな顎珠。

何故、調べる必要があるかというと。


「もし、その姫が隠されているならばその理由が知りたい。

 他の国にとって脅威のある存在であるならば、

 俺の主にとっても不穏な存在であるからな。」

「……お前の主など知らんわ。」

「まぁ、そう言うな!ちゃんと金は払うから!」


なはははと軽い笑いをあげる。

これだからこいつは面倒だと、柳森はため息をつく。


「あ、それと、どうも城に呼ばれているのはお前さんだけではないらしい。」

「そうなのか?」

「三人の手練れが呼ばれていて、そのうち二人はよく知らんが、

 一人はお前さんもよく知っているあの男だ。」

「………はぁ。」

「まぁまぁ、そんな顔をしなさんな。

 お前さんにとってはどうだか知らんが、一応好敵手だろ?」

「俺に好敵手などおらん。」


益々面倒事が増えたと眉間に皴が寄る柳森。

そんな彼の様子をニコニコと眺める顎珠であった。


*********************


顎珠と別れて城に向かう。

本当に人の気配を感じられない。

大粒の雪は少しやんでいるようだが、空の薄暗さは何一つ変わらない。

顎珠の話ではこの国はずっとこうだと。

古き英雄“填清”が龍を倒した後、

この国から太陽は失われた。

もう何千年と太陽を失ったこの国は、龍に呪われたままなのだと。


『…まぁ、どうでもいい。』


この国だけではない。

この世界が奪っていくのは太陽だけではない。

太陽以上に大切な光を奪う。

大事な温もりも。

何もかもを奪っていく。

奪っても尚、生きていかねばならない苦痛を与えるのだ。


何を求めても失われたものは永遠に失ったまま。


「相変わらず、硬い顔をしてんなぁ?柳森?」


声の方に顔を向ける。

あぁ、面倒だと内心は思いながらも、返事をしてやる。


「きていたのか、雲丞(うんじょう)。」


雲丞もまた逞しい体つきではある。

そしてその体格に合わせたかのような流線形の大剣を肩に担いだ。


「まさか、お前も呼ばれているなんてなぁ。俺は運がいい。」


ゆっくりと構えをつくる雲丞。


「貴殿は…相変わらず、頭が弱いらしいな。」

「そう言うなよ、柳森。

 お前と会ったら俺は必ずこうするって決めてんだよ。

 さっさと剣を抜いて構えろ?

 俺はお前とやりあいたい。」

「断る、会うたびに毎回毎回貴殿は………。」

「柳森!!!!!」


―――メキッ!!


雲丞が一歩踏み出した。

それだけで地面が割れる。


仕方ないかと剣に手をかけた。


だが、


「おやめなさい!!」


凛とした声が響く。

そちらに顔を向けると一人の女が立っていた。

彼女の後ろには何人もの兵が並んでいる。


「雲丞殿と柳森殿でお間違いないでしょうか?」

「そうだが?」

「私はこの国の一の姫“知姫”と申します。

 申し訳ございませんが、領地内での争いはおやめ頂きとう願います。」


姫と聞き、柳森と雲丞はすぐに膝をついて礼をとる。


「「大変、失礼をいたしました。」」

「城にご案内いたします。」


知姫は唾を返して歩き出す。


「勝負はお預けだな。」

「せぬと言っている。」


二人も後をついて歩き出した。

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