final.永遠に続く勇気の物語
次の日──二人と会った。莉子は頬を怪我していたが絆創膏だけで済んだ。僕達は村の周りを三人で散歩をしていた。重太は気絶していた為、何が起きていたか全く覚えていなかったのだ。
「あの日よ火の玉を見てから俺、どうしたんだっけ?」
「気絶して倒れたのよ。だから、私と暁で運んで家に返したのよ」
「でもよ。暁の顔ボロボロで倒れてたし、どうしたんだ。莉子も怪我していたようだけど」
僕の顔には切り傷が無数に出来るし、手足にもアザが出来ており、莉子にも頬に軽くアザが出来ており、重太を運んだだけでこんな事になる訳がない。僕は慌てて言い訳をした。
「僕、重太運んでいる時にこけちゃって!! へへへ」
「わ、私も体勢崩しちゃって、ドジね私達! はっはっは!!」
そして莉子は立ち止まり、僕の方を優しく見た。
「暁!」
「どうした莉子?」
莉子は僕に寄ってくると、僕の頬にキスをしてきた。
「なっ!?」
そして優しく耳元で囁いた。
「助けてくれたお礼よ。それに昔の事もありがとう。私、全然気にしてないからね。本当にありがとう」
僕は顔が真っ赤になり、固まって体勢を崩してしまった。
「危ないわ暁!」
今度は莉子が僕に抱きついて支えてくれた。
目の前には心配そうに僕を見る莉子の顔が至近距離にあった。それを見て、更に顔が真っ赤になった。
「どうしたの暁? 熱中症かしら?」
「熱中症かもしれんが、まだ怪我が治ってないのか?」
重太の言葉は的を得ていたが、僕は何も言えずに二人に家まで運ばれていった。
それから数日間の間、僕達は様々な体験をした。流しそうめんやスイカ割り、怖い話大会──こんなにも充実し、濃い夏休みは生まれて初めてであり、一生体験出来ないだろう。
*
そして最後の日となり、僕は元の家に帰る時となった。僕は荷物を車に乗せていると二人は見送りに来てくれた。
僕は前から思っていた疑問を二人に聞いた。
「そういえば二人共高校はどうするの?」
僕が聞くと、莉子は微笑みながら言った。
「私も重太も高校生になったら、暁と同じ高校に行く事にしたんだ。少し遠いけど。でも、そのために重太はかなり勉強を頑張ったのよ」
「り、莉子! それを言うな!」
慌てふためき、視線が全然関係ない方へと向く重太。本当に勉強していたんだろう。
「ありがとうな重太」
「へ、へへへ!!お前みたいな奴が虐められないか心配だから、頑張ったまでよ!!」
「重太も少しは怖い物に慣れろよ。街の女の子はそうゆう男は好かんからな」
「う、うん……慣れるよ。多分」
でも僕はとっても嬉しかった。一年に数日じゃなくて、毎日のように会える事がとても嬉しい。こんな楽しい毎日が高校生になって続く事が。
莉子はちょっとだけ寂しそうな声で聞いてきた、
「高校生になってもここに来る……?」
「もちろんだ。学校は学校。ここはここだ。また花火をしたり、祠に行ってお参りしよう。僕達の町だからな!」
「うん、もちろんよ!」
僕は二人と握手をして、お互いの連絡先を交換した。今は一時的なお別れとなる。でも、また会える。そう思うとここの別れもあまり辛くはない。
そして僕は車に乗り込み、車は元の街へ動き始めた。
「暁!!元気でいろよ!!」
「また会おうね!!」
二人は遠ざかっていく僕に声をあげて手を振った。僕は窓を開けて、ガラにもなく大声で叫んだ。
「二人共、また春に会おう!! 今度は僕が、街を案内してあげるから!!」
すると二人は走り出して大声で僕に叫んだ。
「絶対よ! 美味しいスイーツの店教えてね!!」
「俺にも面白い場所いっぱい教えてくれよ!!」
僕の目から少しだけ涙が流れるも、我慢して二人に手を振りながら硬く約束した。
「うん!約束するよ!!絶対に!!」
車は森の中へと入って行き、村からどんどん離れていった。莉子達の姿は見えなくなり、僕は元の世界へと戻る事となった。僕は二人が見えなくなるまで必死に手を振った。二人も僕が見えなくなるまでずっと手を振ってくれた。
この夏は、生きていて初めての出来事ばかりだった。でも、それは新たなる冒険の扉であり、新たなる僕の成長の道が開かれていった。
火累丸さん。貴方のお陰で守る事も出来ました。そしてこの村を守る事も出来ました。貴方の意志はこんな僕でも継げたでしょうか?
後、何十年何百年と経ってもこの祠の伝説は途切れる事はないでしょう。
僕らの世代が貴方の勇気を次に伝える番だから。
この世界の刻印戦記はこれでお終い。
時代を繋ぐ勇気を持つ者がいる限り、どんな困難が起きてもその勇気が道を切り開く。その魂が力を呼び覚ますだろう。
少年と少女は再び別れた。二人だけしか知らない秘密は永遠の記憶となるだろう。
これは、守りたい気持ちと勇気が生み出した刻印の物語である。