7.刻印と勇気
炎の刻印を前にしても骸は冷静に状況を整理していた。
「なるほど、あの時と同じように刻印を覚醒させた……というわけか。火累丸め、すごい奴を来世に残したな」
骸はニヤリと空を見て笑った。
だが、僕自身そんな余裕はなかった。身体から力が湧き上がってきた。何で言えば分からないけど、まるで漫画で主人公がパワーアップしたような強くなった感じである。
「僕はお前を倒して、莉子を──いや、この村を守り、お前を封印する!」
「それでこそ、現代の武士よ。いざ、尋常に勝負だ」
「はぁ!!」
僕は真っ直ぐと突っ込んだ。骸は拳を構え、僕が目の前まで迫ると骸は拳を突いた。本当は素早い攻撃だが、今の僕にはとてもゆっくりに見えた。腰を屈めて攻撃を避け、骸の顎に拳を殴り上げた。
「ぐっ!」
「いっ……」
怯んだ骸に畳み掛けるように攻撃を繰り出した。
殴るってこうゆう感触なんだ。漫画では痛くなさそうにみんな殴ったり蹴ったりしていたけど、こんなにも腕全体がジンジンと痛むなんて……でも、これで良い。戦いを放棄した情けない自分にとってこの痛みは、許容範囲だ。
連続で攻撃をし、骸の口から吐かれた黒い液体のような血が服に掛かったが、気にせずに攻撃を続けた。防御体勢になった骸を殴り飛ばすと苦痛の表情を見せて、何歩か下がった。だが、骸の口は笑っていた。
「ふっ……やるな少年」
「い、今のが僕の力……」
「その通りだ。それが人智を超えた力──刻印だ」
僕も理解が出来なかった。確かに火累丸の記憶でも圧倒的な力で骸を押していた。でも僕はこの能力が頭に入っており、全てを知り尽くしていた。
骸は満足そうな顔をしていた。
「戦っていくうちにその力の感を取り戻すはずだ。今度は我の番だ」
その場から骸は消え、骸から感じたオーラも消え去り、何処にいるか分からなくなった。
すると背後から突如感じ、振り向くと僕の顔面を骸の拳が殴り飛ばした。だが、僕は地面に手をつけて体勢を整え、身体の炎のオーラを放出させてすぐさま反撃に出た。
骸も一気に接近し、先に攻撃を仕掛けてきた。爪を突くも僕は頬スレスレで避けて、炎を纏った拳を骸の胴体に一発叩き込み、大爆発を起こした。
「ぐふっ」
骸は衝撃で煙の中より吹き飛ばされて、鎧にヒビが入った。口からは血を吐き、ダメージを与えたと分かった。
僕自身が戦い、魔界から来たと言っている戦士に圧倒していた。そして何より、この戦いを楽しんでいる自分がいた。だけど、今はこの地を守る為の戦いである。
「無謀な勇気と純粋な勇気は違う。あの時の僕は無謀な勇気であり、無理だと分かっても莉子を助けたかった。でも、今は純粋な力と勇気で莉子を助けるんだ!!」
その時、目の前から白い粒子が集まり始め、暁の目の前に細く長い刀が形成された。
僕はこの刀を見たことがある。火累丸の記憶の中から見えて来た。あの刀だ。火累丸が使っていたあの刀だ。
その刀を見ると、立ち上がった骸の動きが止まった。
「その刀は火累丸の……」
「この刀は火累丸の刀が最期まで殿を守る為に払った義の刀──名刀仁咲!」
僕はその刀を鞘から抜き、骸へと突きつけた。
「この刀と共にお前を倒す! 火累丸の魂を受け継ぐ魂の決闘だ!!」
「その気合いを待っていた」
骸は手を突き出すと、そこから僕が持っている物と同じ日本刀を出して構えて、真っ直ぐと突っ込んできた。そして刀を直線上に突いてきた。
「ふん!!」
僕は寸前で横に飛び避けた。だが、骸はすかさず避けた方向へと刀を振り上げた。
顔面に当たる直前に、顔を後ろに振り攻撃を避けたが、髪が一部切れ落ちた。
着地して自分の身体を見ると、服に切れ込みが入っていた。
「……はぁ!」
僕はすぐに反撃を試みた。飛びかかるようにジャンプし、力の限り刀を振り下ろした。骸は慣れた手付きで刀を構えて攻撃を受け止めた。その瞬間にぶつかり合う金属音が森全体に響き渡り、大きな衝撃波が一帯に発生した。
刀を同士がぶつかり合い、火花が激しく散った。僕が徐々に刀を押して行き、力を更にこめて骸を押し飛ばした。
「くっ……」
「とぉぉぉ!!」
怯み、身体の体勢を崩した骸。僕は一気に距離を詰めて、骸の間合いに入ると骸は適当に刀を振り下ろした。
僕は攻撃を見切って、骸の胴体に入り込むように接近して刀を振り上げた。鎧を切り、力を入れて身体を斜めに斬りつけた。刀で切るのがこんなにも鮮やかで、予想以上の力が必要なのが身体に伝わった。手がヒリヒリと痙攣をして、振り上げた体勢のまま動揺してしまった。
斬られた胴体から黒い血が噴き出て、僕の顔や服にかかった。
「ぐはっ!!ちっ!!」
骸は傷口を押さえて、動揺していた僕に一太刀刀を振り下ろした。横腹と右腕に軽い切り傷が刻まれ、傷口を押さえた僕を蹴り飛ばして木に頭をぶつけた。
「いっ……くっ……」
斬られた……浅い傷とはいえ、こんなにも身体が痛いなんて、さっきのヒリヒリとは比較にならないほど痛い。もしかしたら死ぬのかな。僕の脳裏に激しく死の文字が駆け巡った。
今すぐにでも、逃げ出したい。でも、これじゃあ前の自分と同じになる。それだえは絶対に嫌だ……
そんな中、僕を心配して莉子が駆け寄ってきた。
「暁!!」
「……莉子、君は隠れていろ!」
「傷が……」
「大丈夫だから、離れて!!」
僕らしくもない強い口調で言うと莉子は心配をしながらも、離れていった。
傷痕を押さえながら骸はこちらに歩いてきた。
「はぁ……はぁ……素晴らしい太刀だ。武士としての才能があるな」
「褒めてくれるのはありがたいが、嬉しくはないね……」
お互いに体力を激しく消耗し、互いに分かっていた。次の一撃で勝負が決まると。
「……あまり時間をかける訳にもいかない。一気に勝負をつける!」
「なら、その一撃を最後の一太刀と行こう。いざ!!」
僕は乱れる息を整えて刀を両手で持ち、骸を睨みつけて構えた。身体から放たれる炎のオーラは更に燃え上がり、刀にまで炎が纏った。
骸は僕を見るとニヤリと笑った。骸からは僕が火累丸に見えているようで、骸自身も戦いを楽しんでいるようであった。そして骸も刀を構えた。
「あの姿。やはり火累丸か」
「……行くぞ!」
「来い」
僕と骸は同時に走り出した。この一撃が勝負を決める。僕や莉子、そしてこの世界の命運を決める一撃となる。
どんだけ土や血に塗れたって良い。怪我をしたって良い。自分の命だってかける覚悟がある。大切な人を守る為なら!!
僕達は刀を振り、お互いに剣を交えてすれ違った。
「斬!!」
僕の猛スピードの太刀は地面に炎の跡が残るほど早かった。
お互いに刀を振った体勢のまま固まった。先に倒れるのは──
「くっ……」
僕の頬と肩に切れ込みが入り、服が血で赤く滲み出した。
僕の負け……か。そう覚悟した。ごめん莉子。心から莉子に謝った。僕は地面に座り込んだ。
*
その時、別場所のお婆ちゃん家の縁側で空を眺めながらお茶を飲んでいたお婆ちゃんが何か不思議が感覚を感じた。
「あら?今、火累丸さんの姿が見えたような?」
「お婆ちゃんどうしたの?何かいたの?」
「いや何でもないよ。ふふふ」
お母さんの問いに誤魔化すのように言い、お婆ちゃんは再び空を見上げて微笑んだ。
お婆ちゃんには骸と戦う火累丸の姿が見えたのだろうか。それはお婆ちゃんにはしか分からない……