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5.骸


 深夜となり、家族が寝た事を確認すると、三人こっそりと揃って祠へと向かった。全員、ライトを片手に持ち、重太だけはなぜかバットを持っていた。もちろん僕は身体全体に虫除けスプレーを掛けて、予備のスプレーも持っていく事にした。

 昼よりは涼しく、虫の鳴き声も収まって、とても安心する。だが、超がつくほど真っ暗で月の光があるおかげで少しは明るい。住んでいる街と違って電灯がなく、一メートル先が見えないほどであった。

 重太が先頭に立ち、祠へと向かった。僕の隣には莉子が歩いており、少し怖がった表情で歩いている。


「やっぱり、夜って怖いわね」

「う、うん。街でもこんなに暗いのは無いからね……」

「お化けとかいないわよね……」


 怯えた声で言う莉子は、そっと僕の肩に手を触れて来た。

 莉子の暖かい感触が直接感じ取り、また冷や汗が流れ始めた。

 前を歩く重太がそっとこちらを向き、ニヤリと笑い、いやらしく言う。


「いいね暁く〜ん」

「う、うるさい!」


 莉子が引っ付いたまま山の麓へと到着し、山へ登り始めた。その道中、僕はふと気になった事を重太に聞いた、


「そういえば、何でバットを持ってるんだ?」

「もしも火累丸さんの幽霊が襲いかかってきた時に、これで追っ払ってやるんだ」

「さっき、カッケーって言ってたじゃん……」

「だって幽霊になったら、暴走して襲いかかってくるかもしれねぇじゃん」


 その言葉に僕は呆れた。そういえば昔、重太と一緒にテレビ放送でホラー映画が流れた時、ずっと僕の後ろに引っ付いていた記憶があった。


「さぁ! 幽霊よ! 俺を倒してみろ!!」


 強気な声を上げて、一人どんどん前に進んで行く。

 本人は昔から幽霊なんて信じないと言っているが、今の様子からじゃ、完全に信じているだろう。

 そんな重太を見て、莉子はまた笑いながら言った。


「重太ってすぐに行動には出るけど、後先考えないで行くからねぇ」

「本当だよね。でも、あの明るさが重太らしいよ」

「ふふ、そうね」


 すると突然、重太が青ざめた顔をして大声を上げた。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

「どうした重太!!」

「お、お化けだぁぁぁ!!」


 倒れた重太の元に駆け寄るとそこには巨大な"立ち入り禁止"と書かれた看板が設置されており、工事現場にいる作業員の看板も共に置いてあり、それに重太はびっくりしたようだ。看板は両方とも錆びており、顔部分も不気味錆びていた。


「これに驚いたのね」

「そうみたいだね。でも立ち入り禁止って大丈夫なのかな、本当に」


 重太に尋ねるとまた自身満々に答えた。


「大丈夫!!」

「……」


 どこか腑に落ちない中、看板を後にして進み、僕らはその祠の前に着いた。着いた途端、威勢の良かった重太に異変が起き始めていた。


「や、や、や、やはり怖い……この雰囲気はやばい……」


 重太の歯軋りがうるさくなる中、僕は無視して先へと進んだ。

 異質な雰囲気。普通じゃない雰囲気がこの祠の周りを包んでいた。

 まるでホラーゲームの世界にいるような気分だ。僕自身はこんな空気は別に怖くはない。むしろ見惚れるタイプである。


「あの祠に本当に火累丸の霊がいるのかな?」


 すると、突然祠の前から小さな野球ボールサイズの火の玉が浮き出て来た。ゆらゆらと揺れながら、僕達の周りを飛び交った。


「きゃっ!!」

「火の玉!?」


 僕らは驚き、その場に固まってしまった。誰かの仕業なのか、それとも本当に心霊現象なのか、訳も分からなくなった。

 だが、僕と莉子よりも重太の方がもっと大変だった。


「ひ、ひ、ひ、火の玉が浮いて──」


 あんだけ歯軋りを立てていた重太は恐怖で目を真っ白にして、その場に気絶してしまった。

 倒れたのを見たのか、火の玉は祠の前へと引いていった。


「お、おい! 重太!」

「き、気絶しちゃった……」


 重太は嘘で気絶して僕と莉子の二人っきりにすると言ってくれたが、これは完全に気絶しているだろう。重太はそんな演技派な奴じゃないから分かる。


「ぼ、僕が行く!」

「本当に!? 危ないよ!」

「だ、大丈夫! 今の僕になら、簡単な事さ!あれは偽物だと思えばいいんだ!!偽物だと!!」


 そう言ってはいるものの、完全にやせ我慢だ。足は激しく震え上がり、顔からも冷や汗が止まらないほど流れていた。こんなにまで風を冷たく感じたのは初めてだろう。

 僕は一歩一歩足を進めて、火の玉が浮いている祠へと足を運んだ。

 今の僕のなら大丈夫。今の僕なら大丈夫。あれは偽物だ。あれは偽物だ。そうずっと同じことを頭の中で念じた、というよりも言い聞かせていた。そうでもしないと恐怖で重太のように倒れてしまう。そうなったら、誰も莉子を助けることが出来なくなる。

 少し離れた木の陰で莉子が不安そうに見守っていた。

 そして僕は火の玉の目の前に立った。


「暁! 大丈夫?」

「大丈夫だよ!」


 本当はとても怖い。でも、男を見なくてはいけない。僕は無理やり余裕の笑いを見せながら莉子に言った。

 だが、これは本当に謎の存在なのがよく分かる。立っているとその火の玉から本来の炎のような熱さはなく、ほのかに温かみを感じる。まるでヒーターのようだ。

 勇気を見せる。あの時みたいな不甲斐ない自分を見せたくない。僕は息を呑み、勇気を出して火の玉を掴み取った。その瞬間、僕の胸が赤く輝き始めた。


「う、うわっ!」

「暁!」


 僕は思わず、尻餅をついて倒れた。

 自分の身体から温かい感触を至る所から感じた。

 とても心臓熱い。すぐに服を脱いで胸を見た。すると、そこには『炎』の文字が刺青のように刻まれていた。


「な、何だこの文字!?」

「どうしたの暁!? 大丈夫なの!?」


 莉子が駆け寄ってきて、僕の身体を見た。今は恥ずかしいと言うより、何が起きたか分からずにお互いに混乱していた。

 そして祠が再び暗く輝き始めた。


「今度は何だ!?」


 すると、祠から黒い粒子が放出されて、それが空高く舞い上がり一つに集約し始めた。粒子が集まると何か人型のような物が形成されて行く。僕達は何が起きたのか分からず、逃げる事すら忘れて、その形成されていく物を見つめていた。

 そして粒子が出てこなくてなると、空には髪が垂れている色白の肌の男がいた。禍々しい鎧を纏っており、背は大人と同じくらいであった。目を開けてゆっくりと地面に降りて僕達の方を向いた。


「だ、誰なんだ……」


 その男は口を開き僕達に語りかけてきた。


「我が名は(むくろ)。五〇〇年の眠りより、この地に復活した」

「む……骸?」


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