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4.火累丸

 その夜、お婆ちゃん家に莉子と重太が遊びにきた。

 僕はホラー番組を見ており、莉子は平気そうに見ているが重太はビクビクと怖いのを我慢しながら見ている。僕や莉子は重太がホラー番組が苦手なのは分かるが、本人はやせ我慢して強気で見ている。


「こ、こんな子ども騙しの番組見たって面白くないだろ。他の見ようぜ」

「これ以外面白い番組入ってないもん」


 重太はそっとリモコンを奪おうとするが、僕は咄嗟にリモコンを取り上げて、背中に隠した。

 莉子も重太を哀れな目で見ていた。


「まだ、心霊番組見れないの重太〜」

「そ、そんな訳ないだろ! 子ども騙しの番組が嫌いなだけさ! 俺が心霊番組如きでビビるとでも?」


 意地を張って言う重太に僕も莉子も笑いを堪えるので必死だった。昔、重太はみんなで心霊番組を見ている時に、突如お化けが画面にドアップに写って、びっくりして気絶した過去がある。それで心霊系がトラウマとなっていたのだ。

 すると、お茶とお菓子を持ってきたお婆ちゃんがとある話を切り出した。


「みんなにちょっとしたここの話があるけど聞くかい?」

「聞きたい聞きたい!!」


 重太が素早くリモコンを奪い取り、すぐにテレビを消した。そしたテンション高くお婆ちゃんの話に耳を傾けた。

 僕も莉子も何も言わずにお婆ちゃんの話を聞く事にした。


「どんな話? どんな話?」

「丁度今から五〇〇年も今日の話じゃ」


 そう言って婆ちゃんの話が始まった。



 この町には、室町時代にお城が立っていた。その城主の名は赤茂秀光(あかしげひでみつ)。この辺一帯を収めていた武将だった。

 秀丸は城下に住む民達を慕っており、自ら民達の話を聞き、政策を行なっているほどだった。秀丸自身が平民出身である為、少しでもいい町を作ろうと必死になっていた。その努力は民も部下達もよく見ていたために、多くの人に慕われていた。

 だが、ある日民からとある噂話を聞いた。

 最近山から謎の怪物が出ると聞いた。それも人間のような姿をしており、人間よりひと回り大きな姿であった。秀丸はその言葉が本当か気になり、十名程の兵を送り込んで確かめた。

 すると、その場にいた兵士達は全員ボロボロになって帰ってきた。怪我はしていない、だが鎧や武器などは傷だらけで帰ってきたと言う。

 不思議に思う秀丸だったが、兵士が挙って言った。"あの化け物が言っていた。強き者を出せ"と。

 その言葉に頭を悩ませた秀丸だったが、そこに一人の青年が挙手した。それは秀丸のお世話をしている小姓の夢頼火累丸(むらいひるいまる)であった。若干十五才と言う若さながら、剣の腕はとても立ち、更には人柄もよく周りからの評判も良い。秀丸自身とても気に入っている者であった。

 秀丸は火累丸に任せて、火累丸は単身一人で山へと向かった。そこにいた化け物に火累丸は勝負を挑んだ。化け物の強さはまさに最強と言えるほど強かった。火累丸は圧倒的な強さを前に敗北してしまった。

 だが、その化け物が貴様の負けはこの町の破壊すると告げた。その言葉が嘘ではないと考えた火累丸は立ち上がり、この町を守ろうと再び化け物と戦いを始めた。その時に火累丸の身体が赤く燃え上がったと言う。その戦いは何時間にも及んだ。噂によると、火累丸の身体が真っ赤に燃え上がった幻影が城にまで見えたと言う。

 だが、夜明けになると戦いに終止符が打たれた。お互いに体力を使い果たし、疲れ果てた化け物は火累丸の街を守りたい思いと根性を見て、戦うのをやめた。そして二人は再戦の約束を交わして、消え去ったと言う。

 それからこの町にはこの季節になると、化け物の魂と火累丸の魂が未だにこの山の何処かで戦いを繰り広げているのではないかと言われている。



 この話に重太が手を震わせながら手を挙げて婆ちゃんに聞いた。


「そ、その火累丸って人はその後、どうなったの?」

「その後かい? 数年後にこの村付近で起きた戦いに巻き込まれて、最後まで秀丸の側で戦い、最期は戦死しちゃったんだよ」

「マジで!? 逃げなかったの?」

「えぇ、秀丸も火累丸もこの町が好きだったんだよ。自分達が育ち、作りあげたこの町と民達が。火累丸はどこかの捨て子だったけど、たまたま城下町の視察をしていた秀丸に発見され、可哀想だと思って自らの子のように育てあげたんじゃ。だから、火累丸もその恩を返す為に、最後まで戦い抜いたのよ」

「そんなカッコいい人がこんな田舎町にいたなんて……最高じゃないか!」


 重太は一人テンションが上がり、庭へと飛び出てバットを一人振り回した。


「なら俺も、お化けごときにビビってないてその火累丸のように強くなってやらぁ!!」

「やっぱりお化け怖がってるじゃん」

「あっ、しまった!!」


 その光景に全員が笑った。もちろん莉子も楽しそうに笑っていた。


「重太って本当、元気でバカね」

「そうだな」


 そして莉子は重太の事を話してくれた。


「実は重太って暁が来なくなってからも毎年、お婆さん家に行って暁の事を聞いていたわ。今年は来ないの? もう来ないの? って。こんなに元気な姿の重太は久しぶりよ」

「そうなんだ……」

「私もてっきり来なくなったかと思って。私の事が嫌いになったかと思って……」


 苦笑しながら言う莉子に僕は慌てて反論した。


「そんな事ないさ。僕が莉子を嫌いになる訳ないだろ」

「そ、そうよね。暁ならそう言うと思った。ちょっとスッキリした」


 そう言った莉子は笑顔で立ち上がり、僕の顔を見てきた。とても可愛らしい。その事だけが今の僕の癒しとなった。僕と莉子が目を見つめ合い、一瞬だけ時の流れが止まったかのように思えた。

 すると、お婆ちゃんが部屋の奥からある物を持ってきてくれた。


「みんなで花火はどうかな?」

「花火?」

「今日のためにいっぱい買ってきたんよ」


 お婆ちゃんが持ってきたのは大量の花火だった。

 線香花火や打ち上げ花火など、多種多彩の花火が入ったお得な花火セットであった。


「おっ! 花火じゃん!! みんなでやろうぜ」

「うん!」


 街の方ではあまりやる事もなく、友達の家はマンションだから出来なかった。数年ぶりの花火で僕は小学生の頃のようにはしゃいで花火を始めた。

 重太は更にテンションが上がり、花火を両手に持って片足だけで自重を支えながらくるくると回転して火花を撒き散らした。


「俺は最高のバレエ選手だ! はっはっは!」


 僕も線香花火を持ち、先端から出る火花をジッと見ていた。

 先端から弾けるように出る火花がとても綺麗であり、こんなにも火花が綺麗だと思うのは初めである。

 打ち上げ花火もした。空高く飛んでいき、綺麗な花を開かせた。全員が見惚れて、そっと莉子の顔を見ると打ち上げ花火に見惚れてとても満足した顔をしていた。

 そして僕の方を向いてニッコリと笑ってくれた。


「花火って楽しいね暁!」

「う、うん、最高に楽しいよ。やっぱり花火っていいな」


 そして打ち上げ花火も終わり、一人しゃがみ込んで線香花火に見惚れている莉子。

 すると重太がゆっくりと僕の横に迫り囁いた。


「なぁ、暁。今日の夜、肝試ししないか?」

「肝試し?」

「三人でだ。さっき婆ちゃんが言ってた火累丸って人の墓の祠に行こうぜ。火累丸も根性があったんだ。俺ら現代の人間も根性があるって所を火累丸に見せてやろうぜ! それに莉子が怖がったら。お前にしがみついて来るかもしれないぜ」


 僕はちょっと想像してしまった。何か物音が聞こえて、びっくりして僕の腕にしがみついてくる莉子の姿を。考えると思わず、顔が真っ赤になってしまった。

 そんなバレバレ顔を見た重太は僕の頭を叩き倒した。


「想像してんじゃないぞ、この変態が!」

「痛っ!! 想像なんかしてないよ!……少しだけだよ!」

「少しだけねぇ。まっ、とにかく行こうぜ。莉子も来てくれるだろうし」


 でも、やはり昔の事を思い出して、僕は躊躇った。


「ま〜た昔の事を思い出したのか? 何度も言わせるなって、アイツはもう丈夫な人間になった。だから、祠に行くぐらい大丈夫だって!」

「本当に、良いのかな」

「大丈夫だって。なぁ、莉子! 肝試しするけど、お前も来るか!」


 重太が莉子に声を掛けると、莉子は元気よく頷いた。


「うん、うん! 行く行く!! 私行くよ!」


 僕は少しは安心した。莉子自身から行くって言うのは珍しく、本当に元気が良いのが分かり、ホッとした。


「そら見ろ。あいつ自身も行くって言うんだからいいんだよ」

「うん、なら……僕も行くよ」

「そうと決まれば、行くぞ!」


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