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2.あの子との再会



 小学二年生の頃、仲良くなった僕と重太がその年も外で元気よく走り回っている時、その近くの家の二階から僕らを覗いている可愛らしい女の子がいた。


「ねぇねぇ重太、あの子誰?」

「あの子は莉子って言うんだ。理由とかは知らないけど、病気で身体があまりよくないから、いつも家の中にいるんだ。だから体育や水泳の授業も休んでるんだよ」

「そうなんだ、可哀想……」


 初めて見た印象、恥ずかしいけどとても可愛い子だと思った。僕は思わず目が釘付けとなって、その子を無意識にじっと見つめていた。

 心臓もバクバクと鼓動を増して、完全に恋に落ちてしまった。


「大丈夫かぁ暁?」

「あ、大丈夫だよ」

「もしかしてぇ〜、莉子に惚れたかぁ?」

「そ、そんなんじゃないよ!」


 僕がそっぽを向くと、重太は莉子の家に手を振り、大声を上げた。


「お〜い!! 莉子!!ー 」


 重太が元気よく声を上げると、莉子は窓を開けて、僕の事を興味津々に見つめて、僕に目を合わせたまま初めて声を上げた。


「その子誰!」

「染矢の婆ちゃん家の孫だって!」

「ねぇ、君!! 名前教えてよ!」


 元気の良い女の子らしい可愛い声が、今でも僕の頭の中にしっかりと残っている。

 僕は緊張して気をつけを無意識にして、莉子の顔を見ることも出来ず、目を晒してぎこちない言い方で自己紹介をした。


「ぼ、僕は染矢暁。よ、よろしくお願いします!」

「暁君……か。よろしく」

「は、はい!」


 完全に敬語で言う僕に重太は呆れ果て顔をして背中を強く叩いた。


「何がハイだよ! もっとハキハキと言えよ暁! 莉子に嫌われるぞ!」

「ぼ、ぼ、ぼ、僕は暁! よろしくお願い申し上げます莉子さん!」

「ダーメだこりゃ」


 僕は完全に顔が真っ赤になり、その場に立ち尽くしてしまった。

 それが莉子との出会いであり、僕の甘酸っぱい思い出であるが、数年後に起きた事件がお婆ちゃん家に来なくなる理由となった。

 だけど、その事件の後でも僕は莉子を忘れる事が出来なかった。



 その記憶と共に僕はボーッとなっていた。そんな僕を、軽く叩き我に戻った。


「大丈夫か? お前?」

「あ、あぁ。大丈夫」

「そうだ。良いもん見せてやる」


 重太はスマホのとある写真を見せた。その写真は七年前に撮った重太と莉子と僕が仲良く寄り添っている写真であり、莉子が僕に引っ付いているが僕は顔が真っ赤になってカメラから目線が外れていた。


「な、懐かしい写真だね……」

「お前、緊張すぎだぜ。昔っからな。今の莉子にあったら、気絶するんじゃないか?」

「……」


 確かに気絶するかもしれないな。想像もできない、今の莉子の姿がどんな姿なのかとても気になるけど、やはり緊張してしまい

会う決心が中々付かない。

 また冷や汗が流れて、身体が震える。昔の事を思い出してしまい、今にも逃げ出しそうになる。


「暁! 重太!! 来たわよ!!」

「!!」


 僕はやっぱり会えない時逃げようとした時、家の中から活発な女の子の声が聞こえて来た。まさしく莉子の声であった。

 莉子の聞こえてくると重太は僕の裾を掴み、外へと引っ張って行く。


「莉子のお出ましだぞ! 行くぞ!」

「ちょ、まだ、心の準備が!」

「見ろ、莉子!! これが暁だ!!」


 玄関を勢いよく開けて、僕と莉子は数年ぶりに対面した。

 麦わら帽子を被った白いワンピースを着たショートヘアの女の子。莉子だ。はっきり言って五年前よりもとても可愛くなり過ぎて、僕は思わず固まってしまった。

 莉子も少々もじもじしながら僕に言った。


「久しぶりだね暁」

「う、うん……」


 莉子は昔のように元気のある姿で接してくれて、内心安心した。でも、今の僕にはまだ彼女に目を合わせる資格なんてなかった。

 そんな僕を気遣ってか、莉子はある提案をした。


「……久しぶりにみんなで外歩こうよ」

「だ、大丈夫なの?」

「当たり前よ。もう身体の方は治って自由に遊べるのよ!」

「莉子が言うなら……いいよ」

「なら、川に行きましょう!」


 僕は親に告げて、夕方までに帰ってくる事にした。行くと決まると僕はバックから虫除けスプレーを取り出して、一気に身体に吹きかけた。無心になって掛けて、一缶丸ごと使ってしまった。


「使い過ぎじゃない?」

「そうかな?」


 そして僕らは出発した。

 元気よく先陣を歩く莉子。その後ろで僕と重太はヒソヒソと話しながら歩いていた。


「莉子の奴、可愛くなっただろ」

「い、いや……そうだけど」

「あいつに彼氏がいるか知ってるか?」

「い、いるの!?」


 気になるに決まっている。普通に考えたら、あんなにも可愛い子、ほっとく男子なんているわけがない。僕は暑さとは別の汗が流れた。

 僕の心臓の鼓動が激しく増す中、ニヤニヤと焦らすように重太は息を飲んで言った。


「実はな……俺」

「えっ!?」


 驚きだった。というよりも当然かもしれない。昔からスポーツが出来て、顔もカッコいい。頼りになる奴だ。

 でも、内心驚きを隠さず、足を止めて固まってしまった。そんな僕を見て、重太は笑いながら背中を思いっきり叩いてきた。


「な訳ないだろ。しっかりしろよ!はっはっは!!」

「えっ、嘘なの!?」

「当たり前だ。あいつが俺なんか選ぶ訳ないだろ。本当は、まだいないさ」

「本当!?」

「もちろんだ。でもやっぱりあいつ。モテるんだよな。同学年から先輩まで多くの人が告ったが、全員ダメみたいだ。本命がいるとか何とか」

「……」

「誰だろうなぁ、本命って」


 そう言って重太はニヤニヤしながら僕を見た。

 でも、莉子が僕を好きになる理由なんてないんだから、重太の考えすぎだろう。でも、本当だったら──


「二人共早く来てよ! 遅いわよ!」


 莉子の呼びかけに僕は我に帰った。


「早く行こうぜ暁! 愛しの莉子が待ってるぞ!」

「う、うるさいよ! さっさと行こう!」

「なら、久しぶりに川まで競争と行こうぜ! お前、サッカークラブに入ってたよな。あの時の足の速さが衰えていないか、競争だ!」

「サッカーは辞めたけど、競争はするよ」

「よし……スタートだ!」


 僕と重太は息のあったように一斉に走り始め、莉子を軽々と追い越して行った。


「待ってよぉ! 二人共!」


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