1.5年ぶりの……
あの日の出来事は忘れてないだろう。
大切な人を守る為に手に入れたあの力を──
中学三年生、僕はこの年の夏休みに田舎の祖母の家に行く事となった。
僕が祖母に家に行くのは五年ぶりであり、五年前までは毎年泊まっていた。でも、とある理由で祖母の家には行かなくなった。
それからは両親が祖母の家に何日か泊まる為、友達の家に泊まるのが当たり前だった。だけど、今年は毎年泊まる友達が、用事で家を離れると言って今年は中止となった。だから今年は渋々と祖母の家に泊まる事にした。
ジメジメと熱されたアスファルトが夏の暑さを更に助長させるビル街から離れて、セミの鳴き声と草がゆらゆらと揺れる音が靡く緑豊かな田舎町へと僕を乗せてデコボコが激しい土の道路の上を車が走った。
僕はヘッドフォンで音楽を聴きながらスマホをいじり、祖母の家に到着するのを待った。
そんな僕にお母さんがヘッドフォンごとスマホを取り上げて話しかけて来た。
「何すんの」
「久しぶりの婆ちゃん家よ暁。今はこの光景を懐かしみなさいよ」
「懐かしいけど……昔から変わらないでしょ。ここは」
「少しは子供らしく喜びなさいよ」
「うん……」
はっきり言って祖母の家に行くのは乗り気ではなかった。
スマホも取り上げられ、とりあえず窓の外を覗くと田んぼが一面に広がり、住んでいる街のゴミがいっぱい浮いている川とは違って、ゴミ一つ浮いていない綺麗な川。
何年も来ていないけど、この綺麗さだけはやはり変わらなかった。
「もうすぐで婆ちゃん家よ!」
「うん」
そのまま真っ直ぐと一本道を進んでいき、山の麓にある小さな古民家のような家に到着向かった。
この世界の刻印戦記は一人の少年が時代を超えた勇気を見つけ出し、大きなる一歩踏み出す運命の物語である。
*
僕は限界までとある物を大量に詰めたバックを背負って車から出た。
窓の外から聞こえてきたセミの声は、外に出ると桁違いに激しかった。それに暑さも尋常じゃないほど暑かった。さっきまで汗一つ掻かずに居たのに、出た瞬間身体から滝のように汗が流れた。
さっさとお婆ちゃん家へと向かうと玄関前にお婆ちゃんが立って待っていた。
「久しぶりだねぇ暁」
「お久しぶり、婆ちゃん」
僕はお婆ちゃんに元気よくあいさつをした。なんやかんや言ってお婆ちゃんに会うと何かホッとする。
見た目はまだまだ元気そうだが、お婆ちゃんは御年七十九歳にもなる。僕が物心つく前に爺ちゃんは亡くなって、今は一人でこの家に住んでいる。爺ちゃんが居なくなってからは、唯一の孫である僕だけが生きがいとなっていた。でも、僕が数年間来なかったので、今となって少々罪悪感がある。
でも、数年ぶりにお婆ちゃんを見たが、相変わらず元気そうであり、僕が来たのが嬉しいのかずっとニコニコしていた。
「ささ、みんな早く家に入って。暁のために冷たいジュースやアイス用意したからね」
「ありがとう!お邪魔します!」
暑さで喉も渇き、暑さを忘れたかった僕はお婆ちゃんに家に入った。多くの人が想像する古民家のままだった。古い畳が敷かれて、囲炉裏もちゃんとある。ゲームに出てきそうな古い家であった。久しぶりに来て少し忘れかけていたので、思わず家の中を探検してしまった。
だが一つ、僕の誤算があった。お婆ちゃん家には一応クーラーがある。でも古く長く使っている為に、あまり涼しくないのだ。探索しまくった僕の身体からは汗が滝のように流れていた。
「暁が好きなオレンジジュースだよ」
「ありがとう婆ちゃん!」
だけど、お婆ちゃんが用意してくれた氷が入ったオレンジジュースを飲むと、暑さを忘れて心から癒される。喉の渇きも吹き飛び、一気に安心感に包まれた。そしてお婆ちゃんが僕の目の前まで扇風機を持ってきて、動かしてくれた。扇風機から来る風はとても涼しいのだが、この暑さでそこまでは癒されず汗は多少は引いたが、問題は解決してない。
「これで暑さも大丈夫かい?」
「全然大丈夫だよ」
「夜になれば少しは涼しくなるから、それまでは我慢してね」
「うん」
僕はケーブルが繋がってなく試聴できるチャンネルが少ないブラウン管テレビを、ジュースを飲みながら時間を潰していた。どこもニュース番組しかやっておらず、僕はあまり興味を示せず、心を無にしてテレビを眺めていた。
*
数十分後──何時間も車に乗っていた為、今になって眠気が襲って来た。だが、その時──
「暁!!」
元気のいい男の子の声が玄関より聞こえて来た。この五年前と変わらない声に僕には誰かすぐに分かり、眠気も吹き飛んだ。
僕はその声が彼なのか気になり、急ぎ足で玄関に向かった。
玄関に到着すると、ガラスの向こうに自分より背の高い男の子のシルエットが見えた。僕は奴だと確信してドアを開けた。
「やっぱ暁か!お前久しぶりだな!!」
「君はまさか、重太なのか?」
「当たり前だ!俺以外の誰がいるんだよ!」
目の前にいるスポーツ刈りの日焼けした少年は、同い年の重太だった。
小学一年生の夏休み、初めて祖母の家に泊まりに行った時に仲良くなった。川で一人で石を投げて、遊んでいた時に釣竿を持った重太が話し掛けて仲良くしてくれた。
僕と重太はすぐに意気投合してお互いの家に遊びに行くほどの仲になった。それから、毎年ここに来ると重太に会いにいった。毎年歓迎してくれる重太に街にいる友達とは別の友情を感じている。
あんな事があったのに重太は昔のように優しく僕を歓迎してくれた。
「何で僕がいる事を?」
「お前のばあちゃんから連絡が入ってな。暁がいるってね。あいつも電話して呼んでみるか」
「えっ?スマホ持ってるの?」
「田舎だからってスマホを持っていないと思ったか?あるに決まってるだろぉ」
そう言って最新のスマホを取り出して、とある人物に連絡をした。
「おう俺だ。暁が久しぶりに来てくれたぞ!来るか。分かった!暁の婆ちゃん家で待ってるぞ!」
そう言って電話を切った。僕は嫌な予感がした。誰に連絡したか、ある程度想像はついたが一応聞く。
「だ、誰に電話したんだ?」
「決まってるだろ、莉子だよ」
「よ、呼んで大丈夫なの?」」
「あれから、何年経ったと思ってるんだ。お前が来なかった間に、莉子の身体も十分に良くなった。それにあいつはお前の事を怒ってなんかないさ」
「……うん」
僕は莉子と会うことにとても不安があった。
その莉子と出会ったのはお婆ちゃん家に来なくなる七年前になった。