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勇者を監視したい魔王

作者: 和山 稔

 我は魔王だ。


 もう二十年程勇者を監視し続けている。この世を支配したいと願う我が邪魔者を監視下に置くというのは至極当然の事だろう? べ、別に好きとかじゃないんだからな。


 二十年……勇者をずっと見ていて思った事がある。勇者可愛いな。

 奴がこの世に生まれ落ちた時、赤子の手を捻ろうと我は勇者の家を訪れた。最後に敵の顔を見ようとした我がいけなかった。


 何と愛くるしい寝顔か。この顔をぐしゃぐしゃにするのは何と勿体無い事だろう。我は躊躇した。そして、夢の中にいながらも笑いかけてくる勇者。

 生まれ落ちた時から膨大な力を秘めたその存在。我と相反する魔力を持ちながら、その存在に魅せられてしまった。


 ……我はその場は何もせず去った。

 生き物を殺してしまう事は簡単だ。しかし、生きながら殺したい程の思いを人間に抱かせるというのは、我ら魔族ならではの事だろう?


 勇者は人間の年齢で言うと、二十歳か。今までそんな物に興味がなかった我にはどうでも良かった。人間はすぐに死ぬ。そんな物にいちいち構っていられない。そんな事より、今勇者は自分の炊き飯の取り分が少なくて嘆いておる。しかし仲間に言う事は無く何も無かった顔をして食べておる。

 おや、今度は自分だけ回復魔法を使えてもらえずに薬草で回復しておる。

 何故奴は黙っているのだ? 仲間にはっきり言えばいいではないか。我にはさっぱり分からぬ。


 勇者が名を上げるたびに、我は心の奥底で歓喜した。勇者が我の部下を打ち倒す程、我の存在が勇者の心に刻まれて行く。その憎しみの目が我に向けられるたび、我への思いが募って行く。くく、どうだ。これこそ勇者との因縁と言うものだろう。魔王という我を打ち倒すという指針が出来たと言うもの。



「魔王! 覚悟」


 とうとうこの日が来た。勇者が我を打ち倒す日が。


「我が居城を脅かす輩はどこのどいつだ」


 本当は知っているけど、雰囲気だ。我は優しかろう。奥にあった部屋から出てくると、今さっきまで監視していた勇者が目の前にいた。本物を前にすると、何とも言えぬ気持ちだ。奴を捻り潰したい。


「え……? 魔王??」


 勇者の顔が驚き、戸惑ったような顔をしている。


「勇者様、あんなちんちくりんが魔王の訳無いです」


 勇者の仲間の回復役が、そんな事をほざいておる。


「我が魔王だとおかしいのか」


 これもあえての優しさで聞いておるのだ。人間が我を脅威の眼差しで見てくるのは慣れておるからな。ふん、何だ。回復しか出来ない脳足りんな娘が。


「いや、フーデ。この魔力は間違い無く魔王だ」


 さすがに勇者には分かったようだ。


「ええ? こんなただの女の子のような見た目なのに」


「見かけに騙されてはいけない。奴は本物だ」


 そうだ。我は肌は黒く、髪は白い人間のおなごのような形をしておる。この姿のせいか、魔人と呼ばれる事もあるが。


「魔王! よくも罪の無い人達を……覚悟」


 勇者が剣に魔力を込め、抜き放つ。それを跳ね返した。この繰り返しを何度か見ていた我には勇者が次何をするか知っていた。

 空いた片手で何も無い空間に、魔力を跳ね返す壁のような物を作る。勇者の顔が驚きに見開かれた。勇者が放った魔法は我が作った壁により打ち消された。


「なんだ、終わりか」


「勇者様」


 脳足りん娘が勇者を見た。勇者が剣を構え直した。


「総攻撃だ」


 勇者の掛け声に仲間の四人が、我に一斉に向かって来た。もちろん、全員の弱点を知っていた我には奴らの攻撃をあっさり打ち破った。

 光が止むと、勇者達一行は我の足元に転がっていた。

 もう終わりか。何だ、つまらん。


 我は勇者に近づいた。

 二十年間ずっと見続けていたのだ。こうして目の前に現れれば、すぐ近くで見てみたいと思うのは当然だろう。ううむ。やはり赤子の時の印象しかないからな。可愛いしか出てこん。頬をつんつんしても良いだろうか。


 我は捻り潰したいと思っていた事も忘れ、勇者の頬に触ろうとした。


「ま、魔王……」


 勇者が目を開け、我に向かって魔法を放った。衝撃を受け、我は膝をつき顔を覆った。意外だった。


「ふ……ふふ」


 思わず笑いが漏れる。


「何がおかしい」


 声も絶え絶えに、勇者が我を睨み付けた。


「あの勇者が我に攻撃をあてるとは思わ無なかった」


 我が手を翳すと、何も無い空間に暗い穴が出来た。異空間への入り口を開けたのだ。


「しかしまだまだ弱い。脆弱な生き物達よ、闇の彼方へ消え失せろ」


「やっ、止めろ!」


 勇者達一行が闇の中へと吸い込まれて行く。闇に呑まれ、勇者達一行姿が見え無くなると、我はいそいそと隣の部屋に向かう。


「勇者はどうなったかな」


 水鏡に手を翳すと、そこに勇者の姿が映し出される。


「魔王様、都への襲撃は勇者がいない今しかありません」


 部下のメンデゥーサが側に来てそう申し出た。


「そんな事よりほら、勇者が異空間で嘆いておるぞ。どれ、精神を狂わせる魔物でも送り込んでやろう」


「 魔王様〜……」



 こうして魔王城の夜は今日も更けていくのだった。

これは別の名前である小説賞に応募したものを書き直した物です。勇者が殺したい程可愛い魔王の話を書いてみました。改行する所いまいち分からなくて適当改行です。

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