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第82話 殺やれる前に殺っちまえ

 


 いよいよレトレシア魔術大学の学生として安定した生活を送れるようになってきた頃。


 王都に住んで3ヶ月も経つと日々のルーティーンというものが完成してくる。

 毎朝、早朝に鍛錬をして、マリを抱っこして登校しサティに怒られる。


 平日は学校で授業を受け、空き時間には友人と語らい、また学校の地下に見つけた秘密の部屋みたいな場所を探検して遊んだりして先生に怒られる。


 授業が終われば修練場へ向かい夜遅くまで修行だ。

 剣術、拳術、柔術、魔術の4科目を鍛え上げる。


 近頃は拳術がマイブームだ。


 奥の手として血式魔術を加えた必殺技を開発していたりもするが、人が見ているところじゃ使えない技なので、禁術みたいな扱いだけれど。


 休日もまた修行ばかり。

 たまに本腰を入れてギルドのクエストを消化する時がちらほら。

 本職となりつつあるペット探しクエストは片手間に消化する。

 通学途中にペット反応があったら、その場所を確かめたり、修練場の行き帰り、早朝にちょこっと王都を走って見回ったり。

 平均して日に10匹から13匹程度の迷子たちが飼い主の元へ帰れているはずだ。

 そしてまた週に一度はトチクルイ荘への入居者が増える。


 学校での人間関係にも少しずつ変化が出始めた。


 俺とサティとゲンゼが大体一緒にいることは変わらないのが、何だかんだ俺たち3人はそれぞれの友達ができ始めているのだ。


 俺はオキツグやギオス、シンデロにポール、レージェにパラダイムあたりの男連中とつるむようになってきた。


 ゲンゼはというと子犬生のクラスの中で友達を見つけられたようなのだ。

 ミヤモト・サムラというイストジパングからの留学生男の子だ。


 ゲンゼと同じく魔法が得意ではないようで、ゲンゼ曰く仲間意識が芽生えているのだという。

 キラキラした目でゲンゼは言うのだ「サムラくんとは通じ合ってる気がする」と。


 だが、俺はそうは思わない。


 ミヤモト・サムラ。

 あの男は何かがおかしい。

 気配がまるでほかの子犬生たちとは違うのだ。


 一度だけ彼に呼び出されて話をした事があるのだが、どうやら彼の家系はこの世界では有名な伝説の血筋「三勇者」のうち「勇者ミヤモト」の直系らしく、イストジパングではとても有名な家柄なんだそう。


 ただ、イストジパングは長らく閉鎖的だった島国であり、比較的最近セントラ大陸に認知され始めたらしく、その勇者ミヤモトの威光がローレシアには届いていないんだとか。


 本人は特にそのことを広める気はなく、俺には黙ってても言いふらしても構わないという適当な感じだった。彼は純粋に魔法と広い見聞を学ぶためにレトレシアにやってきたのだそう。


 広める気の無い情報を俺に伝えたということは、もしかしたら向こうも俺が普通の学生じゃないことに勘づいているのか、否か、判断はつかなかった。


 サティの友達については……ちょっと人数が多すぎてよくわからない。


 通りがかった女子たちみんなサティに声をかけたり、手を振ったり、敬礼までする子がいるのだ。

 流石に「早撃ち」の二つ名を持つサテライン・エルトレットは人気者だ。


 あーそういえば、逆に友達がまったくいなくなった子もいる。


 カティヤ・ローレ・ドートリヒトさんだ。


 彼女もまた有名人ではあるが人気者ではない。

 その素行の荒さが目立っているためである。


 お酒にたばこ、援助交際に喧嘩など、殺人以外の全ての犯罪に手を染めるとかなんとか悪い噂が後を絶たないくらいだ。9割くらいは噂の域を出ないが。


 これはなかなか俺にとっても厄介な問題といえる。

 これらの悪い噂のせいもあって俺は彼女に好意を示す事がしづらくなっている、ということだ。


 周りの目を気にせずにいたいのだが、どうやら俺は俺が思ってるほど唯我独尊に自分を通せない性格らしい。


 次第に俺とカティヤさんとの関係はよくわからないものになっていった。

 未だにカティヤさんのことを常に探して、目で追ってばかりいるのだが、いざ目があっても俺は反発してしまうのだ。


 ーーカリカリカリカリ


「なに見てんの」

「別に見てないけど」


 カティヤに冷たい眼差しを向ける。


「見てんじゃん」

「自意識過剰かよ」

「っ、このッ!」


 カティヤさんは手を振り上げて……思いとどまった。

 内心では一安心。

 彼女に殴られたら痛いんだもん。


「ちっ、本当にうざい、アルドレア」


 心の中でカティヤさんに謝罪する。


 すみません、見てました。

 ごめんなさい、カティヤさん。


 俺はカティヤさんが好きだ。

 嫌われてるのに、世間体も悪いのに。

 なんだかな……。


 どうすればいいんだろう。


 ー


 ーーバァァアアン


 薄暗い地下空間。

 青く光る壁床に照らされた修練場に炸裂音が響き渡る。


「″うん! 全然1回にしか聞こえない!″」

「よし、魔の27発の壁を超えたな」


 肩に顎を乗せる銀髪少女は楽しそうに呟いた。


「よし、今日はこの辺で」

「″よーし! 早く帰って寝て『大広間』の続きをやろ!″」

「あぁそうだな」


 無邪気に騒ぐアーカムの頭を優しく撫でて、慈愛を持って勢いよく「和室」へ押し戻す。


「″ぐへぅ!″」

「よいしょ」


 支度を済ましながら「剣知覚・犬猫」でペット捜索をする。

 帰りにギルドへ寄ってこう。


 ー


 冒険者ギルド第四本部。


 夜でもなかなかの賑わいだ。


 一階に併設されている巨大な酒場では、遠征から帰ってきたパーティやら、明日のクエスト出発に向けて英気を養う酒豪たちがどんちゃん騒ぎを繰り広げている。


「クエスト報告です。これお願いします」

「はい! いつもありがとうございます、アルドレア様」


 俺は懐から完了したペット探しクエストの受注書類の束を取り出して、カウンターへ置いた。

 受付嬢は手早く書類を片付ける。


「ぁ、あのアルドレア様、少しよろしいでしょうか?」

「ん、どうしたんですか?」


 手早く手続きをしていた受付嬢の手が止まると、ふと彼女は不安そうな顔で俺に声をかけてきた。


「先ほどアルドレアさんを訪ねてきた方たちいまして」

「へぇ僕のことをですか?」


 珍しいこともあるものだ。

 俺にお客さん、しかも冒険者ギルドに訪ねてくるなんてね。


「その、容姿にはこれと言った特徴はなかっのですが……私、見たんです」

「なにを?」


 受付嬢はあたり伺い、誰かが会話を盗み聞きしていないかを注意深く確認している。

 そして手招きして、耳を寄せるように言ってきた。


「首筋にカカテストの実タトゥーがあったんです」

「カカテストの実のタトゥー?」


 彼女の言っていることの意味がわからず聞き返す。


「アルドレアさんはご存知ないですか……?」

「そう、ですね。知らないです。なんなんですか、それ」

「いいですか、この王都でカカテストの実のタトゥーを入れている者は、ほぼ『カカテストファミリー』というマフィアの構成員とみて間違いないのです」

「マフィア、ですか」


 受付嬢は強張った表情で、心配そうな目を向けてきた。

 マフィア、か。

 なるほど。

 どうやら彼らがついに来たという訳らしい。


「アルドレアさん、十分に気をつけてくださいね」

「えぇ、大丈夫ですよ」


 受付嬢にニコリと笑いかける。

 そうすると彼女は安心してくれたのか、クエスト完了手続きを再開した。

 天を仰ぎみてなんとなくギルド本部の天井を見つめる。


 そっか、とうとう来ちゃったかぁ。


 ー


 翌日。


「マリ。今日は俺、学校休むわ」


 マリの部屋でくつろぎながら呟く。


「え、いきなり!? なんで!?」


 マリはロープに腕を通しながら目を見開いている。


「うーん、ちょっとな」

「全然説明になってない!」


 ベッドに横たわる俺の隣にマリが腰を下ろす。


「もしかして何か、嫌なことでもあったの? もしかしてドートリヒトさん? いじめられてるの?」


 マリは心配そうな顔で次々と質問をぶつけてくる。


「ど、どうしたの? アーカム。言ってくれないとわからないよ」


 なんとなくマリの顔を見つめてしまった。

 マリは最近髪の毛を切ったらしく毛先が肩口で揃えられている。

 自然な色の明るい茶髪は彼女の明るい性格を表しているみたいだ。


「な、なん、なんでそんな見つめるの……」


 寝ぼけているのか、開ききっていないまぶたから見える瞳は、緑色で癒される印象と共に彼女の優しい心を反映している。


「あ、アーカム、えっと……そんな見つめられると、は、恥ずかしいって言うか……」


 マリがそわそわし出したのに気づいて、いつのまにか彼女を凝視していたことに気がついた。

 目線を外し窓の外を見つめる。


「大丈夫。俺が守るよ」

「ふぇ?」


 俺はそれだけ、いってベッドから起き上がりマリの髪の毛をひと撫でした。

 そして決意を固めてトチクルイ荘事務所を後にするのだった。


 ー


「ほーん、カカテストかぁ。なるほど」


 灰色の髪をしたおっさんは口髭を遊ばせながら楽しそうに呟く。


「そうです。どうやら僕、カカテストファミリーとかいうマフィアに狙われてるらしいんですよ」

「8歳の子供を狙う犯罪組織か。アーカムは何をしたんだ?」

「大したことはしてないです。数ヶ月前に多分カカテストのアジトと思われる場所を襲撃して囚われてた女の子を助けたんですよ」

「ほぉ、子供を助ける為にアジトを襲撃か!」


 アビゲイルは楽しそうに体を振る。


「うん、素晴らしいぞ、アーカム・アルドレア」


 頷きながらアビゲイルは笑顔になった。


「それなら、手を貸してはくれませんか? アビゲイルさん」


 俺は努めて真面目に応援を求める。


「手を貸してもいいが……何をするんだ?」

「カカテストをぶっ潰してきます」

「……ふーん」


 アビゲイルは「何言ってんだコイツ」という顔してから、静かにゆっくりと瞑目した。

 明らかに困っている表情だ。


「うーんカカテストをぶっ潰す、かぁ」

「難しいですかね?」

「そうだなぁ。出来ない事はない。武力という意味でも、お前さんならすでにワンマンアーミーだしな」


 アビゲイルは首を捻って深くなにかを考えているようだ。


「だが、王都のカカテストファミリー。こりゃ王都に長く住んでりゃ誰でも名前を聞いたことがあるくらい、デカくて強くて沢山ある犯罪組織だ」

「その組織の拠点全部ぶっ潰すんじゃダメですか?」

「それが出来るならな。だがそれが出来ねぇからカカテストは今ものうのうと王都で犯罪活動をしてる」

「でも、言うてアヴォンがいればなんとかーー」

「人と人との争いに狩人を巻き込むな」


 アビゲイルは真剣なまなざしをこちらへ向けてくる。

 そういえばそうだったな。

 狩人が戦うのは「怪物」だ。


 アビゲイルはひげをしごきながら眉根をよせて難しい顔をした。


「アーカム」

「なん、ひぃ!」


 おっさんが向き直って、急に顔を寄せて来る。いきなりなんだってんだ。


「冒険者ギルドの、というか俺の持つカカテストの拠点の場所や戦力情報をお前にリークしてやってもいい」

「本当ですか?」

「あぁ。ただな。直接的な人材の派遣だったり物理支援は出来ない。アーカムがひとりで揃えられる仲間でやるしかない」


 アビゲイルは悔しそうに俯きながら、肩に手を置いて来た。


「いえ、場所だけ教えてもらえれば十分です。僕ひとりでやります」


 俺は肩に乗せられたアビゲイルの手の上から右手を重ね、柔らかい口調で言うことを心がける。


「流石にひとりは危ないかもしれないぞ」

「大丈夫ですよ。だって僕、狩人助手ですよ?」

「うーん、それもそうなんだが、カカテストファミリーにはちょっと厄介な男がいてな。そいつの名は『ラストマン』っていうんだがーー」


 アビゲイルは口をへの字に曲げて淡々と話し始めた。


 ー


 冒険者ギルドでアビゲイルからカカテストファミリーの情報を受けとった後、俺は早速襲撃の準備に入ることにした。


 別に夜とか選んで襲撃するつもりはない。

 もうすでに後手に回っている。

 とにかく時間が惜しいのだ。


 奴らが俺が冒険者ギルドで冒険者をやっていることを突き止め、そしてアーカム・アルドレアの名前に辿り着いたのならば、俺の住むトチクルイ荘や魔術大学に辿り着くのも時間の問題だろう。


 このアーカム・アルドレアという名前。

 今ではレトレシア魔術大学では知らない者はいない程にまでビッグネームになってしまっている。

 なんせ俺とサティとカティヤさんの3人合わせて「レトレシア子犬三大魔皇」とか言われてるくらいだ。


 そのためマフィア連中が俺の学友にまで、辿り着く可能性も十分に考えられる。

 下手したらもうレトレシアにマフィアの奴らがガサ入れでもしてるかもしれない。


 気づくのが遅かったのが致命的な問題だ。

 吸血姫のリサラを助けたのが、数ヶ月前の出来事だったからてっきりもう諦められたのかと思って安心しきってしまっていた。


 奴らは諦めてなどいなかったんだ。

 着々と情報を集めて紐をたどっていたんだ。


 これは非常にまずい事態だ。

 思ったより懐に入られてしまった。

 急がなければいけない。


 俺はリサラを助ける際にあいつらのアジトを襲撃して、もう30人くらいマフィア連中をボコしてしまっている。

 穏やかな対応など期待はできないだろう。


 トチクルイ荘に帰ってきた。

 部屋に戻り、速攻で装備を整える。

 外装を脱ぎ、真っ白なシャツを着込む。


 ーーカチャッ


 トランクを開けて中身を確認。

 目的のブツはしっかりと中に収まったいた。


「まさかこれをこんな早く着ることになるとはな」

「″ふふん! デビュー戦だね!″」

「あぁ」


 トランクの中に入っているのは、ひと月前の手合わせ時にアヴォンのプレゼントで貰った真っ黒の狩人装束だ。

 夏休みに入ったら、俺に「怪物」との戦闘を経験させるとかの理由で、早めに装備一式を渡された。


 俺の身長は現在155センチくらい。

 成長速度が早いとは言え、それでも平均的な大人と比べたらまだまだ小さい。

 そのため狩人装束は大人のもので一番小さいサイズを貰った。


「あれ? これで合ってるか?」

「″うーん、後ろと前、間違えてない?″」


 銀髪アーカムに客観的に服装を見てもらい、やたらとベルトが多い黒色の装束を着込んでいく。


「やっぱデカイな」

「″ちょっと大き過ぎるかもね″」


 狩人装束を着て気づいてた。

 やっぱまだデカイよ、これ。


「165センチ用って聞いたんだけどなぁ」

「″これ全部中に入れちゃえば?″」

「お、名案だな」


 半透明の少女と創意工夫しながら、大きいサイズ狩人装束を無理やりに着込む。


「″おぉ様になってるかも!″」

「そうか、よし、それじゃあとこいつを付けて」


 先ほどギルドからの帰りに立ち寄った「錬金術師トリアマンティの不思議なお店」で買った、魔道具を紙袋から取り出す。


「″ねぇ、それ普通の仮面じゃダメなの?″」

「これが良いんだよ。マフィアをビビらせてやるんだ」


 紙袋から俺が取り出したのは、かつて疫病などが蔓延する地域で医療行為を行う際に使われていたと言われるマスクだ。


 俗に言う「ペストマスク」と呼ばれるタイプのマスクとよく似た形状のものだ。


 顔を全体を覆い隠すようなデザインで、一見したら大きなトリのくちばしをくっ付けてるように見える。


 ほら、あれだキョロちゃんみたいな奴になれるのだ。


 ただ、実際はそんなコメディチックな外見ではないが。


 顔の真ん中を縦断する様にツギハギが走り、目の部分もツギハギで囲われていたり、キョロちゃんとは比べ物にならない程ホラーチックな見た目だ。


 このペストマスク型魔道具の名前は「忘却のペストマスク」。

 効果は名前の通り忘れてしまう、と言うものだ。

 店主トリアマンティが言うには、このマスクを付けた者の声や雰囲気、身体的特徴は記憶に残りづらいらしい。


 夢の中の記憶が起きたら忘れてしまうように、たとえ自分の事を殴った奴がいても、

 そいつが「忘却のペストマスク」を付けていたら、誰に殴られたのか、そもそも自分は本当に殴られたのかあやふやになってしまう。

 汎用性の極めて高い恐ろしいマスクだ。


「ふふ、どう? 怖いかな?」

「″うーん、圧倒的に不審者だよ″」

「はは、これ付けて町中走れば、大丈夫。少し見られたくらいじゃ、絶対に誰の記憶にも残らない」

「″衛兵さんたちに捕まらなきゃいいけどね″」


 アーカムに不審者のお墨付きを頂いたので、これで外観はバッチリだ。


 最後に地面に擦りそうなほどギリギリの長さの、レザーの外套を着込めば「恐怖の鳥男」の完成だ。

 帯剣ベルトに長剣とカルイ刀、ラビッテの杖と「哀れなる呪恐猿(ReBorN)」を差す。

 ポーションの小瓶2本、水銀、銀杭をポーチに入れ、タング・ポルタを袖に仕込めば準備万端だ。

 吸血鬼が出たって戦える。


「行くか」

「″よっしゃ、行くぜ!″」


 トランク内に残っていた特殊な形状のーー形容するならオオカミの頭ーーとでも言うような帽子を手に取りかぶる。

 耳みたいなのがついていてちょっと可愛い雰囲気が出ているな。


 剣知覚を使って人間の気配に気をつけながら部屋を出る、


「″サササァー″」

「どこにいくんだい?」


「ドォワアッ!?」

「″うわぁあっ!?″」


 角を曲がった瞬間に突然人影が現れた。


「ぁ、ぁ、えっと」

「”私知らない!″」


 精神世界へ逃げ込む銀髪アーカム。


「ずいぶんといかめしい格好をしているね、ぼうや」


 声の主は俺の頭のてっぺんからつま先までじっくり眺めていく。


「……あの」


 ペストマスクをゆっくりと外し顔を見せる。


「もう狩人装束を貰ったのかい」


 ふくよかな体型に穏やかな物腰のグランド母性の持ち主、クレア・トチクルイは堂々と道を塞いでいた。

 それにクレアさんはがっつり狩人関連の話を振ってくる。

 やはり自分が元狩人である事を隠す気がないらしい。

 緊張しつつも、先輩狩人の癇に障らないように気をつけて喋る。


「はい。先生にいただきました」

「うむ、少しサイズが大きいようだね?」

「これが一番小さいサイズらしいです」


 当たり障りのない、だけど確実に狩人の会話をする。


「ぼうや」


 クレアさんの声が、そのふくよかな体型から想像できないほど、ドスの聞いた声に変わった。


「厄介ごとをここへ持ち込むんじゃないよ?」

「……はい」

「あの子は、マリはぼうやの事をとても気に入っているんだ。出来れば始末なんてしたくない。

 ただ、ぼうやが()()をしてしまったら、その時は責任を取ってもらう必要が出てくるかもしれないね」

「……はい」

「先生ってのはアヴォンのぼうやだろう? レザー流で装束を貰ったってことは、ぼうやはもう狩人助手に任命されたわけだ」

「そうです、ね」


 クレアさんさんは普段糸みたいに細い目をわずかに開けて、言葉を続けた。


「それなら、もう立派に狩人としての自覚を持って動きなね。ぼうやが何を相手に取るのかは知らない。ただ、狩人が身分を隠し、その力を使って私情を解決しようって言うならどうせろくな問題じゃない」


 うん、たしかにろくな問題じゃないな。


「その結果次第で多くの人が傷つくことになるのなら、初めから力なんか振るわない方がいいんだ。もし仮に『怪物』と戦うんだとしたら、恨みだけ残して、のこのこ逃げ帰ってくるんじゃないよ?」

「はい、わかりました」


 クレアさんはそれだけ言うと、そっと塞いでいた道を開けてくれた。

 ペストマスクを付け直し玄関へ向かう。


 ーーカチッ


 時刻は10時25分。


「さて、いくか」


 真昼の悪党狩りを始めようじゃないか。



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