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第80話 ペット探しの達人

 


 冒険者登録を済ませた日の夜。


「これで20件目の依頼です」

「あ、また見つけてきたんですねアルドレア様」


 受付嬢にクエストの達成報告をする。


「本当に助かりますよ! アルドレア様のおかげでギルドへ感謝のお手紙が届きまくってます!」

「はは、そうですか。それは良かったです」

「まだまだたくさんクエストが溜まっていますので、この調子でどんどんお願いしますね!」

「わかりました。それじゃもう20件だけくらい受けて今日は帰ります」


 俺がそう言うと、受付嬢は目を輝かせて嬉々としてクエスト依頼を趣旨選択し始める。


 彼女はファイルから、とある種類のクエストの欄を見つけると、そこからたくさんのクエスト依頼書を取り出して来た。


「それではお願いしますね! ペット探しクエスト!」

「えぇ任せてください。この王都で僕に見つけられないペットはいませんので」


 意気揚々と冒険者ギルド第四本部を後にする。


 ー


 帰り道に再び迷子のワンちゃんを見つけたので、飼い主に送り届けてから寮に戻る。


 ところで、なぜ俺がペット探しクエストなんかを受注しまくっているのか疑問に思うだろう。

 これは何を隠そうすべて修行のためである。


 アヴォンから出された課題は「冒険者ギルドの依頼を下から全部こなしていけ」というものなのだ。


 なんで、そんなことをさせるのか聞いたが「自分で考えろ」と言われて教えてもらえなかった。

 教えてもらうだけでは学べないということだろうか。


 そういうわけでとりあえず俺は、ポルタ級冒険者であることは受付嬢と結託して隠してもらうことにした。

 その上で初心者用のクエストをくださいと受付嬢に聞いてみたのだ。

 その結果、ペット探しクエストが超超大量に飛び出してきたというわけだ。


 なんでも、このペット探しクエストは名前や初心者の猫級クエストの割に相当ハードなクエストなんだと言う。

 まずなんといってもペットが見つからない。


 犬に猫に鳥やうさぎ、時には亀なんかの捜索依頼がギルドに来るらしい。

 冒険者は別にペットの生態を知っている専門家ではないので、どこに迷子のペットがいるかなんてわからないのだ。一応傾向と探索場所はチェックされてるが気持ちばかりの情報源である。


 さらに言えば、この王都ローレシアには野良猫に野良犬なんて溢れかえるようにごまんといる。

 飼い主なら見分けられても、他人が個体識別をすることはかなり難しい。


 そして極め付けは見つけても逃げられる。


 亀やうさぎ、犬なんかはまだ良い方だ。

 猫や鳥は最悪だ。

 彼らに見つかって、屋根の上に逃げられたらもうその時点でゲームオーバーみたいなものだからだ。

 こと猫級冒険者なんかは「剣気圧」を使えるものなんてほとんどいない。

 故に屋根の上に登るためにちょっとひとっ飛び、という訳にはいかないのだ。


 猫級ペット探しクエストの闇がここにある。


 等級の高い冒険者が行けば、逃げられることはないのだろうが誰もペット探しなんてダサいクエストは受けたがらない。悪夢のような悪循環だ。


「ただいまーよしよし良い子だー」

「ニャー」


 ゆえに俺はここに光を当ててやろうと思ったのだ。

 そして俺は溜まりに溜まっていた暗黒のペット探しクエストを驚異的な速度で消化することに試行錯誤の末、成功した。

 手法はそんな難しいものではない。


 剣気圧を使ったまでのこと。

 正確にいえばマントに身を包み王都中を走り回って剣知覚を発動させただけだ。

 最初は人間レベルに剣知覚を調整していたため捜索は難航した。


 だが、数十分にも及ぶ剣知覚の調整に励んだところ、俺は犬や猫などの、人よりも小さい種族だけの気配を選んで感じ取ることのできる「剣知覚・犬猫」を獲得したのだ。


「よーしよしよし!」

「ゴロニャン」


 俺は「剣知覚・犬猫」を使ってとにかく街を探し回った。

 首輪の付いている犬や猫を見つけてはトチクルイ荘の中庭に連行して軟禁、まとめてクエスト対象に該当するかどうかを一斉に調べあげたのだ。


 そうして初日で20件のペット探しクエストを達成することに成功した。

 何気に何時間も王都を走り回っていたのでクタクタだ。


「ニャー」

「お前の飼い主はまだわからないよ。ごめんな」


 中庭の縁側に座って迷子猫タマを愛でる。

 自分で勝手に命名したのではない。

 首輪にタマって書いてあるのだ。


「ゴロニャーン」


 ペット探しクエストに備えて購入したキャットフードをタマに与える。


「む、来てしまったか」


 背後から迫る人間の気配を感じ取って俺はタマを懐に入れ隠した。


「にゃー?」

「少しじっとしてるんだ」


 外套の手前を閉めて完全に毛玉の存在を隠匿する。

 これで隠蔽は完璧なはずだ。


「あれれー? おかしいなー、今、猫の鳴き声がしたんだけどー」

「……気のせいじゃない?」


 声のした方へ振り返ればそこには後ろで手を組んだマリが立っていた。


「昼間の子たちはみんな元の場所に返してきたの?」

「うん、返したっていうか勝手に消えてた」


 俺が中庭に連行したペットたちはほとんどは飼い主の元へ送り届けたが、それでも飼い主の見つからなかった子たちはいくら残っていた。


 その子たちの為にもご飯を買ってきたのだが、どうやら俺がギルドに行っている間にどこかへ行ってしまったらしい。


 帰ってきても中庭に残っていたのは、懐に隠している白い毛玉のタマだけ。


「ふーん、みんな行っちゃったんだ……」

「なんだ、寂しいのか、マリ」


 トチクルイ荘はペット厳禁なのでてっきりマリも動物嫌いなのかと思っていたが、やはりそこは女の子、もふもふの毛玉には弱いということか。


「マリ、もし、もしこのトチクルイ荘に自分から居座ってる白い猫がいたとしたらーー」

「ニャー」


 外套の内側から不思議な声が漏れ出した。


「ニャー」


 静まり返る中庭。

 俺はゆっくりとお腹の中の毛玉を庇うようにしてガードの体勢を作る。


「いや、あの、これは……不思議だね、猫なんているはずないのにーー」

「ッ! アーカム! 今すぐ懐に隠してるブツを出しなさい!」

「よせっ! 何もいない!」


 マリは嬉々とした表情でグイグイと俺の服を引っ張って、白玉をポロリさせようとやっけになってくる。

 まずい、タマを守りきれない!


「ニャー!」

「ほら! 今、絶対ニャーって言った!」

「あぁ、ダメだ、タマ、出てきちゃ!」

「ニャー」


 俺の制止を振り切ってタマが外套の外へ飛び出してしまった。


「あーぁ」

「わあ! なにこの子ぉ!」

「ニャー」


 タマが飛び出したかと思うと、マリはタマに飛びついた。マリもまたその白長の胴体の脇下に手を入れて、ぶら下げるようにしてタマを持ち上げている。


「可愛い〜!」

「あれ、怒ってないのか?」

「ぁ、んっん!」


 マリはわざとらしい咳払いをして、より大事そうにタマを抱っこする。


「アーカム! 本来、トチクルイ荘じゃペットは厳禁なのです!」

「はい」

「夜泣いたりしたら他の人の迷惑になるし、そもそもペットが飼えるほど部屋は大きくありません!」

「はい」


 厳格な雰囲気を演出しつつマリは指を立てながら演説を始めた。が、顔は頬が緩んでとろけるように甘々である。


「だ・け・ど! 迷える動物たちを路上に捨ててくるのは心が痛みます」

「たしかに」

「ゆえに! このトチクルイ荘に居座った子たちに関しては私たちが責任を持って飼いましょう!」

「そう言うと信じてたぜ」


 縁側から立ち上がり、マリと固い握手をする。


「それに、もうアーカムしか入居者いなし、迷惑とか関係ないからね」

「うっ」


 その話題を持ち出されるとこちらとしては困ってしまう。


「ニャー」

「はぁ〜可愛い〜」


 マリはタマに頬ズリして本格的にとろけていく。

 流石はもふもふ様だ。


 マリごときではこの猫さまの魅力に逆らえないと言うことだろう。

 毛玉の魔力は世界を超えても普遍のものであった事が、今証明された。



 この日を境にトチクルイ荘では迷子のペットたちが、入居者として定住していく事になるのであった。



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