表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/231

第40話 ロマンチック男子

 


 サティに負けた悔しさと(いきどお)りに塗れた俺はゲンゼとも決闘した。


「うはぁ! ぁあ、アーク、やめ、てぇぇぇ……!」

「はっ!」


 腰の引けたゲンゼなぞ≪無名(むめい)≫を連射3発であの世行きよ。

 悪いがサティと戦った後だとお話にならないぜ。


 一方的に≪無名(むめい)≫を放って閉廷させてやったぜ。


 魔法を受けたゲンゼは1発目を受けた時点でボーっとしだし、2発目で完全に意識が途絶えその場に崩れ落ちたわけだが……一応トドメという事で、倒れてるゲンゼにサティにやられたことを真似したのだ。


 有り体に言えば死体撃ち(オーバーキル)である。


 というわけで3発。

 サティに負けた憂さ晴らしである。

 なんか文句あるかい!?


 ー


 決闘後の指導講評タイム。


「文句あるわよ! アーク! 倒れてる相手に魔法を撃つなんて絶対ダメなんだからね! わかってるのっ!?」

「だってさ、サティだってもう魔法当たってる俺にアゴパッカーんってやってきたじゃん」

「あれはアークが倒れなかったからいいのよ!」

「なんだよそれ……結構痛かったのに」

「ぇぇ、だって、アークなら平気かと……」

「歯も欠けたし、すごい痛かったなぁー」

「うぅぅ……ごめんって!」


 珍しいことにサティが弱気になっている。

 台風でも来るんかな?


「アークが思ったより強かった、から、ちょっとムキになっちゃった……」


 おや?


「もしかして、馬鹿にしてらっしゃる……?」


 さきほどの決闘で俺にいいところなんてなかった。

 完全なワンサイドゲーム。

 一発も撃たせてもらえなかったのだ。


 それなのにどこに強さを感じる要素があった。

 馬鹿にしてるなこのちみっこちっぱい幼女め。

 ポニーテール掴んでパチンッてしてやろうか。


「ば、馬鹿になんかしてないわよ! 素直にほめてあげたのに! なにその態度! 超ムカつく!」

「馬鹿にしかしてないだろ! 俺のどこに褒められた部分があったんだよ!」


 グイっと詰め寄ってくるサティおでこを押し返す。


「もう! 言わないとわかんないの!? ≪魔撃(まげき)≫よ!」


 押し返したおでこをずいっと押し戻されてくる。


「ぇ、曲げ木……?」


 なにわけのわからないこと言ってんだこのガキ。

 曲げ木だと、宮大工かお前は。


「そ! アークは私の≪風打(ふうだ)≫のレジストに≪魔撃(まげき)≫使ったでしょ!」

「レジス……あれ≪魔撃(まげき)≫って言うの?」

「自分で使ってる魔法の名前も知らないの!? それ本気で言ってる!? うわぁ! 本当信じられない!」

「へぇ……≪魔撃(まげき)≫か」


 意外なところで撃ち出さない無名魔法の正体が判明。


「本当に知らずに使ってたの?」

「ん? あーまぁそうなるかな」

「はぁーもう呆れちゃうわ」


 サティは腰に手を当ててやれやれ、といった具合にポニーテールを振り乱しはじめた。

 にしてもエヴァでも知らない魔法をサティが言い当ててしまうなんてどうなってるんだ?

 ちょんと勉強してこなかったのかなうちの母さん。


「あ、そうだ。サティ、俺のゲンゼに使った魔法の名前もわかったりする? ほら、撃つやつ」


 サティが手元型の無名魔法の名前を当ててくれたのなら、撃ちだすタイプの無名魔法の名前も知っているかもしれない。


「あーあれね。あれ何撃ってたのよアーク?」

「ぇ、あー、えぇと……」


 サティでも撃ちだす方の名前は知らないか。

 まぁエヴァも知らなかったんだ。

 まだ魔術大学に通っていないサティがわからなくても仕方はあるまい。


「うーんと、その、えぇとね」

「もしかしてだけど、わかってないの?」

「まぁ……わからにゃいにゃん♪ てへ!」

「いい加減にしなさいよ! そんな得体の知れない魔法を友達に使うんじゃなーい! てい! てい!」

「痛い! 痛っ! ちょ、ごめ、すみません!」


 純白の杖でしばかれながらの説教がはじまった。


 ー


 説教の後、ゲンゼが目覚めるまでの間、俺はサティの魔法決闘論について長々と講義を受けされられた。


 色々勉強にはなるのだが、なにぶん眠い話だ。


 ウトウトしながら聞いているとサティからお叱りを受けるので、頑張って半分くらいは起きてはいたのが……途中から完全に記憶が途絶えてしまっている。


 サティを枕に寝た所を起こされた瞬間に彼女にぶん殴られた。寝ぼけて覚えていないがサティの顔が真っ赤になっていたことを考えると、相当怒ってたんだと思う。

 まさか夢の中でサティのぺったんこを撫でて遊んでたのがバレるわけないし、彼女の怒りの理由は全くもって謎である。


 そんなこんなでロールベルズ二番地へ帰還。

 時刻は夕方くらいだろうか、8日前を思い出させるよな時刻とシチュエーションだ。


「それじゃ、俺はもう行くよ」

「ぇえ! もう行っちゃうの? アーク、ママが夕ご飯作ってくれると思うよ? ムヒッ!?」


 サティの無言の杖がゲンゼへ叩き落された。


「アーク! あなたはもっと強くなれるわ! レトレシアでスターになるために明日から特訓するわよ!」


 サティがニコニコと可愛らしい笑顔で決闘の勧誘をしてくる。


「うん、また明日……かはわからないけど、しばらく暇だろうからまた来るよ」


 手短に挨拶を済ませエルトレット家を後にする。

 次に向かうはテニールハウスだ。


 師匠への近況報告と()()()()について話をしておかなければならない。


 ー

 ーーミネルガ視点ーー

 ー


 今日の晩御飯はなににしようかしらね〜。

 最近サテラは色気付いちゃって体重なんて気にしだしたから、気を使ってあげないと嫌われちゃうわね。


 うーん、決めた。

 今日は豚カツにするわ〜!


「ただいまー!」

「おじゃましますー!」


 あら、おませさんたち帰って来たわね!

 アーカムくんとの決闘結果もきになるわ!


「あら、どうしたのサテラ? すっごく嬉しそうな顔ね」

「そう? ふふ! 実はね! アークと決闘したんだけどすっごく楽しかったの!」


 やはりサテラとアーカムくんは決闘することになったらしいわね。


「へぇ! そうだったの! アーカムくんには勝ったの?」

「当たり前! 全然楽勝だった!」

「あら、やっぱりそうよねぇ……」


 天才児のアーカムくんを持ってしても魔術師としてはまだまだサティには及ばないか……うんん、仕方のないこと、流石に荷が重すぎたわね。


 サテラは昔から要領が良過ぎる節があったけれど、ここまで天才過ぎるのもやっぱり心配になってくるわね。


 アーカムくんにはこの長くなった鼻を優しく折って欲しかったけど、ね。

 物事はそうそう上手くいかないものね。


「でもね! ふふ! アークはね≪魔撃(まげき)≫でレジストできるのよ! すごいでしょ!? それに私の≪風打(ふうだ)≫受けても倒れないの! すごくない!? アークってやっぱりすごいわ! 私たちまた決闘する約束しちゃったし!」

「あらぁ~≪魔撃(まげき)≫でレジストなんてアーカムくんも随分とロマン派なのね!」


 アーカムくんったら! サテラの気を引くためにわざわざ高難易度の直前抵抗魔法を使用したのね!


 サテラったら、魔術決闘をまるで2人きりでデートか何かと勘違いしているのかしら?


「あぁ私の娘、本当に可愛い過ぎるわぁ……」


 母親として自分の娘の純粋なところを見る度に悶えたくなっちゃうのは悪い癖ね。


 それにここで体を抱いて、やんやんするのはダメ。

 流石に愛娘に引かれちゃうわ。

 我慢よ、ミネルガ、あなたならできる!


「こんにちは! ミネルガさん!」

「ゲンゼくん……ライバルは強敵だぞ!」

「はえ?」


 ふふ、いずれわかる時が来るわ。

 にしてもゲンゼくんはどうするつもりなのかしら?

 サテラの事が好きなのはわかるけど……むぅ。


 まぁ本人の問題ね。

 最近は性の認識も変わってきたし……。


「ふふ! また明日アークに会えるといいわね! ゲンゼ!」

「ぇ、あ! うん! そうだねサテリィ!」


 もうサテラったら!

 そんな可愛いこと言っちゃって!


 なになに、そのいかにもアーカムくんに会いたいのはゲンゼくんだと言いたいような話の振り方!

 ママ悶絶したくなっちゃいます!


「サ・テ・ラちゃん! もう、あなたアーカムくんのことどう思ってるのよ?」


 普通に考えたら脈絡もない意味不明の質問ーー。


「うぇえ!? にゃ、にゃん、な、なに! そ、その質問! い、い、意味わかんないんだけど!?」


 効果は絶大ーー。


「あぁ! もう! ダメぇ!」

「うえ! な、ママどうしたの!?」


 うちの子可愛すぎるわ……ッ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ