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第26話 ストリートファイター

 

 冬の冷え込みが厳しい中、今日も俺は師匠と共にエレアラント森林と草原の境界で修行に励んでいた。


 本日は既に100本近くの木を貫き折っている。


「よし、部位鍛錬はだいぶ良い感じだねぇ」

「はぁはぁ、ありがとうございます」

「私が君の境地に到達するまで長い年月がかかったものだが、君は1年かからずたどり着いた。我が弟子ながら、末恐ろしいねぇ」


 そんなことを言いながら満面の笑みを見せるのが師匠だ。


 だが、俺はあまり機嫌が良くなかった。

 別に今日に限ってのことではない。

 ここ最近はずっとそうだ。


 不機嫌の原因は半年前のとある事件にある。


「まぁこんだけ鍛えても魔法1発でやられる運命なんでしょうけどね……」


 そう、半年前のある少年少女との出会いだ。

 ゲンゼディーフとサテラインだったか。


 あの時以来、魔法でワンパンされたショックはじわじわと俺を(むし)ばんでいる。


 何のためにこんな荒業に耐えているのか?

 こんなアホみたいな修行をしたって魔術師相手には手も足も出ないんじゃないか?


 荒業に半年耐えて、自分に自信が出てきたタイミングでのワンパン。

 モチベーションへの影響は必至だった。


「おやおや、まだそんなことを言っているのかい? 何度も言っているように、不意打ちだったんだろう? 油断してたところに強力な魔法を撃ち込まれたら、私だって一撃で意識を刈り取られてしまうよ」


 本当だろうか?

 俺を励ますために適当なこと言ってるんだろう?


「だから、アーカムが弱いわけではない。不思議にも君の『魔感覚』が働かないのは確かに魔法を使う相手には痛いハンデだ……けどね、それを補えるだけの十分な才能がある。気に病むことはないさ」

「はぁ……」


 と、まぁここまでの会話のやり取りはこの半年間で何度も繰り返した。

 ずっとやってきたやりとりだ。

 だから流れに沿って、いつもと同じ文句を言う。


「それなら対魔術の戦闘方法を教えてくださいよ」

「それも何度も言っているように、対魔術の戦い方は避けながら近づいて殴るだけだ」

「はは……ですよね」


 この答えもいつも通りのものだ。

 言っていることはわかる。


 避けろ!

 近づけ!

 殴れ! 蹴れ! 斬れ! ってことだろ?


 ならその練習をさせて欲しいのだ。

 だが、ここでいつも教育層の薄さ問題が露呈する。


「避けるのが無理だったら、あとは『鎧圧』で防ぐか、剣で斬り払うくらいかねぇ。レジストが出来なければ、それしかない」

「なら、その練習しましょうよ」

「おやおや、アーカム、何か文句を言いたそうな顔だねぇ」

「そりゃ、文句の1つも言いたくなりますよ。師匠の理論だとレザー流狩猟術は剣術、拳術、柔術、魔術を修める必要があるのに……そもそも師匠が魔術苦手だなんて。しかも俺は才能なさ過ぎて魔法使えませんし」

「うーん、これは耳が痛いねぇ……」


 師匠はこめかみをぽりぽり掻き肩すくめておどけてみせた。


 レザー流狩猟術は基本的に4科目からなるのだが、そもそも俺は魔術を使えないので、最初からこのレザー流の戦闘スタイルを真の意味で会得する事が出来ないのだ。


 その事実を知ったのが、半年前、つまりワンパン事件のすぐ後だった。


 モチベーションを下げにくる要因は他にもある。

 それは俺の師匠は魔術を大の苦手としていること。


 師匠の唯一得意とする≪発火炎弾(はっかえんだん)≫でさえ、1発の発射に長い「暗唱」を必要し、その威力自体大したことがない。


 言っちゃ悪いがエヴァに比べてればしょうもないレベルの魔法だ。

 故に師匠と魔法戦のシミュレーションは出来ない。


 ちなみに、師匠は拳や柔も苦手だったため、実戦レベルじゃ剣くらいしか使わなかったそうだ。


 いやいや! じゃあこの修行やらなくていいだろ! っと当時は盛大にツッコミを入れたものだったが……それでも師匠は荒業をやらせ続けてきた。


 師匠いわく「アーカムなら本当のレザー流狩猟術をマスターできる。魔術は使えないけどねぇ。ほっほっほ」という。つまり俺はゴールが塞がれた場所へただ突き進む、わけわからんサイコパス理論で苦しまされてきたのだ。


 もう前提が破綻しているじゃないか。


 そもそも魔術がなければ、そのレザー流狩猟術とやらは完成しないのではないか、と聞いたこともあったが「なんとかなるだろう」の一点張りだ。


 師匠は結構適当なところがある。


 ある意味、そういうところも含めて、師匠と俺は似ているのだけれど。


 もしかしたら師匠は俺に狩人の理想とやらを託しているのかもしれない。

 魔術が苦手な俺に自分の「理想の狩人」を託しているだ。


 半年前、俺がゲンゼディーフに魔術師としての夢を託したように。

 そう考えてると無下に出来ないのが人情である。


 話を戻そう。


 半年前、師匠と魔法戦の修行が出来ないなら、他の人とやればいいと俺は考えた。


 まず、第一候補はエヴァだ。


 彼女はレトレシア魔術大学を優れた成績で卒業した魔術師である。

 エヴァに修行を手伝って貰えば、いい練習になるはず、と思っていたのだがこの提案は即却下された。


 どうやら師匠はエヴァに「狩人の修行」をしている事を知られたくないらしいのだ。


 ならば第二候補……アディはどうだろうか?

 師匠に聞いてみると、これもダメだと言われた。


 エヴァに知られる危険性があるからだ。


 そもそも「今狩人になるために修行しています」という事は師匠以外誰も知らないのだ。


 アディはエヴァに逆らえないため、アディ自身に知られる事は大丈夫だとしても、どこで口を滑らすかわかったもんじゃない。


 だってアディなんだから。


 こうして、2人の優秀な練習候補を失った俺は頼る相手を失ってしまったのだ。


 今まで友達を作ってこなかった俺には、両親以外に頼る相手がいなかった。

 故に魔法にワンパンされたあの日から、具体的な対抗手段を得られず、悶々と過ごすハメになった。


「オラァァッ!」


 イラつきとともに近くにあった巨木を叩き折る。


「こらこら、そうイラつくものじゃないよ。何度も言ってるように私がなんとかやってきたんだ……アーカム、君だって避けて、近づいて、殴れば案外倒せるものだよ?」

「師匠は魔感覚もってるじゃないですか……」

「大丈夫だから。いずれ身につく。私は()()()()()。とにかくこのまま進みなさい」

「……はぁ〜」


 またふわふわした事を言う。

 折れた巨木に視線を落とす。


 時折思うことがある。

 なんで異世界に来てこんなに体鍛えてんだろ、と。


「必死に鍛えた肉体は魔術に引けを取る事はない。アーカムはまだ若い……幼いと言ってもいい年齢だから、わからないかもしれないがね。諦めず続ければいつかわかるはずだよ。見えてくるはずなんだ」


 師匠の、いつかわかるという言葉はズルい。


「……はいはい、わかりましたよ。じゃ次は柔術ですね。いいですよ、剣と魔法の世界で俺は素手で生き抜いてみせますよ」

「ほっほっほ、その意気だ」


 俺はもう自分がどこへ向かえばいいのかわからなかった。


 ー


 本日は休日、束の間の安息の時間。


 8歳の誕生日にプレゼントとしてもらったソリで雪が積もったクルクマの町を滑っていく。


 うん、すごく、楽しい。


「いいぞーシヴァ。ソリ引き名犬だな」

「わふわふっ!」


 エラやアレクも来たがったが、彼らはお留守番だ。

 マザーストップが出ては仕方がない。


 町行く人々の顔が浮かれている。

 それに最近は心なしか町中にカップルが増えたような気がしなくもない。

 年末だからか。すぐ別れるだろうに。愚かな奴らめ。


「あ、そこ曲がって」

「わふわふ」


 操縦は完全にシヴァ任せなため、ソリに乗って指示を出すだけだと手持ち無沙汰に陥る。


 外套(がいとう)の内側……腰に差してあるカルイ刀を取り出して磨くくらいしかやる事がない。


 ただの暇つぶしだ。


「ん?」


 短剣をかちゃかちゃいじり出した途端、なにかがおかしいことに気がついた。


 ソリのスピードが落ちている。


 何事かと顔を上げてあたりを見てみると、正面に大きな人集(ひとだか)りが出来ているじゃないか。


 町中年末お祭りムードの中、その人間の集まりはさらに凄いスーパーお祭りムードの気配である。

 みんな興奮した様子で中央に向かって叫んでいる。


「シヴァ、ちょっと待ってて」

「わふっ!」


 ソリから降りてシヴァを駐犬(ちゅうしゃ)させる。


 石畳みに積もった雪を踏み分けながら、人集りに近づいていくと段々何が起きているのかわかってきた。


「引くな! 引くな! 前に出ろ!」

「その馬鹿に引導を渡してやれぇ!」

「足を動かせ!」


 周りから罵声にも似た煽る言葉が聞こえる。

 間違いない、これはストリートファイトだ。


「グッド、実に興味深い」


 人集りに掻き分けて円の中心へ向かう。


「オラァッ! いけ! 一気に決めろっ!」

「腰が引けてんぞ!」

「馬鹿やろう!」


 罵声はますます大きくなり、肉を打つ打撃音も大きくなってきた。


「あ、ちょ、待って! 押すな! ちょ!」


 人壁を掻き分けていく。


 普通なら、なかなか苦労するところなのだろうが、ここは「剣圧(けんあつ)」を使って大人たちをどかせば余裕のよっちゃんだ。


「ふぅ」


 ようやく人混み中央にたどり着いた。


「馬鹿やろう! 負けるな!」

「あと一発くらい入れてやれ!」

「クルクマの意地を見せろ!」


 ちょうど決着がつくところか。


 ふらふらになったデカイ髭の男に対して、これまた筋肉質な金髪大男の右ストレートが炸裂する。


「ぶぐぅへぁっ」

「クソ!」

「またかよ!」

「あの騎士強すぎるぜ」


 髭の男はたまらず、数メートル吹っ飛び円を形成する人壁に突っ込んでいった。


「馬鹿野郎! なにやってんだよ!」

「こっち来るんじゃねぇよっ!」


 汗だくで地面へ足蹴にされる髭男。

 散々な扱い受けてんな。

 まぁある意味、負けたほうがああして罵声を浴びせまくられるのもストリートの様式美と言えるのだが。


「でも……あれは強烈だったなぁ」


 敗者のケガの具合をみて顔をしかめてしまう。

 鼻が折れており、顔が真っ赤に染まっている。


 めちゃめちゃ痛そうだ。

 これは流石に同情する。


 一方で右ストレートをかました、勝者の男へと視線を向ける。


 体を包み込む、うっすら()()()()のようなもの。


 雪が積もるような気温の中、半袖の服で動き回っていたらしいので、金髪男の体からは蒸気のようなものも出ている。


 後者は、誰の目にも見えているだろうが、前者はおそらくこの場のほとんどの人間は気づいてないんじゃないだろうか。


 間違いない。

 マッチョ金髪男は「剣気圧」の使い手だ。


「またやったー! さぁ! これでエイダム・フルボッコ12連勝だ! 王都からやってきた本物の騎士様強すぎる!」


 あの金髪マッチョ騎士なのか。

 どうりで強いわけだ。


 てか、王都からわざわざこんな田舎にまでやってきて、ストリートファイトで小銭稼ぎ?


 騎士様もセコいことするものだ。


「さぁ! さぁ! 挑戦者はいないのか!? 次で13戦目! 今なら疲弊してるぞ!?」


 司会っぽい男が野次馬たちを煽りまくる。

 声が張っていて喋り慣れている。どうやらかなり場数を踏んでいるこの道の玄人らしい。


「勝てば金貨2枚! 挑戦料はたったの銀貨1枚だ、あぁ〜お安い!!」


 お安い……お安いのか?

 俺は首をひねり外套の内側から財布を取り出した。

 ちょっくら財布の中身を確認してみよう。


「ぅぅ……」


古銅貨(こどうか)」が7枚と「銅貨(どうか)」が2枚かぁ……。

 全然足りねぇ、ダメじゃねーか。


 この喧嘩屋を倒して経験値にしてやるつもりが、最初からつまずいてどうするんだ。


 どうにかして戦いたいな。

 頭をひねって方法を考える。


 そうだ、シヴァを担保にするのはどうだろうか?


 シヴァは「柴犬」という珍しい魔獣なので銀貨1枚くらいの価値はあるはずだ。


「ふふ……なんてね……」


 最低か俺は!

 流石に却下だろ!

 いままでお世話になった愛犬を喧嘩挑戦料の担保にするなんて罰当たりもいいところだぜ。


 たが、担保という考え方は間違ってない、か?


 他にお金になりそうなものがあっただろうか。

 体をぺたぺた触って持ち物を確認。


「おや?」


 よし、良い物を見つけたぞ。


()()だな」


 俺は自覚ある悪い笑みを浮かべ人混みから一歩足を踏み出した。



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