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第183話 呪いは効かず、チュンさんは死なず

 

「アーカム」

「はい」


 緊張を感じさせないコートニーの声音。

 通路のさきに現れた、おおきな蒼花を指差し、俺たちはたがいに顔を見合わせる。


 どうやら、この学院では封鎖中にも関わらず、犠牲者が出ているようだ。


 巨大すぎるせいで、学生でも全体の構造を把握している者はおらず、教員も例外ではないという。


 それが、何らかの手段を講じて校内に侵入した部外者ならば、尚のことというわけだ。


 こんな危険な時期に、いったい何を考えてドラゴンクランへの侵入なんてしたのか。


 やらやれ、親の顔が見てみたい。


「安心するのですよ。クラーク先輩、チューリ、アーカムくんにはシェリーの『星刻』を貸してあげてますから、お兄ちゃんの作った≪呪術流転(スペル・サックリ)≫の効果対象に入っているのです!」


 手に持った分厚い本をかかげるシェリー。

 今朝から大事そうに抱えてる本だ。


 貸してもらった『星刻』、それはきっと隠し通路のなかで「今回だけ特別ですよ? 絶対にかえすのですよ?」と、ニタニタ嬉しそうに渡してきた、あの魔術の刻印(こくいん)のことだ。


 普段は服を着ていてわからないが、チューリいわく、シェリーの半身には『星刻』と呼ばれる、先祖代々の魔術師がつないできた、長い歴史に裏打ちされる大魔術の脈動が息づいているらしい。


 既存の多くを可能にし、新しい道を探すための力。

 それが俺たち探検隊、皆の手の甲には刻まれている。


 それぞれ違った光る紋様。


 これがさっき貸してもらった魔術の刻印であり、シェリーの兄貴が作って、シェリーが勝手に兄貴の部屋からもってきた、便利な身代わりの魔術の恩恵を受けるためのパスポートとなる鍵だ。


「さあ、チュンさん、ここで恩を売っておくのですよ」


 シェリーが華奢な手先を髪に添えると、青とピンクのグラデーションの髪のなかから、桃色の毛をした奇抜なかっこうのもちっとした(とり)が出てきた。


「私たちが受ける悪い魔法は、みーんなこのチュンさんが回収して、肩代わりしてくれるようにパスを繋げてあるのです。チュンさんに感謝するのですよ」


 腰に手をあてて自慢げなシェリー。

 飼い主のマネをするチュンさんが愛らしい。


「ちゅんちゅん!」

「呪いを肩代わり……ぅぅ、ありがとうございます、チュンさん」


 シェリーの指先にとまる桃色の鳥を人差し指の腹で優しくなでる。


「ちゅちゅん」


 うん、可愛いな。

 にしてもチュンさん、呪いを肩代わりなんて、この後、可哀想なことなったりしないだろうか?


 いきなりシェリーの肩の上で植物に変わっちゃうとか、怖すぎて嫌なんだけどな。


「くっ……チュン公、すまん。お前の事は忘れない。だから私たちの代わりに死ぬことになるかもしれないが、その時は手を抜かずにひとつ頼む。頼んだからな」

「ちゅちゅん」


 コートニーは眉根をよせて、チュンさんと自身の身の安全に葛藤した言葉をのべる。


 あのチューリでさえもが、悲しみを堪えきれない顔だおおげさに目元をふせる。


 そんな俺たちの反応を受けて、シェリーは楽しそうに微笑む。


「ふふ、チュンさんの事は心配しなくて大丈夫なのですよ。お父さんが誕生日にくれたすごい鳥なのですからね。えっへん♪」

「ちゅちゅん♪」


 どうせ俺たちを安心させるための嘘なんだ。

 きっと、この先には残酷な結末が待ってるに違いない。


 この作戦の安全は、すべてチュンさんの頑張りに掛かってると言っても過言ではないのだ。


 せいぜい彼女には頑張ってもらうとしよう。


 その(のち)、特にはばかられる事なく、俺たちは先日、禁止区画となっている旧校舎に侵入するための壊れかけの扉のもとへ到着した。


 旧校舎へ、いざ突入だ。


「待て、なんだこれは……」

「はい?」

「どうした、コートニー・クラーク、そんな険しい顔をして」


 立ちどまり、禁止区域をわかつ扉を凝視するコートニー。


 俺は浅慮を追求される予感を覚えた。


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