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第100話 無双魔法≪最後の場所≫

 

 地面に倒れ伏していたはずの怪物の姿が消えていた。

 薄暗く視界の良好とは言い難い遺跡内。

 一瞬見間違いかとも思ったが、確かに消えている。


「ッ! アーカム!」

「″アーカム!″」


 背筋に悪寒が走った。

 先ほどの戦い経験で得た勘を頼りに右へ身をひねりながら前へ倒れこむ。


 ゆっくりと流れる映像を捉える視線が致命の指先を捉えた。

 接触前に視認することはできた。


 だが、すでに指先は目と鼻の先数センチまで迫って来ている。

 銀髪アーカムと同化していない俺ではとても避けきれない。

 そう判断し、咄嗟に治したばかりの右手を使って怪物の腕を俺の顔面からそらした。


 ーーギュルル


「くぅうッ!」


 怪物の枝のような前腕に触れた瞬間、激痛が指先から駆け上がってくる。


 まずい、接触時間が長すぎる。

 このままでは全身持ってかれる。

 そうなれば抗えるすべなく即死だ。


「死んでたまるかぁあ!」


 咆哮を上げながら左手を「貫手」の形にして右方向へ持っていく。

 同時に右腕から右肩までの「鎧圧」を全面カットし防御力をゼロにする。

 左手の「貫手」が狙うのは自身の右肩関節だ。


 ーーグシャァ


「ぐぁああ!」


 左手の槍は狙い違わず関節を完全破壊し、右腕を肩から切り離した。


 ーーギュルルル


 目の前では先ほどまで俺の右腕だったものがなんの抵抗もなく、ただの捻れた干物のようになっていく光景がリアルタイムで流れていく。


「″いやぁああ!? アーカムぅぅう!″」

「ぐぅ、ぅう!」


 ボタボタと流れ出す命の熱を抑えるため、すぐさま血式魔術による止血を施す。

 ポーションはもう無い。

 こんな事になるならさっき使わなければ良かった。


「捨てないで」

「″やだ、アーカムぅぅ、ぅぅ、ぅ……ごめんぅぅ……ッ″」

「は、やく、戻れ……ッ!」


 絶望の表情で泣く少女。

 謝りながら胸に突っ込んで来るようにして内側へ戻った。


「はぁ、はぁ、まずい……」

「捨てないで」


 銀髪アーカムと一体化していない状態を狙われるとはな。

 これは一本取られた。


「捨てないで、お父様」

「へへ、はぁ、はぁ、ぐっ……口調も達者になってるな、おい……笑えねぇ冗談だ……ぅ」


 全身から吹き出す玉のような汗。

 さっきの無茶な回避で呼吸も乱れてしまった。


 だが、気持ちだけは崩さない。

 こんな時、自分を支えるのは気力、気兼ね、根性、気持ち。

 そんなスピリチュアルなもんなんだ。


 本当の闘争の中じゃ、案外、精神論も馬鹿にできないから困っちまう。

 俺は理屈の方が好きなんだけどな。


 はは、ふう、よし良いぞ。

 俺は冷静だ。

 クールでクレバーに行こうぜ。

 相手をよく観察するんだ俺。


「捨てないで、捨てないでよ」


 上達した喋りを見せる怪物。

 先ほどまで枯れ枝のような手足だったのに、今ではソフトマッチョな肉体へと変化ーーいや、進化している。


 身長も若干伸びて現在は180ちょいありそうだ。

 ちなみにこちらは現(・)状(・)1(・)6(・)5(・)セ(・)ン(・)チ(・)。


 そして先程から気になっていたこと。

 まだなにか能力を持っている可能性が浮上した。


 それまるで「突然背後に現れる」とでも言うべきか。

 視線を外した瞬間にすでに背後にいる。

 どうやらあれは高速で動いている、というより瞬間移動ーーテレポートよりな気がする。


 空気の流れから行き先を推測しにくい。

 非常に厄介な力だ。


「はぁ、はぁ、ぅぅ」


 こちらは腕を持っていかれた。

 出血自体は止めたから問題ではない、が。

 明らかに強化された怪物と明らかに弱体化した狩人助手。

 誰が見ても戦況の悪さは明らかだ。


 なんでだ?

 なんで進化したんだ。


「捨てないで、捨てないでぇ」


 ソフトマッチョに仕上がったツチノコの筋肉を見ながら思考する。


「はぁ、はぁ、そうか……」


 まったく襲ってこない相手に見ていてひとつ気がついたことがある。


 こいつは干からびていてミイラだったんだ。

 ということは先ほどまでの枯れ枝状態から進化したのでは無く、元に戻った、と考えるべきなのか。


「捨てないでね?」


 俺が思考をまとめるより早かった。

 怪物のささやきに睨み合いの続いた膠着戦況はツチノコの姿がかき消えた事によって崩された。


「ッ! 後ろか!」


 すぐさま前転して、同時に杖を抜く。

 効果はなくとも距離をとらなければ危険だ。

 カウンター系の能力だと判断したが、さっき腕を押しのけただけであの雑巾絞りは発動した。


 つまりあれは単純に触れたらもうアウトな力なのだ。

 こっちは触れられたら防御力関係無しにゲームオーバーだと言うのに。


「捨てないで」

「はっ!?」


 声の方向を察知して背後に死神の存在を錯覚する。

 ツチノコが自身の後ろに瞬間移動したかと思ったのに実際は真逆。


 声の聞こえた前方を見れば、そこには前転する俺を迎え入れるようにして、両手を広げて即死の抱擁をしようとするマッチョが待ち受けていた。


「くそっ!」


 手首のスナップを効かせて、杖を返し前方へ魔法を撃ち出す。


 ーーハグルッ


「ぬ」


 魔法はたしかに怪物へ命中した。

 だが、怪物へもたらされた効果はその肉体を数十センチ後方へ移動させただけ。


「捨てないで」

「ッ!」


 魔法への耐性が出来ているのか、あるいは単純にパワーが上がって踏ん張りが強くなったのかはわからない。

 どちらにせよ今はそんな事を考えている時間では無いことくらいはわかる。


 ここ一番、ここが俺の人生が終わるか続くかを分かつターニングポイントだ。


 極限の集中力を持って僅かに空いた数十センチを最大活用するため、前転を空中前転へ切り替える。


 そうして低空かかと落としの要領で、怪物のつま先1ミリの直前に俺の足先をつき、地面を蹴ってすぐさま後方へ飛んだ。


「この野郎! 単純に速ぇえ!」


 知覚に引っかからず、速くて、触れたら即死。

 なんなんだこの無理ゲーは。

 強すぎる。


「ん、あれは!」


 理不尽な状況を嘆いていると、ふと視界に入ってきたものがあった。

 シゲマツの死体である。

 ただ、半分ほど肉塊はどこかへ行ってしまっていたが。


「はぁ、はぁ……なるほど。食ったか」

「捨てないで」


 最近読んだ、魔物の活動研究についての論文に記載されてた怪物の観察報告を思い出す。


 長期休眠から目覚めた魔物の中には、起きてすぐ捕食活動を行える個体が多数存在する。

 一般生物の場合、冬眠から覚めた段階では胃袋が縮んでいるケースが間々ある、が、そこは流石というべきか魔物・怪物たちはこの常識に当てはまらない


 どうやらこのツチノコもしっかり怪物しているらしい。

 その証拠によく見ると怪物の口元に血が滴っている。

 こいつは殺したシゲマツを食ったのだ。


 それでパワーアップしたと。


「ッ!」


 こちらが疑問の答えを導き出している間にも、怪物は次なる行動に移っていた。


 またまた姿がかき消えたのだ。


 そして例のとおり遺跡内の壁が無造作に破壊されていく。

 怪物の膂力の増した四次元駆動に地下遺跡は今にも崩壊しそうだ。


 実は最悪の場合≪激流葬(げきりゅうそう)≫で全部吹っ飛ばせば良い、と考えてはいるのだが、この感じだと俺が奥の手を使う前にツチノコに遺跡をぶっ壊されそうだ。


 ここが崩壊すればきっと王都へ大きな被害が出る。

 それはなんとか食い止めたい。


 もちろん、王都への被害が甚大であるため俺も≪激流葬(げきりゅうそう)≫なんて使いたくはない。

 こんな場所であれを使えば間違いなく王都で死人が出る。


 現在、俺は魔法に関してはそれなりに上達してきたとは思っている。

 相変わらず決闘では例の二つの魔法しか使っていないし、ほかの生徒に比べたら遥かに仕える魔法は少ない。

 でも決闘の戦績はかなりいいし、魔力の操作も初期に比べたらだいぶましになってきた。


 本当に上手くなってきてるんだ、でもね?

 そんな今の俺でもまだ≪激流葬(げきりゅうそう)≫だけは全然掌握出来ないんだ。

 最後に≪激流葬(げきりゅうそう)≫を放ったのは2ヶ月前。


 エレアラント森林で軍人に放っときより、侵蝕樹海で放ったとき方が破壊の規模が大きいというアヴォンからの情報を得た俺は、ちょっとした仮説を立てた。


 これもしや撃つたびに威力上がるやつじゃねーーだ。


 そうして俺は自身の最後の切り札がどれくらい威力があるのかと試しに平原でぶっ放した事があった。

 トリガーハッピーならぬマジックハッピーになったわけではない。

 あくまで実験のつもりだった。


 同伴者はアヴォン。

 地平線まで続く平原。

 アヴォンによると向こう何百キロは山と森と草原があるだけという話だったので、俺は気絶を覚悟して全力で魔力を解放した。


 結果は最悪。

 俺の≪激流葬(げきりゅうそう)≫は想定をはるかに超える破壊をもたらして、草原を突っ切り、山に穴を開通させ、森を焼いて、農村の放牧羊たちを消し飛ばし、さらには国境を超えてゲオニエス帝国とローレシア魔法王国を繋ぐ大橋をぶっ壊してしまったのだ。


 この事件は当時盛大に世間を騒がせた。

 そして俺はギルドの職員に死ぬほど怒られた。


 あの時はいつ檻にぶち込まれるのか恐怖して、震えた時間を過ごしたものだ。


 幸いにもあの事件で死者は報告されていない。

 信じられないような奇跡の賜物だ。

 それにアヴォンやアビゲイル、その他俺の知らないところで多数のギルド職員がせっせと走り回ってうまーく隠蔽してくれたので、なんとか俺は学生を続けられているのだ。


 とにかく、あの魔法は本当に本当に、本当に最終手段だ。

 あんな物を王都の地下からうち放ったら数万人単位で人が死ぬ可能性だってあるんだ。

 きっと怪物が暴れまわる以上に俺が人を殺すことになってしまうだろう。


「ツェア!」


 空気を殴って迫り来る怪物から距離を取る。


「ぅ、す、捨てないで」


 確実に「空的拳打」は当たっているのに、先ほどのように怪物のボディに穴を穿つ事が出来ない。


 ましてや吹き飛びすらしない。

 ただ、衝撃波で遺跡が崩壊していくだけだ。


 まずい。


 ここで「遠隔系」の攻撃が苦手なのが裏目に出てくるとはな。

 俺の衝撃波飛ばしではもうこのソフトマッチョなツチノコに効果的なダメージを与えられない。


「捨てないで」

「ぅうッ!」


 怪物の神速の拳を紙一重で回避。

 もみあげの髪を抵抗なく持っていかれる。


 ーーバガァアッ


 背後で遺跡の崩壊する音が聞こえる。


 ーーブシュ


「あ?」


 怪物の拳が纏う空気圧に触れただけで、耳が根こそぎえぐり飛ばされてしまった。

 触れば側頭部が血まみれだ。


 この怪物技術ではなく、ただ膂力にモノを言わせて空気を殴ってやがる。

 その威力ーー俺の「空的拳打」以上。


「捨てない、でね、ね?」

「う、へへ、あは……はは……」



 はは。


 おい。


 ふざけんじゃねぇよ。


 俺の中で何か糸のような物が切れてしまった。

 理不尽な力の差に怒りがこみ上げる。


 苦手だった衝撃波飛ばし系の練習を頑張ってやってさ、それでかなり良い感じに仕上がったと思ってたのによ。

 なんで何の修行もしてねぇ、ただ地下で眠って、ウサギ食っただけの奴に抜かされなきゃいけねぇんだよ。


 こんなのあんまりだ。

 俺が他の多くを犠牲にしてどれだけ修行に打ち込んで来たと思ってるんだ。


「ふざけてんじゃねぇぞォオ!」


 突如湧き上がった激情に頭が支配されていく。

 自身の研鑽がただ理不尽に越えられたことをまじまじと見せ付けられたからか。

 はたまた、もうそれしか手段が残されていないからか。


 そこに迷いはなく、決断は一瞬だだった。


 アヴォンには使うなと言われていた。

 だがもう知ったこっちゃない。


 周りへの被害なんて知らない。

 だって俺まだ狩人じゃないもん。

 知らないよそんなの。


 俺は戦いたくてこんな怪物と戦ってるんじゃないんだ。

 これは本来はアヴォンの仕事だろう。

 やってやってんだから感謝しろよ、あのふけ顔オールバックがよ。


 ピンチのときやけくそになって必死に自身を正当化する癖は、このときもしっかりと反映されて、アヴォンへ悪態をつきながらの覚悟を俺に促させた。

 腰に差してある「哀れなる呪恐猿(ReBorN)」へ手を掛ける。


 最終手段1の≪激流葬(げきりゅうそう)≫とは違うも(・)う(・)ひ(・)と(・)つ(・)奥の手、最終手段2を使う為には、やばり杖を使い魔力量に訴えかけなければならない。

 だが、奥の手を使うには42単語による暗唱が必要だ。

 まだすぐに発動できる練度の無詠唱魔法ではない。


「ふるぁア!」


 迫るツチノコを全力の「空剣(からけん)」でぶった斬る。まずは距離をとらなければ。


「捨て、ないで」


 圧を束ねた刃に切り裂かれても数メートル後ずさっただけで首をかしげる怪物。

 袈裟懸けに確かに斬ったはずなのに、血の一滴も流れていない。


 つくづく俺を怒らせるのが上手い野郎だ。

 すぐにぶっ殺してやる。


 後ずさった怪物に対し、こちらも後方へ飛んで距離を開ける。


「エル、タ、サイキック、エイカムーー」


 重要単語だけ素早く詠唱し、そのほか全てを暗唱で済ます。口と脳内で詠唱する多大な集中力を用いた裏技だ。


 体の内側から湧き上がってくる熱。

 無限にも感じられる途方もない量の魔力が内側から徐々に溢れ出てくる。


 貯水タンクに直接取り付けられた蛇口をひねるイメージで開放される魔力。

 いや、これはもはや貯水タンクなんて規模では無い。

 海、海だーーそれも大海だ。

 無限の源に取り付けられた蛇口を捻っていたのか俺は。


 魔術式が満たされていくと同時に、だんだんと肉体という枷に囚われた何かが外れていくのを感じる。

 いつの日か感じた全能感の片(・)鱗(・)が今たしかに俺の中へ注ぎ込まれていた。


 いよいよ全身から寒色の純粋魔力が溢れ出す。

 よし、正常に発動できる。


 だんだんと引き伸ばせれていく意識の中。

 最後のトリガーを引くーー。


「魔力解除、≪最後の(The Goal)場所(Of All)≫」


 怪物が戻ってくる前に魔法の発動が完了。

 魔法の発動と同時に自身を縛っていた枷が外れたのを確信した。


 空気を震撼させる寒色のスパーク。


 内側から溢れ出る純粋魔力を全身に纏い、内包する体内魔力量が爆発的に大きくなっていく、


 腕はみるみるうちに太くなっていき、余裕のあった前腕部分のローブの丈がどんどん短くなっていく。

 脚部も尋常じゃない早さで太くなり、身長も本(・)来(・)の(・)身(・)長(・)へ戻っていく。


 シャツは内側からはち切れて、ローブの背面は裂け、ズボンはパンパンに張り窮屈感を感じさせた。


 圧倒的な筋肉の密度・体積の増加に比例して、体重も急速に増加していく。


 明らかにサイズの合っていない服のせいで、筋肉の溝が鮮明に浮き上がってしまい危ない雰囲気を意図せずかもし出してしまう。


 そうしてどんどん大きくなった自身の体に満足する。

 今の俺なら何だってできる。



 ーー俺様たちはいま間違いなく世界最強だ。



 本来の身長は185センチを取り戻し実に気分がいい。

 彫刻のように美しいボディだ。

 俺様たち自身でも惚れ惚れしてしまう。

 地球でこの姿を披露すればオリンピアを制することも容易いだろうな。


 夏休み以降、加速度的に成長の割合は大きくなっていき、ここまで大きくなってしまったのだがーー。

 これは自分より劣る者たち見下ろすという意味でなかなかどうして悪くない。


「捨ぅぅてぇぇなぁぁーー」

「……ん?」


 ソフトマッチョな怪物の口調がやけに間延びして聞こえる。

 あまりにも遅い、すべてが遅すぎる。


 呆れて怪物から視線をはずせば、地下遺跡の天井から落ちてくるちり一つでさえ明確に視認できるようになっている事に気がついた。


 空気の流れすら視覚で完全に把握することができる。

 だが、あまりにも目がよすぎる故に見たくないものまで見えてしまう。


 空気中を舞う大量の砂塵(さじん)だ。

 俺様たちの許可なく勝手に舞っている塵たちに眉をひそめる。


 この塵たち全員ぶち殺してやりたい気分だが、さすがに無機物を殺すのは骨が折れる。


 仕方ない。

 こちらが動こう。

 地上に出るか。


「なぁぁぁいぃぃーー」

「黙れ、許可してないだろう」


 やかましい奴だ。


「でッ!?」


 怪物の首根っこを躊躇なく鷲掴みにして、地面を蹴る。


 ーーバガァアアアアンッ!


「キィエエェエーー」


 ーーボギィ


 首をへし折り動かなくなった死体を片手に地下数十メートルから跳躍し、地面の中をぶち破りながら一気に上空へと舞い上がる。


 地面の下から爆発するように弾け、都市の一角が数件の家屋を巻き添いにして崩壊をはじめる。


 しかし、そんな物は気にならない。

 俺様たちに関係ない。


 酸素がわずかに薄くなった王都の遥か上空。


 雲の上から眺める王都はとても小さく、この高さから全てを見下ろす自分が神になった気分になる。

 いや、あながち間違ってないか。

 今の俺様たちはいるかもわからない神なんかより強いんだから。


「あんな豆粒みたい奴らいくら殺したって誰も怒りはしない。俺様たちが一番偉く、強い。俺様たちに勝てる奴なんて誰もいないんだ。なぁ?」

「ェ、ェエ」


 片手に持ったゴミ切れに話しかける。


「ん? 腕無ぇじゃねぇか」


 自身の右腕が喪失している事に気がついた。

 あぁ、そっか。

 さっきこのカスにやられたんだったな。


 とりあえず腕(・)を(・)生(・)や(・)し(・)て(・)お(・)く(・)か。


 ーーグシュ


「ふむ。流石は俺様たち」


 瞬きの後に再生した腕に満足する。

 上昇する速度がういに重力加速度に打ち消され、ようやく落下が始まった。


 欠伸が出そうなほど呑気な速度の中、落下する王都を見やる。

 先ほど地面から飛び出した事によってトリスタ区ーー東第3区ーーの一画はすでに崩壊が始まっているようだ。


 地面に空いた直径50メートル程穴へと地上の建物がゆっくりと吸い込まれていくのが、リアルなハリウッド映画を見ているようでなかなか面白い。


 そうして強制参加させられたエキストラの、ゴミのように小さい王都民たちは広がっていく穴から逃げ惑う。

 通りは大混雑。

 細い路地にも人がぎゅうぎゅう詰め。


 可哀想な奴らだ。

 上から見ると哀れで無力な奴らの動きがよくわかる。

 弱くて逃げ回ることしか出来ない生物たち。


「少しだけ慈悲をくれてやるか」


 仕方ない、王都郊外に着地だ。


「俺様たちは優しいからな」


 あたり一帯の雲を吹き飛ばす衝撃波を発生させるべく空気を蹴りつけるーー。


 と、その瞬間、蹴りつけた足元の空間が「割れて」しまった。

 まるでそこにガラスでもあるかのように、透明な空間がひび割れつま先に物理的感触が走ったのだ。


 何が起こっているか良くわからないが、とにかく俺様たちがすごいってことはわかった。


 楽観的思考でそのままガラスのような、空間の割れ目を足場に「縮地」を行い、落下方向を遥か遠くに変更。

 数十億ジュールのエネルギーをもって打ち出された至高の体は稲妻のような速度で地面に突っ込んだ。


「はい〜着地〜」


 大規模なクレーターに飲み込まれたあたり一面雪化粧された平原が見渡しあくびをする。

 放射状に広がる亀裂はもはやどこまで続いているのかわからない。


 真っ赤に染まって膨大な熱量を含んだ、クレーターの真ん中でただひとり佇む。爽快だ。こうでなくては。この世には俺以外に立つにふさわしい存在などいないのだ。


 手に握られた肉片へ視線を落とす。


「ん? あぁ、死んだか。弱い怪物だったな」


 手に持っていた、名も無き肉片をえぐれたクレーターの中央へ投げ捨てる。

 つまらない奴だった。


 俺様たちが本気を出せばあんな奴にてこずる事なんてないんだ。


「ぅ、ぅん、そうだ、アーカム、出てこい。俺様たちが作り上げたクレーターを見てみろよ、素晴らしいだろ」


 破壊とは最高の解放だ。

 ぜひこの素晴らしき光景と至高の力を相棒に見せてやりたい。


「″ぅ、ぅう、な、何?″」


 少女は怯えた様子でゆっくりと、隆起した背筋から出てきた。

 その目はまるで知らない人間を見るかのようなひどく他人行儀なものだった。


「ふぅ……よし。力がコントロール圏内に落ち着いた」


 暴走していた思考のたずなを握る。

 そしめ自身から溢れ出る魔力が目減りして減少したことに安堵してホッと胸を撫で下ろす。


「あの技使ったら、すぐに出てこないとダメじゃないか」


 ふわふわと空中を漂う銀髪少女の頭を撫でおでこを小突く。


「″うぅ、よかった、よかったよぉ! 大きいアーカム、なんか怖いんだもん!″」

「よしよし。大丈夫。今はちゃんとお前のことわかるよ」

「″ぅうぅ、うぅぅ″」


 俺が完全に自我を取り戻したことに泣きじゃくる少女を撫でながら、クレーターの傾斜を歩いて上がっていく。


 さて、これからどうするか。

 勢いで奥義を使った以上、溢れ出る魔力はもう俺の意思では止められない。

 このままいけば数分で体のサイズが元に戻り気絶する筈だ。


 平原のど真ん中で眠るのは流石に危ないので出来れば王都に戻りたいところではあるがーー。


「″うわぁ、草木がみんな枯れていくよ″」

「ふむ。やっぱりアーカムが抜けてもこっちの効果は継続しちゃうか」


 足元を見れば、俺の周りの雪は溶けて草木が悲鳴をあげて枯れ果てていた。

 さらに地面はほろほろ崩れ、やわらかい耕された土のようになっていく。


 純粋魔力の垂れ流しによる魔力被害だ。


 放出した属性を持たない純粋魔力は放っておくとただの破壊エネルギーに変わってしまうことが近年研究でわかっている。

 まさに≪激流葬(げきりゅうそう)≫が良い例だろう。


 それゆえに俺自身から溢れ出る純粋魔力の破壊エネルギーのせいで、蓄積された力を解き放つ≪最後の(The Goal)場所(Of All)≫の最終形態になると、

 歩くだけで付近にある物全てを破壊してしまう超危険人物になってしまうのだ。


「ゆっくり歩いていくか」

「″そうだねぇ! ふふ、大きくなったアーカムってなんだがイケメンに見えるよ!″」

「おー、ありがとなー」

「″あぁ! またそうやって軽く流す!″」


 肩に捕まってスリスリしてくるアーカムの頭を優しく撫でる。


「″ぅ、ぅぅ、しょ、しょうやってナデナデすれば良いと思ってぇ!″」


 なんか言ってるが顔が腑抜けてとろけてしまっているのでちっとも恐くない。

 ただ可愛いだけだ。


 未だ中心部分に熱の残るクレーターから出て平原を見渡す。


 背後を振り返り隕石でも落ちたのかと疑うほどの穴を見下ろす。


 うん、実にやり過ぎた。

 絶対にアヴォンやアビゲイルに怒られるな。


「さてと」


 遥か遠くに見える王都へ視線を向けた。

 随分と遠くまで来てしまったな。

 本当に自分の身1つの力であんな事をしたのか疑わしくなってくる。


 ゆっくりと地面を踏みしめて歩き出す。


「ギルドの人たちにちょんと謝っておかないと……」


 後々の面倒ごとが待っていると思うと何とも憂鬱な気分だ。


 シゲマツの事はギルドになんとかしてもらって。

 あの怪物の件は……ギルドがなんとかしてくれるか。

 そんで街の被害はギルドになんとかしてもらって。

 クレーターは……ギルドが何とかする、してくれるよな?

 あぁそれにモチモチの方も探さなくちゃなんだ。

 あっちはどこ行ったんだ?

 頼むから殺されてるとかはやめて欲しいものだが。


 いや、後で考えよう。


 どうせすぐ魔力が枯渇して眠っちまうんだ。


 なんで一気に全部放出するかしないかの二択しかないんだろうか。本当に不便な体だよ、まったく。



 まぁいい。

 後のことは後の俺にーー俺たちに任せればいいだろう。


 

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